第19話 後輩とデート①
翌日、俺は結城さんと約束した通り、十時頃に結城さんの家に着くように歩いていた。
碧を除けば、初めて女子と二人きりで出掛けることになる。いや、碧との外出は一切デート感がないので、実質今回が俺にとって人生初のデートだ。
家を出る前に何度も姿見で自分の格好は確認した。
碧に振り向いてもらうための自分磨きの一環としてある程度ファッション関連の知識を学んでいたのが幸いして、最低限デートで恥ずかしくない服装は出来てるはずだ。
スラックス風な黒いパンツと白Tシャツ。上からドロップショルダーの半袖シャツを羽織ったコーデ。トレンドがグリーンだったので、羽織るシャツの色合いは淡い緑にしておいた。
そして、気付けば結城さんの家の玄関前に到着していた。
「ふぅ……」
インターホン鳴らすのに勇気を必要としたのは今日が初めてだ……。
俺はこのままではいつまで経ってもインターホンが鳴らせないと思ったので、心の中でスリーカウント数えてからボタンを押した。
ピーンポーン、というどこの家庭も共通だと思われる聞き慣れた音が鳴った。そして、驚くことに一秒と経たずガチャ! っと玄関扉が開けられた。
「は、はいっ!」
「うおっ!?」
もちろん出てきたのは結城さんだ。しかし、あまりにもインターホンを鳴らしてから間がなく扉が開けられたので、俺は思わず一歩後退ってしまった。
「あ……ご、ごめんなさい先輩。驚かせてしまいましたね」
「いや、別に良いけど……もしかして、ずっと扉の前で待っててくれた……?」
あまりにも出てくるのが早かったので、それしか考えられない。確認のため尋ねると、結城さんがカァっと顔を赤くして俯いてしまった。
どうやら、図星のようだ。
「は、はい……その、先輩とお出掛けできるのが楽しみで。居ても立ってもいられず……」
「そ、そっか……」
俺と出掛けられるのが楽しみすぎて扉の前で来るのを待ってたとか……可愛すぎだろ、おい。
俺は照れ臭くなって頬を掻き、結城さんは恥ずかしがって顔を上げない。俺達の間に気恥ずかしい沈黙が流れる。
このままではいけないと思い、ふと結城さんの姿を意識して見ると、そう言えば初めて私服姿を見たことに気付いた。
下はハイウエストのロングスカートで、上はオフショルダーの服と薄手のカーディガンを羽織った格好。
また、いつもは癖のない小麦色の髪だが、今は毛先に少しカールが掛けられている。全体的にフワッと軽やかな感じがして、とても可愛らしい。
「えっと、凄く似合ってるな。私服初めて見た」
「あ、ありがとうございます。えへへ……」
結城さんが照れ笑いを浮かべながら、横に垂れる髪の毛先を指で巻き取る。そして、まだ恥じらいの拭えない視線を向けてきながらボソッと呟くように言ってきた。
「でも、普段からこういう格好をしているわけじゃ……ないんですからね?」
「え? あっ……」
一瞬意味がわからなかったが、半瞬遅れてその言葉の真意を理解した。
そ、それってつまり、俺のためにお洒落してくれたってことだよな……!? 何だこの天使は。俺は気が付かぬ間に天に召されていたのか?
「あ、あの……先輩?」
「はっ……ゴメン。ちょっと昇天しかけてた……」
「も、もう……!」
結城さんが恥じらい混じりに頬を膨らませて、俺に半目を向けてくるので、俺は「ごめんごめん」と笑いながら謝っておいた。
「あ、あと……」
「ん?」
結城さんが何か言いたげに俺を上目で見詰めてくる。
そんなに言いづらいことなのか、言おう言おうとして口が全く開かないことに苦戦するあまり視線が鋭くなっていくので、俺としては何だか睨まれているような感覚なのだが、そんな姿も可愛らしい。
少し待っていると、結城さんの口がようやく開いた。
「
「え?」
「結城さんって呼ばれると何だか距離感じちゃうので……出来れば、名前で呼んで欲しい……です……」
「ん~」
可愛いッ!!
これ以上結城さんを褒めると恥ずかしさで卒倒してしまいそうだったので口には出さない代わりに、心の中で叫んでおいた。
俺は気持ちを落ち着かせるように一度咳払いを挟んでから、結城さんを見る。
「わ、わかった。えっと、楓香……」
「えへへ……」
「代わりに……って言うとおかしいかもしれないけど、俺のことも名字じゃなくて名前で呼んでくれていいぞ?」
「えっ、良いんですか……? その、馴れ馴れしくないですか?」
「全然。むしろそっちの方が呼ばれ慣れてるし、もっと馴れ馴れしくあだ名で呼んでくる奴がいるから平気」
俺の脳裏に碧の悪戯っぽい笑顔が過る。思わずこっちまで苦笑いしてしまいそうだ。
「そ、そうですか……では、えっと……」
結城さんが自分の両手の指を絡めながら、恥ずかしそうに言った。
「優斗、先輩……」
「お、おお」
別に名前を呼ばれるくらいなんてことないと思っていたが、こうして改めて呼ばれると、むず痒いものがあった。
「えっと、それじゃあ行こうか」
「は、はい……!」
俺はなるべく早くこの気恥ずかしさに満ちた空気から逃れようと、若干早口になりながらそう言った。そして、結城さんもどうやら同じ考えだったらしく、すぐに頷き返してきた。
今から、俺の人生初デートが、始まる――――
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