第十二話 リーシャとオーガ②

 ドゴォ!

 ドォン!


 聞こえてくる音。

 響いてくる音。


 いったいどれくらいの時間が経ったのか。

 もう体中が痛くて時間感覚すらない。

 その理由は簡単だ。


「あ、う……っ」


 リーシャはあれからオーガ達によって、ひたすらに痛めつけられていた。

 腹を何度も殴られ、建物に投げつけられ。

 はたまたボールのように腹部を何度も蹴り付けられる。


(村の人達は逃げられた……でしょうか)


 オーガを数体倒したことが幸いした。

 このオーガ達はリーシャにヘイトを向けているため、リーシャを痛ぶるのに必死。

 見てわかるほどに周りが見えていない。


(これなら、村の人は……きっとっ)


 ドゴッ!

 と、リーシャは地面に仰向けに引きずり倒される。

 その衝撃で後頭部を打ったことにより、視界が激しく揺れている。

 意識も飛びそうだ。


 けれど。

 それだけは絶対にしない。


(最後まで、リーシャは……諦めませ、んっ)


 オーガが人間の女性に対し、どんなことをするのかは知識として知っている。

 きっとリーシャも今から同じ目に遭うに違いない……だが。


(そうなれば隙ができるはずです……)


 その隙をつけば反撃することもできる。

 リーシャが諦めなければ、まだ完全な負けではないのだ。


「グへへ……オンナ、コドモ、ツクル」


「オンナ、フク、ジャマァ」


 と、リーシャへと手を伸ばしてくるオーガ達。

 リーシャは恐怖で目を背けそうになる。

 しかし、彼女は最後の抵抗とばかりに、決して目を背けず、オーガを睨みつけ——。


 ガッ!


 と、リーシャの思考を断ち切るように聞こえてくる音。

 その音の正体は。


 ガッ!

 ガガッ!

 ガガガッ!


 矢だ。

 小さく粗雑な大量の矢。

 それがオーガ達の体に突き刺さっているのだ。


(いったい、誰が?)


 リーシャは何とか頭を動かし、矢が飛んできた方へと視線を向ける。

 するとそこにいたのは。


「グゲ(その女は俺たちのだ)!」


「ゲギャ(この村は俺達の縄張りだ)!」


「グゲゲゲッ(その女を孕ますのは俺たちだ)!」


「ギャギャッ(オーガ達と決着をつけるぞ)!」


「ゲゲゲッ(いつも邪魔するオーガを殺せぇええええ)!」


 いったいどういう意味なのか。

 オーガ達を指差し、必死に雄叫びを上げている大量のゴブリン達。


(っ……このタイミングでゴブリンも来てしまうなんて)


 これではオーガの隙をついてもどうにもならない。

 続けてゴブリンの相手とする余力は、確実にリーシャには残されていない。


(それよりもガーベさんは? ゴブリン達がここにいるということは、ガーベさんの身になにか——)


 リーシャがそこまで考えた。

 まさにその瞬間。


 大量のゴブリン達が短剣を引き抜き、オーガ達へと飛びかかっていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る