第48話 王子、老害に驚く

 コボスケにエルダートレントを離すように伝えると、僕はすぐに謝った。


「友達が迷惑かけてすみません」


『ほほほ、若いのは元気があっていいのお』


 エルダートレントはどこかお爺さんのようだ。話し方もゆっくりで、ほのぼのとした空気感が流れている。


 そう思っていたのは一瞬だった。


『あやつは無理やり腕を折りやがって、何度痛いと叫んでも止め――』


「ごめんなさい! 今すぐにでも注意しておきます!」


 どうやら根に持っていたようだ。すごく優しい言葉の裏には色々と思っていたのだろう。


 すぐにコボスケに頭を下げさせると嬉しそうにしている。


『ほほほ、舐め腐ったガキは年寄りへの言葉の使い方もわからんのかね』


 ん?


 これは僕に言っているのだろうか。


『そこは申し訳ありませんでしただよな? すぐに注意しておきますって何様のつもりだ?』


 矛先がコボスケではなく、僕に向いている気がする。その後も僕に対して文句を並べ続ける。


 ああ、これって貴族界でも問題になっている老害ってやつだろうか。


 流石に僕もイライラしてきていたが、それよりもヤバい奴らがいた。


『拙者、こいつぶっ殺す』

『いや、それはワシの役目だ』

『いやーん、私が無理やり犯すわ』


 様々なことを言っているが、エルダートレントにイライラしているのはみんな同じのようだ。止めようにも僕の力では止められそうにない。


 メアリーに助けを求めるが、彼女も不気味な笑みを浮かべていた。


「ヒヒヒ、一本ずつ枝を折るのがいいのかな? 一つ……二つ……ヒヒヒたくさん折れるから――」


 あれは僕が知っている妹だろうか。知られていないだけで、闇属性魔法を使うことによる副作用があるのかもしれない。


『今時の若いやつらは……おい、聞いているのか!』


 エルダートレントは言いたいことが言えたからか、どこかスッキリした顔をしている。


 年寄りになると、周りが見えなくなるって言うのは本当のようだ。





『申し訳ありません』


 さっきまでの姿が嘘のようだ。エルダートレントは体をしならせて僕に謝っている。確かにイライラはしたが、別にそこまで気にしていない。


 ただ、仲間思いのコボスケ達がどうしようもなかった。


 コボスケは葉を一枚ずつ引き抜いて、ヒツジは風魔法で木の表面を薄く削っていく。


 焼き鳥は火炙りするし、リザードマンはフォークで何度も刺していた。


 各々の容赦なくエルダートレントに攻撃している姿を見て、中々の残虐性を持っていると知った。


 ももとささみも参加したそうにしていたが、流石に教育上良くないから子ども達は止めた。


 途中からは家の資材に使えるから良いと目的が変わっていた。


『どうか幹の部分はやめてください』


 今も必死にエルダートレントは謝っているが、コボスケ達は聞く耳を持たない。


『おい、お前ら幹が弱点らしいぞ! アドルを傷つけられて黙っているやつはいねーよなー?』


『お前らいくぞ!』


 流石に見てて可哀想に見えてくる。僕は急いでエルダートレントの前まで走った。


「もう、そこまでにしてあげ――」


『へへへ、やはり馬鹿なガキは騙されやす――』


 エルダートレントは僕を締めつけるために、幹をしならせる。


 ああ、助けてあげようと思ったのにな……。


 僕は指先に魔力を集めていく。イライラしているからか、魔力の通りが良い気がする。


『おおおおおい、ワシは逃げるぞ!』


『拙者もあのアドルは怖いぞ』


 コボスケ達はすぐに立ち止まり逃げていく。今回はその判断で正しい。僕はお前達にこれを放つ気はないからな。


『ははは、お前ら情け――』


「クソジジイは黙っていろ! フィンガーフリック!」


 僕は振り向いた瞬間に、指に集めた魔力を解き放つ。圧縮された魔力は直接エルダートレントの幹に当たる。


――バゴオオオオン!


 大きな音を立ててエルダートレントは吹き飛んで行った。


「はぁ、清々しいな」


 空を見上げるととても良い天気だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る