第15話:死んだ後はどこへ
『皆さん、僕の演技どうでした? やっぱりインテリ眼鏡としては最期は性根の曲がった本性を曝け出して惨たらしく死ぬのがセオリーですからね。頑張りましたよ!』
銀丈の得意気な声が頭の中で聞こえてくる。
だが彼の姿は無い。彼の体は先程まで居た部屋に残されているのだ。それも粉砕機に下半身を押し潰されるという悲惨な状況のまま。
ゲームマスターを始めとするこのゲームの主催者達は遺体をどう処分するのだろうか。こんな事をするような者達が手厚く葬るとは思えない。どこかに埋めるのか、跡形もなく処分するのか、それとも無事な臓器を海外に売ったり……、なんて可能性もある。
そう春樹が話せば、声だけになった銀丈と真尋が『そうですねぇ』『そうねぇ』と揃えたように答えた。
『気にはなるけど、私の肉体は基本乗り捨てだから壊れちゃった肉体に入り直すことは出来ないのよ。もし既に処分場に持っていかれてても私には分からないのよね』
『僕は肉体に入り直すことは出来るんですが、その肉体が壊れていると動けません。なのでどこかに運ばれても探ることは出来ませんね』
『そうなんですね。僕も同じで、今の肉体での人生が終わったら直ぐに次の人生が始まってしまうんで、前の肉体がどうなるかは分からないんです。でも、そうなると、今の僕の両親は僕を探し続けちゃうのかなって思って……』
意識と記憶だけを引き継いで別の人生を何度も送り、そのたびに親が居た。時には虐待するような親がいたり親に殺されて人生を終えることもあった。
だが今の人生での両親はとても良い人達だ。きっと突然息子が帰ってこなかったら死に物狂いで探すだろう。もしかしたら残りの人生すべて費やしてしまうかもしれない。心も、時間も、金も、なにもかも疲弊させてもう居ない息子を探し続けるのだ。
それならせめて、どうしたって『息子の死』という悲しい目に逢わせてしまうのなら早いうちに事実を知って欲しい。そうすれば息子を忘れこそしなくとも、いつかは心の安寧を得ることは出来るかもしれない。
そう春樹が話せば、誰もが言葉を止めた。
実際に春樹を見つめているのは隣に立つ紅子だけで流星もメグも背を向けたままだが、それでも全員が労りの気持ちを向けている事は伝ってくる。
『あっ、すみません。変な話しちゃって。そこまで気にしてるわけじゃないんで忘れてください』
おかしな空気にしてしまったと春樹が謝罪をする。
だがそれに対して紅子が謝る必要はないと返してきた。そのうえ自分に任せてくれと言い出す。
『私なら、死んだ私の肉体がどこに行くのか分かるよ。この肉体に残って、処分された後にどこかを調べれば良いわけだし』
『え、出来るの? でも、肉体に残ってたら流星さんみたいに回復しちゃうんじゃ……』
『大丈夫。いつどんな風に回復するかは私次第だから』
不老不死と妖の違いというものか。
得意げに紅子が語り、この話に流星も『凄いな』と感心している。
『それなら、紅子さんにお願いしようかな。どこに遺体があるのかを調べて警察に連絡して貰えれば、僕の両親に伝えられるし。このゲームを世間に公表できるかも』
『オッケー、任せて! でもそのためには春樹と同じような状態で死んだ方が良いかも。私は肉体が綺麗なまま死ぬのに、春樹がぐちゃぐちゃのどろどろになって死んだら、春樹だけ下水道に流されちゃうかもしれないし』
『確かに。出来れば同じ状態で死んだ方が良さそうだね』
死んだ後のことを考えると、これからのゲームをどうするかも考えた方が良さそうだ。
そう春樹が話すと、今度はメグが『考えがある』と呟くように話し出した。
最初のゲームでは泣き喚き今も不安そうに流星の隣に座る彼女だが、頭の中の会話では誰より冷静な発言をする。肉体が幼児なだけで中身の年齢は幼くはなく、そもそも死神には年齢という概念がないのだ。下手するとこの顔ぶれの中で最年長かもしれない。
『考え?』
『そう。だから、メグの提案にのってほしい。……死神の提案に』
頭の中に聞こえてくるメグの声は幼い少女らしい可愛らしいものだが、それでいて底冷えするような冷たさと圧がある。
【死神の提案】
なんて不吉な響きだろうか。この言葉だけで幸せな結末が訪れないと分かる。
……分かる、が。
『もちろん、メグちゃんの提案にのるよ。どんな考え?』
『ねぇ、その提案って面白い? 何すれば良い?? 超楽しみ!!』
『良い考えがあるんならそれに越した事はないな。どんな提案なのか聞かせてくれよ』
現在生き残っている三人は乗り気である。
もちろん既にゲームに関与出来ない真尋と銀丈も異論を唱えるわけがなく、ノリノリでメグに早く話をと強請っている。
愛らしい幼女の顔で、それでいて頭の中の会話では恐れすら抱かせる圧を漂わせた声色で、メグが話し出した。
◆◆◆
先程まで居た部屋が倉庫めいた広さだったのに対して、扉を一つ抜けた先の部屋は十五畳程度の広さしか無かった。
体感で言えば目を覚ました時に居た部屋や最初のゲームをした部屋と同程度なのだろうが、広い部屋から一転すると狭く閉塞感すら覚えてしまう、
そんな部屋の中央には、ガラス張りの空間が不自然に設けられていた。
座り込むほどの広さは無く、まるで空洞の柱のように天井までガラス板が張られている。完全に隔離された空間だ。
ガラスは汚れや指紋一つ無く綺麗に磨かれており、あまりに透明過ぎてドアノブや蝶番が宙に浮いているように見える。
「なにこれ……、中に入れってこと?」
中に入ったらいったい何をさせられるのか。
そう考えていると、ブツと無機質な音が聞こえてきた。モニターが切り替わる音だ。
そこに写っているのは今回もまたゲームマスターである。
「ではこれより次のゲームを開始します」
淡々とした口調で告げてくる。
装飾された仮面とボイスチェンジャーで帰られた声では、この淡々とした言葉の裏にどんな感情が潜んでいるのか探ることは出来ない。
「また、なにかゲームをさせられるんですね……」/『なんだかあの仮面も見慣れてきましたね。むしろ今更素顔を見せられても違和感しかないもかも』
「……くそ、ひとが死んでるのにゲームだのふざけたこと言いやがって」/『分かる、俺もだ。というかあいつ生まれた時から仮面着けてたんじゃないか? それぐらいしっくり来すぎてる』
表では次のゲームに不安と苛立ちを覚えながら、頭の中ではゲームマスターの仮面について話し合う。
もちろんそんなことをゲームマスターは知る由もなく、相変わらず感情の窺えない仮面を顔に着けて話を続けた。
「皆様には順番に一人ずつ中央の個室に入って扉を閉めて頂きます。そして一から三までの数字を選んでください。そうすれば次の方に交代できます」
「数字を……?」
「申告頂いた数字が合計三十に到達すればゲーム終了です。次の部屋に繋がる扉の鍵が開錠されます」
ゲームマスターの説明は随分とシンプルだ。
順にガラスの個室に入り、一・二・三のうちのどれかの数字を選び合計三十を目指す……。
春樹も似たようなゲームをやったことがある。上限の数字や一度で進められる数が違うものの、総じて、規定の数字に到達してしまった者が負けとなる。
カードやサイコロといった道具を必要としない手軽でいて頭を使うゲームだ。
だが今回に限り、手軽とは言えないだろう。
ゲームで負けたらどうなるのか……。
そんな疑問を春樹が抱けば、まるでタイミングを見計らっていたかのようにゲームマスターが話を進めた。
「三十に到達した方は残念ながら脱落となります。残った方で次のゲームへお進みください」
ゲームマスターの口調は丁寧だが、これはきっと死の宣告だ。
ここにきてようやくデスゲームらしい死を条件としたゲームを突きつけてきた。
「制限時間は二十分。時間内に終了条件が満たされない場合、ゲーム放棄と見なし全員脱落となります。ではゲーム開始です」
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