第44話 電話口で声を高くするの『余所行きの声』って言うよね?
偶然と
俺からアイちゃんへの好感度が〈80〉というのは納得だけど、彼女が俺に委託好感度が〈72〉ってのは一体どういうことだ。
たゆねさんの話だと
「ねえ
「……え? ああ。別に何でもないよ。人の距離感みたいなモンだ。知り合いに貰ったんだ」
「ふーん。要するにオモチャってことね」
「ところで、羽鐘さんはなんで一人で居るの? 岩永さんと一緒じゃないとしても、デートは済んだんだから帰っても良かったんじゃ?」
『はい。ですが本日は接待交際という名目での休日出勤に該当いたします。念のため
「そゆこと」
そういえば、今日の分も派遣料を支払うんだよな。アイちゃんの電車代とかもウチ持ちなのか。今日のデートに使った費用分、
「じゃあ、もう
『はい』
「なら3人で一緒に帰りましょう」
『承知いたしました、
そうして俺達は3人揃って駅に向かった。
空席の目立つ車内では、泉希がアイちゃんに「岩永さんとはどんな話をしたの」「告白とかはされた」などと根掘り葉掘り聞いていた。けれど浮ついた話はひとつも無く、二人は本当に水族館を回っただけのようだ。
『時に水城先生。恋愛とはどのような症状なのでしょうか』
「症状っていうか、そうね。一緒に居るとドキドキしたり、その人の事をずっと考えちゃったりかな。
けど嫌な妄想で胸が苦しくなったり、時々嫌いになっちゃったり。それでも一緒に居ると安心して……気付いたら、嫌いになった分だけ好きになっちゃってるの」
頬を赤らめ照れ笑いを浮かべつつ、泉希は天井を見上げて答えた。一瞬だけ俺を横目に見たのが気になるが。
『なるほど。他にどのような身体的症状が見受けられますか』
「だから症状じゃないわよ。まあ恋愛も一種の病気みたいなものかしら……そうね、他には――」
止まる気配のないガールズトークに、俺は目的の駅に着くまで気配を殺すより他に無かった……。
◇◇◇
『――
「うん。いってらっしゃい」
翌日、月曜日。我が【
幸いことに昨日の女子女子しい空気感は持ち越されることもなく、二人は平常運転で業務に取り組んでいた。
夕方の配送に来た岩永君も、「昨日はありがとうございました」と明るく笑った。もちろん無理はしているのだろうけど、それを表に出さないのは流石だと思った。
しかしアイちゃんへの想いは変わらないようで、宝石のような瞳を輝かせ恥ずかしそうに手を振っていた。
驚くべきはアイちゃんも手を振り返していたことだ。相変わらずの無表情だけど、今までそんな事は一切無かったからな。あのデートが彼女の中の何かを変えたのかもしれない。
それはきっと小さな変化。だけどそんな些細な移り変わりが、少しずつ日々の中に溶け込んでいって、いつしか新しい日々と成るのだろう。
そして今また俺の元に、新しい日常が生まれようとしている。
◇◇◇
水族館デートを終えた数日後のことだった。普段どおり午前の業務を終えた休診時間中。医療用PCと睨めっこしていると、表の自動ドアが開かれた。
「こんにち――」
反射式の笑顔を浮かべてオクターブ高い声に切り替える。そうして患者様を出迎える準備を整えるも、現れたその人物に俺は声を失った。
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
調剤薬局では卸会社だけじゃなくメーカーから直接お薬を買うこともあるわ! 卸会社を通すより安いんだけど、数が少ないのがネックなのよね。
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