恋愛感情がわからないボクっ娘幼馴染に、小学生の頃から毎日『好きだ』と言ってフラれ続けてきた俺が、ある日美少女後輩に告白されて始まる三角関係~振り向かない幼馴染or可愛い後輩~

水瓶シロン

序章~告白という日課の始まり編~

第01話 日課はここから始まった

 俺の名前は宮前みやまえ優斗ゆうと。小学四年生だ。

 勉強は面倒臭いけど別に苦手ではなく、運動もそこそこ出来る。趣味はアニメを見たり漫画を読んだりゲームをしたり……別にオタクじゃない。断じてオタクじゃない。


 そんな俺から、誰へともなく聞いてみる。


 皆って、仲の良い女子が他の男子と楽しそうにしてたらモヤってする?

 俺、今まさにすんごいモヤッとしてる。なぜなら、現在進行形で仲の良い幼馴染の女子が、他の男子と楽しそうに喋ってるんだもん。


 ……現在進行形って何かカッコいい。アニメで知った。


 その幼馴染の名前は氷室ひむろあおい

 平均的な背丈に線の細い身体。肌は日焼けを知らず、肩口辺りまで伸ばされた黒髪と、どこか涼し気な黒い瞳とのコントラストが映えている。


 ……コントラスト。難しい言葉知ってて何か頭良さそう。もう響きがカッコいい。


 また、本人はどうやら髪を伸ばし中なようで、ロングにしたいのだそうだ。別に今のままでも良いとは思うけど、確かにロングの碧も見てみたい。


 碧とは物心ついたときからいつも一緒で、アニメやゲーム好きという点でも気が合う。けど、最近俺は碧を見てるとモヤッとすることが多い。特に、自分以外の男子と楽しそうに話しているところを見るとそうなる。別に女子と話してるとこ見ても何とも思わないのに。不思議だ。


そんな言語化し難い感情を胸に抱きながら、俺は自分の席から碧をジッと見ていた。すると、ふとこちらに視線を向けた碧が、どうやら俺が見ていたことに気付いたらしく、男子達に「じゃ」と言って会話を切り上げ、こちらにやって来た。


「どうしたのユウ? ボクのことジッと見て」


 俺の名前が優斗だから、碧は俺のことを『ユウ』と呼ぶ。もはや聞き慣れたあだ名のはずなのに、俺は何だか無性に照れ臭くなってそっぽを向いた。若干鼓動が早いのは気のせいだろうか。


「別に?」


「えぇ~、でもボクのこと見てたじゃんか。何だよぉ~?」


「だからなんも――っ!?」


「ん?」


 しつこく追及してくるので、俺は背けていた顔を元に戻して文句を言ってやろうとするが、振り返った瞬間互いの鼻が触れ合いそうな位置に碧の顔があったので、俺は思わず言葉を飲み込んでしまった。ドキッと胸が痛い。カァと顔が熱くなる。病気か!?


「ユウ?」


 不思議そうに小首を傾げる碧。俺はそんな碧に視線が釘付けになって、半開きになった口が塞がらなくなってしまっていた。


 あ、あれ? 何コイツ。可愛い……碧ってこんな可愛かったか?


 碧の黒い瞳に映る俺が、物凄く間抜けな表情をしているのが見えた。そして、そんな表情にどこか見覚えがあった。そう。これまで何冊と読んできた恋愛モノの漫画や、何回も周回して観たラブコメアニメの中によく出てくる――――


 ――恋に落ちた、顔っ!?


 この瞬間、最近ずっと胸の奥で渦巻くモヤモヤに名前がついた気がした。

 俺は、碧のことが好きなんだ。それも、恋人になりたい好きだ。


 それを自覚した瞬間、物凄い恥ずかしさが身体の底から湧き上がってきた。


「あっはは、ユウおかしな顔~! 顔真っ赤だよ?」


「う、うっせ!」


 この会話は休み時間の終了を告げるチャイムによって、一旦終了となった――――



◇◆◇



「――って感じで、めっちゃ面白いんだよねぇ。原作漫画で先の展開は知ってるけど、やっぱりアニメでも見たいんだよ~。あぁ、来週が楽しみだなぁ~」


 家が隣同士の俺と碧は毎日一緒に登下校をしている。今は学校から帰っている最中で、もうすぐ家に着く辺り。住宅街の次の交差点を左に曲がれば到着だ。俺は、それまでに碧に伝えなければいけないことがあった。


 碧の隣を歩きながら、勇気を振り絞るようにギュッと両拳を握った。


「な、なぁ……碧」


「ん~?」


「俺、最近ずっとモヤモヤしててさ……」


「モヤモヤ?」


「……うん。その、お前が俺以外の男子と話してるのとか見ると、何か、やだなぁって……」


 俺が足を止めたので、碧も一歩進んだところで立ち止まり、こちらを振り返る。何度かパチクリと瞬きを繰り返してから、からかうように目を細めて口角をニヤリと釣り上げた。


「あはっ。えぇ~、なになにユウ~? もしかしてそれって、嫉妬ってやつ? ボクにぃ~?」


 俺が真剣な話をしようとしているとも知らずに、碧が弄ってくる。ちょっと……いや、かなりイラッと来たが、ここで言い返していては話が前に進まない。俺は素直になることにした。


「うん。多分そう」


「……へ、へぇ? そっか……」


 からかった手応えが感じられなかったようで、碧が頬を指で掻いて戸惑ったような表情を浮かべる。


 ああ、怖い。この先の言葉を口にするのがめっちゃ怖い。緊張と恐怖で足に力が入らず手も僅かに震えている。でも、ここで言わなきゃいつまでたっても言えないぞ!


 大丈夫。俺と碧の仲だ。気付けばいつも一緒。隣を見ればそこには必ず碧がいた。きっと、親友を卒業して、恋人にもなれる!


 一度深呼吸してから、俺は震える口を何とか動かした。


「俺、お前が好きだ。碧」


「ユウ……」


 これまで見たことないくらいに碧の両目が大きく見開かれていた。一体どんな答えが返ってくるんだろうと、永遠にも感じられるほんの数秒間をドキドキしながら待つ。


 そして――――


「ボクも、ユウのこと好きだよ……」


「……っ!? ほ、ホントか!? なら――」


「――友達として、だけど。あはは……」


 俺は喜びの声を上げかけていた口をゆっくり閉じていく。胸がギュッと締め付けられているようだ。

 一人気持ちを盛り上がらせていた俺に対して、碧は一瞬驚いただけ。すぐに冷静を取り戻した表情には赤くなった様子すらなく、視線はどこか申し訳なさそうに斜め下を向いていた。


「俺じゃ、ダメ、なのか……?」


「ううん! 勘違いしないでよ!? 別にユウだからダメとかそういうんじゃないからね!?」


 碧は慌てたように俺の俯き加減になった顔を覗き込むようにして、両手を取ってくる。

 柔らかくて温かい手に握られて、俺の心臓が早くなる。


「ボク、こうやって手を握っても、アニメや漫画みたいに全然ドキドキしないんだ……」


「え?」


「確かにアニメや漫画で観たり読んだりしてる分には面白い。ボクも凄くキュンとする。でも、いざこうして自分がその立場になろうとしても、よく、わかんないや……」


 碧は恋愛感情がわからない――そのことを、俺はこのとき初めて知った。


 恋愛がわからないのでは、恋人になれるわけもない。恋をしていない関係は、恋仲とは言わない。諦めるしか、ない。


「なら、絶対わからせてやるよ」


「えっ?」


 気付けば俺は碧の手を握り返していた。諦めるしかないと頭ではわかっていても、諦められない心がある。


「俺、諦めないから。絶対碧と恋人になる。碧に俺のこと、男として好きって言わせてみせるから」


「ユウ……」


 このときの碧の表情から、その真意を読み取ることは出来なかった。

 困ったような、呆れるような……でもどこか期待しているかのような、優しい微笑みを浮かべていた。


 今日この瞬間から、俺の諦めの悪いしつこすぎる日課アプローチが始まった――――

















【作者からメッセージ】


 この作品を手に取ってくださりありがとうございます!


 今後の流れと致しまして、第05話までは本編に入るまでのプロローグ的な過去編となっておりますので、是非ともお付き合いいただけると幸いです!


 この作品が貴方に刺さりますように!


 ではっ!

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