第六話 互いの目的
時はあれから少しあと。
場所は宿屋の一室——リーシャの部屋。
なんかリーシャはよくわからない勘違いをしていたので……めんどいからそのまま利用することにした。
「冒険者として、危ない人を助けるのは当然だろ? だからもう感謝も謝罪もいらないよ」
「ガーベさん、本当に優しいです! ありがとうございます!」
それにリーシャと良好な関係を保っておくのは悪いことではない。
なんせ先ほど聞いた彼女の固有スキル『ジャスティス』は、ガーベにとっては脅威だ。
(スキルの無効化なんてされたら、どう転んでもリーシャを屈服させられねぇからな)
だから今は油断させる。
そして、油断したところをハメ倒す。
そのためには仲良くなることが必要だ。
まずは会話を弾ませる。
故に。
「ところでリーシャはどうして冒険者をしているんだ?」
「リーシャが冒険者をしている理由ですか? 普段はあまり教えないのですが、ガーベさんは特別です! リーシャの恩人さんですから!」
そうして話し出すリーシャ。
そんな彼女の話をまとめると、こんな感じだ。
リーシャの母は先代の魔王を討伐した勇者らしいのだ。
魔王を討伐したのち、彼女は二人の子供と共に暮らしていた。
けれどある日、そこに魔王軍残党による大規模な攻撃が来た。
その際、魔王戦で力を使い果たしていた勇者——リーシャの母は子供二人を守って死亡。
さらに、子供の片割れも行方不明になってしまったそうなのだ。
要するにだ。
リーシャの目的をさらにまとめると。
「生き別れの兄貴を探してるのか」
「はい! たいした理由じゃなくてその……すみません」
「人の目的に大小はねぇだろ」
ってか。
やべぇええええええええええ!!
(嘘だろおい。先代勇者の娘って……あの歴代最強の勇者アリシア・ブライトの娘か!?)
やはり神はガーベに味方している。
そんな逸材を地に堕とし、欲望まみれにさせれば視聴者数鰻登りだ。
「ケヒ、ケヒャヒャッ!」
「ガーベさん?」
「あ、いやすまん。それでなんだ?」
「いえ、その。ガーベさんが冒険者をしている理由はなんなのですか? 例えば……生き別れの妹を探していたりとかでは?」
「冒険者をしてる理由? そんなの——」
金。
主に借金返済。
超有名配信者になって楽して暮らしたい。
(ってか、そもそも俺は冒険者ではなくて配信者だ)
だがしかし。
リーシャに好感持たせるために、少しはまともなことを言おう。
例えば。
「人助けがしたいんだ。少しでもいいから、困ってる人を助けたい」
「う……っ」
「いや、なんで泣くんだよ!?」
「申し訳ありません。ガーベさんの心の清らかさと、志しの高さにやられてしまいました」
「あぁ、そう」
面倒臭い女だ。
まぁ、配信映えすればなんでもいいのだが。
と、ガーベがそんなことを考えたその瞬間。
「そうだ、ガーベさん! パーティを組みませんか?」
「パーティ? いきなりどうして——」
「リーシャ、ガーベさんに恩返ししたいんです! リーシャはこう見えても結構強いので、きっとガーベさんの役に立てます!」
「まぁ伝説の勇者の娘なら強いだろうな」
「はい! それにリーシャ、お兄様を探す旅をするのに必要なお金をギルドのクエストで稼いでいるんです!」
「クエストは困ってる人が頼む物。一緒にパーティを組めば、俺はリーシャの力を借りて人助けができる」
「そして、リーシャはガーベさんに恩返ししながらお金を稼げます」
「なるほど、確かにパーティを組むのは互いの目的に合致するな」
バカめぇ!
マジでバカめぇ!
(俺は最初からテメェを逃さないようにするのが目的だったんだよ! まさか自分からパーティ組むのを提案してくるとはな……これで逃さなくて済むぜ)
蜘蛛の巣へと、蝶が自ら好んで飛んできたようなものだ。
いつでも配信する権利を得た。
リーシャ・ブライト、マジで間抜け極まりない。
故にそう。
ガーベが返す言葉は決まっている。
「パーティか……そうだな、よろしく頼めるか?」
「はい、ガーベさん! こちらこそよろしくお願いします!」
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