第42話 王子、妹をいじめる

「終焉なる魔法神よ! 我が――」


 メアリーは呪文を唱えて周囲の魔力を集める。魔力を集めて放つことができるということは、魔法の才能に長けているということだ。


 基本的に魔法は自分の中にある魔力を使う。一方のメアリーは自分の魔力を少なくして、周囲の魔力を利用して魔法を放つことができるのだ。


 これが魔法神の申し子と呼ばれるようになった理由だ。


『なんだあの魔力は?』

『アドルきゅんには悪影響ね』

『なら拙者が飛ばすよ』


 コボスケは手を大きく振ると、風でメアリーに集まった魔力を吹き飛ばした。目では見えないが、確かに風で魔力が吹き飛んでいる気がする。


「なぁ、私の魔力が……それならブラックダスト!」


 あれは上位闇属性魔法だろう。


 闇属性の適性を持っている者はあまりいない。それを無詠唱で放てるのは、それだけ魔力コントロールの才能があるってことだ。


 僕にはできないメアリーの才能。


 闇属性魔法がレアなのはその威力と言われている。ブラックダストは触れた物を吸収して消滅させる。


 それが闇属性魔法の変わった特徴だ。


『この黒い塵邪魔ね! お肌に悪いわ!』


 カマバックは糸を出すと、ブラックダストをくっつけて一つにまとめる。クルクルと巻かれたブラックダストは大きな糸の塊のようだ。


「なっ……なんで私の魔法が効かないの……」


 ああ、あれは心が折れているような気がする。元々才能がないと知っている僕ならどうも思わない。


 "才能がないからな"で済んでしまう。


 でも、魔法神の申し子と言われ続けているメアリーは違うのだろう。


 その場で崩れ落ちるように泣いている。


 ここにいるのはフェンリルに白虎、そして最強蜘蛛乙女オネエなのだ。他にもおかしなやつが勢揃いしている。


 カマバックに関しては、何の種族かもわからない。とりあえず乙女オネエという種族なんだろう。


「ちょっとお前達ごめんね」


『アドルきゅんどこにいくの?』

『拙者は離れないぞ』

『ふん!』


 どうやら僕を離す気はないようだ。ヒツジに関してはさっきから口には言わないものの、尻尾を絡ませて行かせる気がないのだろう。


「私のお兄様に気安く触るなんて……呪い殺してやる!」


 再びメアリーに魔力が集まっていく。それは目で見て分かるほど禍々しい。


 もう状況が判断できてないんだろう。その魔法をこいつらに向けたら、隣にいる僕は即死する。


 どうにか止めないといけない。


「あれって止められるか?」


 僕はみんなに聞くと頷いていた。頼りになる仲間達でよかった。


 だが、そのせいでメアリーにトラウマを植え付けることになるとは思いもしなかった。


『拙者、アドルに頼られたぞ!』

『いや、あれはワシに言ったんだ!』


 メアリーの両脇からコボスケとヒツジが近づいていく。


『アドルきゅんは乙女オネエである私が守ってあげないとね!』


 カマバックはそのまま正面から突撃するようだ。


 ああ、もうこれだけで過剰に止めている。メアリーも戸惑いながらその場で震えている。


『オラ達も遊びに行こうか!』


 そこに紛れるように焼き鳥、もも、ささみが走って……いや、転がっていく。あいつら本当にフェニックスなのか。そもそも、コウモリにも見えないぞ。


『あー、私はこれを投げておきますね』


 低く腰を下ろして構えるリザードマン。後ろに重心を落とすと、そのままフォークを投げた。


『ご飯かな?』


 それなのに音に反応して土の中からアースドラゴンが顔を出した。


 唯一何もしていないのは、空中歩行の練習をしているコカスケだけだ。


 物語に出てくる伝説の生き物が存在するだけでも驚きなのに、自分を目掛けて襲ってくるとどうなるのか。


「お兄様助けてくださいー」


 メアリーはその場で泣きながら助けを求めていた。

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