おバカにつける薬は御座いませんが惚れた腫れたに効くのはこちらです

火野陽登《ヒノハル》

第1章 羽鐘アイ

プロローグ

 「――では本日のお薬代、1220円になります。丁度お預かりします。こちらが明細書です。お大事になさってください」


腰まで伸びた黒いストレートヘアを輝かせ、薄桃ピンク色の白衣を纏う少女が、受付越しにペコリとお辞儀した。

 凛としながらも初々しくはにかんだ笑顔に、患者様も嬉しそうに会釈を返す。まだ15歳の高校生だというのに、もう立派な調剤薬局事務員だ。


 「なにジロジロ見てるの」

「いや、接遇せつぐう上手くなったなーと思って」

「なにそれ急に。患者さんもまだ居るのに……恥ずいんだけど」


憎まれ口を叩きながら、黒髪の少女は頬を赤らめてデスクトップPCの前に座った。素直になれない所もこれまた可愛い。


 『お話中のところ恐れ入ります、店長』


今度は店の奥から、ナイスバディな美女が現れた。

 豊かすぎる胸を純白の白衣に包む彼女は、能面のような真顔で俺を見つめている。けれどその冷えた視線に、敵意や侮蔑の感情は微塵もない。


「どうしたの?」

『こちらの処方箋の内容ですが、ドクターへの照会が必要かと思われます』

「そっか。じゃあ病院へ電話してもらえるかな」

かしこまりました』


抑揚の無い声でもってお手本のような会釈で応えると、たわわに実る豊胸を俺の背中に押し付け、受付にあるコードレス電話を取った。白衣服越しに伝わるむにゅっとした感触が俺の鼻と口を緩ませる。


 「ちょっと、そこ退いてよね、馬鹿店長」


爆乳白衣の美女と入れ替わり、今度はスレンダーな体躯の女性が店の奥から出てきた。彼女もまた純白の白衣を羽織っている。

 ツンと吊り上がった目尻に白い肌。控えすぎな胸を張る堂々とした姿には、自信と気丈さが伺える。どこか壁のある雰囲気を醸しながら、その瞳から沸き立つような熱も伺えて。


「誰が馬鹿だ、誰が」

「貴方以外に居ないでしょ。それより患者様に薬をお出しするんだから、受付そんな所でお馬鹿な顔を晒してないで向こうに行ってよね。邪魔だから」


「シッ、シッ」と追い払うような動きで俺を退かせば、打って変わって明るい声と笑顔で患者様の名前を呼んだ。


 これが我が【朝日向あさひな調剤薬局ちょうざいやっきょく】の日常。

 彼女たちは一緒に仕事をする大切な仲間。

 同時に部下であり家族でもある。

 彼女達と過ごすこの穏やかで優しい日々は、きっといつまでも続くことだろう。

 俺はそう思って疑わなかった。


 ……あの日までは―― 




-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------


 皆様はじめまして、こんにちは。本作に登場する薬剤師の水城みずしろ泉希みずきです。

 このお話は町の小さな調剤薬局を経営するおバカでスケベな店長と、私たち従業員によるドタバタな日常系ラブコメディです。

 医療の専門用語や複雑な内容は控えめになっているけど、この【TIPS】でも私が用語の説明をしているので、気楽に読んで頂けると嬉しいです。


 改めまして、この度は本作を御目に留めて下さり有難うございます。もし少しでも気に入って頂けたら作品フォローをお願いします!

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