第22話 対策
オフィリアを復帰させてからしばらくして、ハロルドもレオンも半死半生の状態になったので、透明マントの中でチャージしていた温度を吸い取り、エネルギー塊を作る遺物を放ったがめざとく、オフィリアに発見されたために一気に王手をかけることはできなかった。
神灯騎士団の団長であるオフィリアを潰せたのはいいが、できれば騎士団、魔王軍側の主力であるハロルドとレオンに関しては消しておきたかった。
今追撃をすれば、あの二人の素早さからして、透明マントから飛ばすために一瞬出ただけでも発見されれば殺される可能性もある。
引くことが現実的だろう。
案の定というか、ほんの一瞬しか身を晒していないというのに、ハロルドが剣を杖にしながら近づいてくるのが見えた。
相変わらずステータスの恩恵が大きすぎる。
クリスに脳内で命令を下して、飛んで現場から去る。
もしレオンにも見られていたら、あちらにも警戒されるかもしれない。
ーーー
「ほう。流石に今日では無理だったか」
山ゴブリンの村に戻り、今日あったことを伝えると世間話を聞くような感じでルイナはそう感想をいう。
脅威がそのままなので落ちついている場合ではないと思うが、ひどく余裕のある態度だ。
遺物が大量に手に入っているので、もう防衛など楽勝だと高を括っているのだろうか。
質が上がったとしても基本的に守る側が敵側の三分の一ほどいなければ、戦は成立しないと言われているというのに、遺物が強力といえどそれを覆すほどの力を持っているとは土台思えないが。
「別にそこまで気にしてないみたいだね」
「昨日見たかぎり、あやつらは手強い手合いじゃったからな。それに相手も同格の魔王軍幹部となれば、そこの魔王軍幹部がいたとしても難しかろう。考えて無理なことをどうにかなると言い張ってもいいことなどないからな」
「殴ることしか脳のない特にこれと言った強力なスキルも持たん粗野なあれと私が同じだと。貴様の品性を疑うぞ」
強力なスキルを持っている云々以外はほとんど物理一辺倒なのでクリスと代わりないと思うが、本人にとっては大事なことのようだ。
「ここにいる屈強な山ゴブリンのリーダーだから、舐められないために厳しい姿勢でも取るかと思ってたけど意外だね」
「別に儂がここの長となろうと思って長をやっておるわけじゃないからな。今ここで住んでいるものの中で一番長くここにいるからという理由で長をやっとるだけだからな」
長いこといると言っていたが、それでも外敵と同じ姿をしているというのにそこまでの村の長になれるだけの信頼を得られるのだろうか。
なまじなんの因縁がなくとも復讐心から抹殺しようとしてきたドムジを見ているだけににわかには信じられない。
山ゴブリンといえども、感情的になるのをそうまで割り切れるようではない気がするし。
「ドムジを見せられた後だと、敵と同じ人族であるルイナに対して、そこまで頼りにしているのがにわかには信じられないよ」
「あれは特例だからの。大概の山ゴブリンのものはまず壁の外で人と矛を交えることはないから、恨みをもつ以前の話じゃ」
「ドムジだけってことか。じゃあ、ルイナの言葉もあながち疑うほどのものじゃないか」
壁から外で人族を撃退をすることはないということから察するに、壁から出ている、特殊な状況下でしかなりたないこと。
ほとんどのゴブリンとは全く関わりのないことならば、ルイナも言葉も理屈としては通る。
「壁はどれくらいまで防げるとか、防げないとかはわかる?」
「どうじゃろうな。最強戦力である魔王軍幹部や、勇者などの攻撃は流石にこの壁に撃ち込まれたことはないからな。打ち込まれたがあるものだけなら、大隊ほどの人数から攻撃されてもびくともせんかったという記録があるが」
「未知数か。防げないよりもタチが悪いな」
「しょうがあるまい。今までは魔王軍側からしか攻められておらん上に、それも人族軍を撃退するついでのようなものじゃったからな。資源の何の情報もなく、強力な魔物がうろつく上、近くに村さえないこんな秘境を狙ってくるはずがないんじゃがな。人族が目をつけなければこんなことには……」
人族は欲望に素直だから、そんなことを言ってもしょうがないだろうに。
基本的にゴブリンの村を狙ったのも守っているからきっと何かあるはずだという、浅はかな思惑を抱いたからだし。
まあ、砦を見るだけでわかるくらいには、技術力が高いのを隠しもしなかったゴブリンの村にも問題はあると思うが。
「魔族についでとはいえ、目をつけられてた時点でもうすでに手遅れだよ。技術力があるのはいいけど、それを隠さないことにも落ち度はあると思うけど」
「それはな。砦を作るものはいても、巧妙に細工をできるものがおらんかったのだ」
世知辛いな。
そういえばあの鋼の門も一切の装飾が入っていなかった。
門としては無骨な感じでそれらしいと感じたが、そういう狙いではなかったのか。
「どうにもらならんことを話してもしょうがなかろう。敵に備えて話した方がいいと思うぞ。レオンが手負いならば、地形的な有利を利用したいと考えるはずだからな」
「勇者や騎士たちを無視してここを目指すというのか」
「目指すな。あいつは追い込まれた時に取れるだけの手段はできるだけ確保するからな」
「最初に魔族に備えた方がいいということか」
ルイナはクリスの進言に対して、顎を摩って思案げな顔をする。
魔族だけでなく、人族側にも気をつけた方がいいだろう。
こちらはクリスによって魔族側が碌な回復手段がないことはわかっているが、ハロルド側にはそんなことはわからない。
マスキオのような規格外の回復力を持った神聖術士がいると考えて、レオンとの実力差を埋めるために、残りの騎士団長と合流しながら、本来は最終目標であるこちらを先に取りに来ることも考えられる。
「騎士たちにも備えた方がいいね。来るタイミングまではわからないけど、騎士と一緒に来て、勢力的には一番小さいこっちから片付けに両者ともにかかってくることも十分にあり得るし」
「同時にか。正面から勇者や魔王軍幹部と渡り合えるのはクリスしかおらんというのに」
「問題などないわ。この前は精魂尽き果てた状態で戦ったために遅れをとっただけで、万端な状態であれば勇者など一瞬で処理できる」
この言葉を信じたいが、もし瞬殺できなければ、砦の壁を破壊されて、この砦内部で内戦となる。
できればここを生活する拠点としたので、生活の基盤を確保してくれる山ゴブリンたちを皆殺しにされるのは困る。
そうならないための策がクリスの頑張りに期待するだけというのはあまりにもお粗末だ。
せめて隙をつかれないように引きつけられる人員が欲しい。
「流石に手負いとはいえ同格の相手もいるし、その状況下で砦を気にしながら戦うのは難しいでしょ」
「まあ確かにそうじゃの。手負いの魔王軍幹部はクリスに抑えてもらうとして、勇者の方をどうにかして止めるしかないな」
「そっちで出せるものはいる? 多くいてもむざむざ殺されるだけだからできるだけ少数精鋭で腕が立つ人間が集められるといいけど」
「そうなると、ドムジとトリーナ、儂、お主となるか」
「その二人か。確かに思い切りの良さでドムジについては評価はしているけどあまり強くは見えなかったからな、というよりもなんで私が精鋭の一人に含まれてるの? 戦闘職でもないというよりも、どの職業よりも弱いとされている無職だから普通に足を引っ張るよ」
「お前の場合は無職は適応されん。勝ちたくば矢面に立て」
「ダンジョンを攻略しておいて、流石にそれはないじゃろうて。今、実力のあるものに逃げられたら構わん。それに儂がこうして茶を飲んどるのはお主の存在があってこそじゃからな」
ダンジョンが攻略したことで、変に過大評価されているようだ。
報告した時に戦闘による子細もしっかり伝えたはずだというのに、どうして結果ばかり重視するのだろうか。
本当に実力のあるものほどこうした気があるのだが、ただでさえ非力で一つ困難を乗り越えるだけでもギリギリであるというのに、無理難題を言われても困る。
この雰囲気的にルイナとしては決してここは譲れないと言った気迫を感じる。
変に断ってもあの手この手でハロルドと対面するように仕組むだろうし、素直にうなづいた方がいいだろう。
そうすれば無理やりやられるよりは、私にとって有利な条件を整えられるようになる。
ルイナからの提案ということもあり、私がいえば無碍にはしないだろう。
「そこまで言うのなら不本意だけど、ハロルドの前に出るのは受け入れるよ。でも私は戦闘能力については皆無だから。姿を隠して、要所要所でアシストを行うだけになると思うけど」
「構わん。構わん。アシストだけでも遺物を操れるものが一人増えるだけでだいぶ違うからな。それに騎士団長たちもくるからな。この村の連中が猛者たちに囲まれつつも動けるほど肝が据わっているもの少ないことを考えると、肝が据わっとるお主がいるだけでとても助かる」
肝が据わってても対応できないんじゃしょうがないとも思うが、砦の中でどうにかなるように祈るよりも、精鋭たちの隣にいる方が安全度がよっぽど高いので突っ込むのはやめた。
「それならそこの配置で騎士団長の情報や癖を知ってる私が敵にてわけか。じゃあしょうがないね。一応そこまで余裕があるかわからないけどできるだけ私が死なないように気を使ってもらえると嬉しいけど」
「ふむ任しておけ。この村で誰かを死なさんことに儂ほど長けたものもおらん」
「期待しとくよ」
私はここで一回受けただけなので、まだ正確にルイナの神聖術師としての腕前を把握できていないので気のない返事をしておく。
これでマスキオ神父以上の使い手なら最前線にいたとしても安全だと言い切れるが、先ほどの治療にかかる時間からしてそれは望むべくもないだろう。
できるだけ身を隠して、被弾を最小限にとどめた方が良さそうだ。
細かいところを詰めるとひとまず解散となった。
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