【短編】先輩のその癖、知っています。

量子エンザ

第1話 九回目の告白

 なんで。なんでなんでなんで。


 なんで、つまらなそうな目をするの。


 こんなに想いを伝えてるのに。先輩のそのくせ、恋をしている時に出る癖だって知っている。


 告白した相手は、二年生の逢坂美紅あいさかみく先輩。


 先輩の所属している部活はバスケ部。アタックのキレがとてもするどく、ブレがない。それでいて足は速くて、スタミナも切れにくい。


 私、月森つきもり結愛ゆあも、このプレーを見てちょっとびっくりしちゃって。


 逢坂あいさか先輩はバスケ部はもちろん、学年でもかなり人気のある子。


 高校からは文化部でゆっくりやろうとしていたのだけれど、中学でもバスケをしていた経験から気が気でいられなくなった。


 そのプレーもすごくよくておまけに、いつも佇まいがきれいなの。


 長いまつげ、宝石のようなキラキラした赤い瞳、さらさらでなめらかな長い黒髪。少しだけ赤紫あかむらさき色のインナーカラーが入っていて……。


 私は惚れた。胸に矢印が突き刺さって貫通するみたいな。一瞬で仕留めたいって思った。


 それ以来ずっと先輩を追いかけているんだけど……。


 追いかけては告ってダメで、その次も告ってはダメでの繰り返し。


 周りもその美貌からか、よく告られていて、先輩は断っているのを見るの。


 他の人が美紅先輩に告白していて、玉砕ぎょくさいしているのを何回も見ると、面白いって思い始めてしまって。少しワクワクするというか……。


 私の悪い癖だって一応わかってはいるんだけどね。


 なかなか治せないの。仕方ない。


 で、ずっと観察していると先輩に癖があることが分かった。


 私の時だけなぜか、その癖があってほかの人の時は明らかに癖がない。


 ずっとなんだろうって思っていたんだけど、これってまさか と思った。


 それ以来、獲物を捉えるかの如く、強気で行くことにしてる。


 ……で、私の告白はこれで九回目。


 いまだ、皆と変わらない〝周りの人〟で。


 おかしいと思ってる。


 周りの人よりアドバンテージがあるはずなんだけど、うまくいかない。


 舐められてる? それとも何か決定的な間違いをしてる?


 ずっと考えているんだけど、わからなさ過ぎて押し切ることにした。


 今、部室で二人きりという、この状況は私が作った。


 今回で仕留めたい。今回で……この告白を終わりにしたい。


「私は、先輩の事が大好きなんです。どうして私と付き合っていただけないのですか?」


 壁ドンに近い状況。


 抑えきれぬ想いに、告白するシチュエーションがどんどん過激になっていく。


 右手が壁に、先輩がそのすぐ横。


 そしてすぐ前に逢坂……いや、美紅みく先輩。


 もう名前呼び慣れてしまった。


 美紅先輩の方が少し身長あるので、見上げる体勢になっている。


 でも顔と顔の距離が約二十センチくらい。とても近い。


 キスしたい、と思うほど近い。


「ダメなものはダメなのよ。出直してきて」


 抽象的ちゅうしょうてきだなと思う。いつもこうだ。


 その上、こういうときでも冷静で私の方がいつも通りでいられなくなる。


 ちょっと見惚みとれていたら、視界が真っ暗になった。


 顔にふわふわな細いきれいな手がかぶさっていて、石鹸せっけんの香りがほのかにしていて鼻孔びこうをくすぐる。


「ここまでね」


「あっ、ち、ちょっと私はまだ!」


 ツーサイドアップの髪をむちのようにブンブン振りながら先輩を止める。


「また今度聞いてあげるから。今日はもう夕方で暗くなってきたしおしまい」


 グググと私を引きがした。


 今日も……ダメだった。


 そのまま、部室に一人残され、美紅みく先輩は帰っていく。


 部室を出た時の夕日に照らされたつやつや々な黒髪は、優艶ゆうえんさをかもし出していてとても美しく、優雅ゆうがだった。


「あと、もう少し、あともう少しなのに」


 あのかわいい、手の癖は私の時だけしか見せない。


 私だけが知っている、先輩のかわいい仕草しぐさ


 思い出すだけでも、楽しい。けれど心は満たされないまま。


 私は、美紅先輩が好き。美紅先輩で満たされたい。


 先輩への想いは強くなると同時に、やるせない思いも強くなる。


 いつになったらこの恋は実るのでしょうか。


 誰か教えてください。

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