隣の席の星乃くんに甘々な声で迫られています!

与那城琥珀

第1話 甘々な声で迫ってきます!

突然ですが、私は今、隣の席の星乃くんに迫られています!


「雪乃、ねぇ、こっち向いてよ。今日一回もこっち見てくれてないじゃん!俺よりグラウンドの方が好き?」

「グラウンドは嫌い!」

「あ、こっち見てくれた。きょーもかわいーね」

「っ……」

「あ、赤くなった」


 も、もうキャパオーバー。可愛いとか言われ慣れていない私はすぐに赤くなる。それに星乃くんは声が低めで男の人って感じがするから意識してしまう。屋上に呼び出され、星乃くんから告白、お試しという感じで付き合っている私達。(両思いなのでお試しじゃないような気がするけど)そこから待ち受けていたのは甘々な学校生活でした。


「雪乃?またそっぽ向いて……そんなに俺のこと嫌い?」

「は、恥ずかしい」

「何?」

「だから、恥ずかしいの!」

「え〜?恥ずかしがってる雪乃可愛いから見たい。ね?こっち見て?それとも強制連行されたいの?」

「されたくない!」


 私は赤くなった顔を隠しながら前を向く。すると急に腕が引っ張られ、どこかへ連れて行かれてしまう。顔を隠すために下を向いているから確証はないが、空き教室に向かっているのだろう。今すぐに逃げ出したいけど、しっかりと繋がれた手はどう頑張っても離れない。


「ほら入って。雪乃を抱きしめたい」

「や、やだ」

「なんで?」

「やなものはや!」

「じゃあ、お仕置きしないとね」


 そう言って星乃くんは空き教室に引き込むと、私を壁の方へと追い詰める。に、逃げ場が……すぐに横にずれようとしたけど右も左ももう既に逃げ場はなかった。


「雪乃、俺にハグして、それがお仕置きの内容。まず俺からお手本見せてあげるから、ちゃんと真似してね」


 わたしは逃げる隙もなく、星乃くんの腕の中にすっぽりと収まる。身長が170近くある星乃くんと148の私では当たり前だが差が凄い。


「ねぇ、雪乃は今ドキドキしてる?」

「し、してない!」

「ほんと?心臓の音聞いてもいい?」

「だ、ダメ!」

「なんで?ドキドキしてないんでしょ?ならいいじゃん!」


 そう言って私の心臓のあたりに手を当てる。し、心臓よ治れ!そんなこと思ったって触れられている星乃くんの体温を感じてしまっているこの状態で治るはずのなく……


「雪乃の心臓、凄いドクドク言ってるよ?これが平常?」

「平常だよ」

「へぇ、これが平常なんだ。それは嬉しいかも」


 そう言って、星乃くんはニヤリと笑う。そして私の腕や背中をツッーっとなぞる。すると私の体はビクッと大きく反応し、声にならない声が上がる。


「っ!」

「ビクってした。可愛い」

「星乃くんが変なことするからでしょ!」

「あれ?雪乃、星乃くんじゃなくて獅騎。でしょ?俺たち付き合ってるんだよ」


 苗字ではなく名前で呼べと?この状態で名前で呼ぶの?

 おそらく私の顔はもうすでに真っ赤になっているだろう。赤くなっていれば、もうこれ以上赤くならない筈、と思い、思い切って星乃くんの名前を呼ぶ。


「し、獅騎くん」

「っ……思った以上に破壊力半端なっ!」

「ん?なんか言った?」

「なんでもない。これからは獅騎って呼んで」

「え?」

「いや?」


 嫌じゃないけど、嫌ではないけれども……名前を呼ぶだけでドキドキして大変なのに、それを毎日?せ、せめて2人きりの時だけとかにしない?名前呼んで赤くなってる変な人だと思われたくない。


「だめ?」

「ふ、2人きりの時だけなら……」

「ま、今はそれでいっか」


 そう言って獅騎くんは私を解放してくれた。私はサッと獅騎くんから離れてしゃがみ込む。


「どうしたの?お手本見せてあげたんだから雪乃からきて」


 そ、そんなのいまの私にはできない!もう、心臓が壊れちゃうくらいドキドキしてるのにこれ以上ドキドキするなんて無理!


「早く、予鈴鳴っちゃうよ?」

「も、無理!」

「あれ?もっと違うのが良かった?例えばキスとか……」


 私はキュッと獅騎くんに抱きつく。細く見える体は意外にもガッチリとしていて、体が引き締まっている。体……


「体がどうかした?」


 声に出ていないと思っていたけど、声に出ていたらしい。


「やっぱり男の子なんだなぁ。と思って……」

「ふぅん、じゃあ、雪乃も男の子?」


 な、なんでそうなる?


「だって、筋肉すごいじゃん?体操?やってるんだっけ?この前大会の個人総合で優勝したとか言ってたから」

「獅騎君ほどじゃないから!」

「そうなの?十分雪乃も筋肉あると思うんだけど」


 というか私たちはなんて体制でこんな話をしてるんだ。いや、この話題になったのは獅騎くんが悪い。わたしの独り言を拾ったのが悪い。


 このときちょうど予鈴が鳴った。


「あ、なっちゃったね」


 こっちからするとやっと鳴った。だよ!


「このままホームルームサボっちゃお?いいでしょ?」

「よくない!」


 私はそう言って獅騎くんを引っ張って教室の外に引き摺り出す。


「え〜もうちょっとでいいから!」

「後は昼休み!今日も食べるんでしょ?」


 そう言って私はポケットから飴を取り出す。


「うん!」


 機嫌の良くなった獅騎を引っ張りながら早足で教室に戻る。まだ教室に先生は来ていないようだ。セーフなのではないだろうか?


「まさか雪乃から手を繋いでくれるなんて。俺幸せ!」


 私の耳元で話してそんなことを言ってくる。ぼんっ!と顔が熱くなる。それを隠すために手を離そうとしたが、獅騎くんが手を握って離してくれない為、下を向いていそいそと自分の席へ向かう。


「もう今日は獅騎くんと話さない!」


 そう言って私はそっぽを向く。そしてすぐに先生が入ってきて、朝のホームルームが始まる。私はそれを右から左に流しつつ。思った。そろそろ中間テストがあるのではないか?と。今回はやばいかも知れない。全く勉強していない。いつもいつも社会が赤点ギリギリで、今回は大丈夫だろうか?と思考を巡らせる。範囲を思い出したところ、まずいということに気がついた。


「雪乃可愛い」

「ね、こっち向いて」

「俺雪乃がいないと何にもできなくなっちゃう!」


 などなど私に話しかけてくるが、私は無視をしているふりをする。実際のところ全くもって無視することができないので、顔が赤くなっているのを必死に隠している。


「ふっ、どんなことしててもやっぱり雪乃は雪乃だな」


 どういう事だろうか?取り敢えず黙ってくれたのでよしとする。私は1時間目の授業の準備をする。そしていつものように1時間目が始まると獅騎くんがまた口を開く。


「真面目なところも可愛いし、ノートのはじに書いてある絵とかも可愛い。でも、雪乃が一番可愛いよ」

「雪乃かわいー、好き」

「っ!」

「そうやって俺の言葉一つ一つに反応してるれるなんて愛おしくて今すぐ連れ去っちゃいたい」


 とにかく甘い言葉をたくさんくれます。しかも耳元で。私と獅騎くんの机はくっついているから、耳元で喋っていても全く違和感がないのだ。何か聞いているようにしか見えていないのだと思う。必死に感情を落ち着けて真面目に授業を受けようとするが、獅騎くんのせいで全く集中できなかった。お陰で睡魔に襲われることはなかったけれど、授業の内容が全く頭に入っていない。


 そんな状況が4時間続き、やっと昼休みになる。私は飴と果物を持って教室を出る。給食があるから昼は必要ないのだけど、果物は別。なので空き教室でコソコソと食べている。


「雪乃、行こ」

「うん」

「返事はしてもいいの?」

「うん」

「そうなんだ。じゃあ、俺のこと好き?」

「……」

「返事は?」

「……」

「好き?」

「す、好き!」

「っ!もう一回!」

「も、む、り」


 頑張って好きとは言ったけど、もうしばらくは喋れなそう。何故なら緊張しすぎて心臓が大変なことになっているから。それなのに獅騎は私の事を抱きしめて背中や腕をつっっとなぞる。


「ひゃっ」

「変な声、出る、から待って!」

「そんな可愛い声出してくれてるのに俺が辞めると思ってる?」

「可愛くない、から!」


 背中がゾワッとして、びくんと体が反応する。いきなり耳に息を吹きかけられるとどうしても声が抑えられない。


「耳、弱いんだ」

「そんな、こと、ない」

「嘘だ。こんなに可愛い声出してるのに」


 そして昼休みはこの状態のまま終わり、もう少し、と言われ逆らえなかった私は見事に授業に遅れた。

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