#1-1 酒場の村

 どうしよう、筆が止まる。

夕暮れ時、寂れた村はずれの空き家で

私は机の前でかれこれ半時小さなうめき声を鳴らしていた。


 私の名前はディア・サン・リビーナ。

年齢は若いとだけ言っておきましょう。


由緒正しきリビーナ家のお嬢様で道楽のため世直しの旅に出ているの。


と言えば恰好がつくけど

実際はちょこっとだけ裕福なお家で生まれた。そこそこ美人なお嬢様。


そんな私が悩んでいる正体が目の前にある紙の束。


日記を書こうと思いついたのが1週間前で、

先日訪れた街で日記を買ったのが3日前。


さすがに使わなきゃもったいないと思い筆を持ったのが今しがた。


旅の記録を残す目的で書くと決めたのに書き出しが思いつかない。

そもそもどんな風に文章を書けばいいのか分からないし

私が書く言葉が正しいのか調べることもできない。


とりあえず、最初だから力を抜いて楽しく書いてみましょう。


『今日はとても何もない村に来ました。

 泊る宿すらないので村長さんに聞いたら

 外れにある空き家なら使ってもいいと言うので

 今日はそこに泊まっています。

 ご飯はありません。

 おなかが空いています。

 楽しい!!やったね!』


よし、いつか書き直そう。


今日はもう遅いし、明日しっかり書くために

早く寝て英気を養うことにしましょう。


そうと決まれば筆をおいてさっさと横になりましょう。

……机と椅子しかないこの小屋で。


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