第2話 パーティ全滅の危機から一転
パーティ全滅の危機から一転。
魔王幹部を隷属させることができた。
勇者パーティーを死なせたことで、イスタリア王国に戻れば責を押し付けられて、即処刑になることは私が最底辺の無職であることを明白であることが偶に傷ではあるが、あのまま勇者パーティーについて行ったとしてもおもちゃにされて、ボロ雑巾みたいになって臨終するだけだったのでそのままよりは確実にましだったろう。
「お、お前。全身傷だらけじゃないか。よければ近くにある私の領地の治癒術師に診せてやろうか」
魔王軍幹部兼奴隷であるクリスが先ほどの勇者たちを惨殺した不遜な態度から打って変わって、甲斐甲斐しくそんなふうに提案してくる。
もう口調からすでに怪しい上に、自分の領地の部下に助けを求めて私を殺させようという魂胆が透けて見えている。
「行く訳がないだろ。行くなら首輪を引きちぎってあんた一人で頭でも診せに行けばいいじゃん」
「ヒ、ヒィ!」
否定を入れると、自分よりも強いものに対する耐性がないのか、クリスは一気に恐慌状態に陥る。
典型的な天邪鬼だ。
弱い奴にはどこまでも強い態度をとるのに、強い奴には途端に弱々しくなる。
くだらない甘言の類だったが、確かに勇者パーティーの奴らにおもちゃにされて傷つけられてついた傷もだいぶ具合がひどい。
どこかで治さなければ、そのうち痛みによる体力の消耗で倒れる可能性が高い。
生まれてこの方小突かれたり、鞭で打たれたりしてきたので、痛みに耐えることはできるのだがこればかりはどうにもならないだろう。
とりあえずは、できるだけ近場で尚且つ、協力的な神聖術師の治療を受けることを第一に考えたべきだ。
「近場で協力してくれそうなのは、前線にいるマスキオ神父くらいだな。できればクリスの部下がたんまりいるだろう魔王軍の近くには行きたくないが、しょうがないか」
「単独で前線に突っ込む気か。正気か」
人族の最大戦力の一角と謳われる勇者パーティーに単独で突っ込んだクリスに正気を疑われるとは。
というよりもまだ自分の領地に引き摺り込むことを諦めてないといったところが妥当か。
「正気だよ。前線と言っても直接かち合ってる場所から離れた後方だし、神聖術師が詰めているテントはその中でも一番後ろ。普通に行ければ接敵せずにマスキオ神父のところには辿り着ける」
「普通ということは、普通でない場合もあり得るということか?」
「勇者ハハーンはあれでイスタリオ王国の最大戦力だからな。何らかの方法で生死をすぐ確認できるようにして、王国が次の一手を打てるようにしている可能性もなくはない。精度によるけどハハーンが死んだ現在地まで把握されているとなると後方からお前がくると待ち構えている可能性が高い」
私が把握されている際の展開について意見を言うと、クリスはこめかみの血管を震わせて怒りを露わにした。
領地に誘うために取り繕った殊勝な態度が消え去り、矮小な人が強大な力を持った自分にあまつさえ歯向かって来ることに対する苛立ちが滲み出ている。
いい加減こいつの誘導にも辟易していたのでちょうどいい。
ついでにもし人族の戦闘になった時のためにこいつの敵愾心を煽っておこう。
「矮小な人が私に歯向かうだと?」
「歯向かうだろ」
「何ぃ!?」
「別に力が強いとされているのが勇者パーティーというだけで、絶対的な力が保証されているわけじゃない。職業にもスキルにも相性があることを考えれば、何百人もいる兵士の中にお前の力と相性がいい奴らがいないわけではないし、お前を倒せるかもしれないと判断するのは何もおかしいことはないよ。実際私とお前はすこぶる相性が悪く、一方的に隷属されているしな」
隷属の件も含めて諭すと、クリスは認めたくはないが、認めざる言えない事実に対して歯軋りをしながらそれ以上反論はしなかった。
理屈では認めなくてはならずとも、感情では認められないことをその表情が雄弁に語っている。
これならば前線で先頭になれば私が行った言葉を払拭するためによく働いてくれそうだ。
煽るのはもういいだろう。
「実際のところは実際に確認するまではわからないからな。人が歯向かうか、どうかもその場に行くまではわからない。とりあえずここから前線まで行くまでにお前を足にしたいがいい?」
「気にくわないが、言うことを聞いてやろう。ノロノロと歩かれても敵わないしな」
私が提案すると、俄然クリスはやる気になったようで急くように私を持ち上げて胸に抱く。
俗に言うお姫様抱っこだ。
ステータスがかなり高いおかげか、彼女の持ち方にはひどく安心感がある。
一番いいのは何も悟られずに、マスキオ神父と合流できればいいが、予感として悪い方の方がくるのが高い気がする。
そうなればまた前線の状況に合わせて、方針を修正する必要があるだろう。
場合によっては最前線に行って、各陣営とことを構える必要があるかもしれない。
できればそんな事態は避けたいが、人族の領土に帰れない上、魔族たちに取り入る選択肢がない私の身の上では贅沢は言えない。
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