第18話 試合①

 幾つかの部会が活動をしている放課後の武錬場――。


 メルティアの目論見通りというべきか、アンドーブ先生との試合の話は即日決まった。

 先生は本当にゲームのままで、すぐ剣の試合で物事を決めようとする変な人だった。


「わかった。それじゃあ試合だな!」


 金髪角刈りマッチョの男が、白い歯を煌めかせて笑う。

 彼がアンドーブ先生、アルーシア学園の名物教師。


「キミたちが見事俺に勝てたなら、そこのリーリル君に『呪い剥がし』を貸し出そう!」


 片手に木剣を持ったまま、俺たちに向かってグッと握り拳を突き出してきた。俺たちというのは、俺とミリアのことだ。


「がんばりぃや、二人とも」

「お願いね」


 メルティアとリーリルは俺たちの背中をポンと叩くと、武錬場の隅に下がっていった。


「よおーし、試合だあぁぁあっ! 部長、彼らに木剣を!」

「はい先生!」


 木剣を渡され、アンドーブ先生と距離を取らされる。

 剣練会のメンバーたちが大きく俺たちの周りを囲む形に広がっていくと、武錬場で活動していた他の運動部会の生徒たちも練習をやめて寄ってきた。


「なに、試合か?」「またアンドーブ先生、今回は誰と戦うんだ」「えっ、セイシロ!? アラドを倒したあの?」「ミリアってのは?」「知らないのか、剣練会注目の新人だよ」


 ざわざわと、騒がしくも好奇の目に晒される俺たち。

 さて、と。俺は深呼吸をしながらミリアと目を合わせた。


「どういう布陣でいく? ミリア」

「まずはセイシロの手並みを拝見だ。前陣をキミに任せて私は遊撃したいのだが」


 うーん、俺のスキルを見学する気満々というわけか。

 苦笑いをしながら承諾するも、条件を付けくわえた。


「構わないが、言った通り俺は剣の腕は大したことがない。持たないと思ったらすぐに役割を変わって貰えるかな」

「承知した。その場合は私がアンドーブ顧問と戦うことにしよう、セイシロは支援に回ってもらう」


 頷きながら、チラとアンドーブ先生を見る。先生のステータスは、っと……。


名前:アンドーブ・ジェルダス

種族:人間

年齢:38歳

職業:教師・剣練会顧問

レベル:68

ステータス:良好・歓喜


 うげっ、レベル68? なんでそんな凄腕が学校の教師なんかやってんの!?

 びっくりしながらも俺はミリアに確かめていく。彼女のレベルは確か60だ。


「ミリアから見て、先生は強そうなの?」

「強いな」

「おまえよりも?」

「当然だろう、仮にも剣練会の顧問をする方だぞ? 私より強いのは当たり前だ」

「いやおまえらどちらも、部会がどうとかそういうレベルの強さじゃないじゃん」


 ミリアの動きが止まる。少し驚いた顔で、俺の方を見た。


「すごいな、そこまで理解しているのか」

「え?」

「私も、たぶんアンドーブ顧問も、普段は技を全て見せたりしない。力を抑えている。それなのに、口ぶりから察するにキミは私たちの力の本当を理解している」


 首を傾げて、ミリア。


「もしかして、それもスキルか?」

「いやっ! それは……!」


 思わず狼狽えてしまう。ミリアの奴、どんだけ鋭いんだよ!


「そうか、キミに『強さを見抜く』スキルがあるのだとしたら、私の正体が即バレしたことにも得心がいく。そういうカラクリだったのか」


 あーね、ずっとそこを気にしていたのか。どうやら俺のひと言で閃いてしまったらしい、ピコーンってやつだ。まいった、ミリアには迂闊なことが言えない。


「作戦会議はもういいかね?」


 アンドーブ先生が、笑顔でこちらを向いた。

 だらん、と木剣を下げた格好なのに、不思議と隙がなく見える。

 困ったな、俺ホントにあんなのと戦わなきゃいけないの? 素人目にもわかっちゃう強さってヤバくね?


 俺はミリアと目を合わすと、二人で同時に頷いた。


「大丈夫です。そろそろ始めましょうか」

「意気や良ーしっ!」


 先生が大きな声を上げると、周りを囲んだ剣練会生が、一斉に声を上げた。


「おっおっおー! おっおっおー! おおおー!」


 男子はバス、女子はソプラノテノール、渦巻くような声が勇ましい音を奏で始める。

 ドンドンドドン、床を力強く踏み鳴らしてリズムを取り、彼らは一つの楽曲を作り上げた。


「な、なんだ!?」

「戦唄というものだな、戦場で兵士を鼓舞する唄。戦士の唄だ」


 驚いていた俺に、ミリアが解説をしてくれた。その笑顔が高揚している。


「良い舞台じゃないか、震える」

「た、楽しそうだな」

「ああ、楽しいぞ。こういう場で戦えるのは一つの喜びだ。セイシロは違うのか?」

「俺は特に」

「そうか、まあそうかもしれないな」


 と言って目を逸らすミリアの顔が、一瞬自嘲気味に見えたのは何故だろう。

 不思議に思いながら彼女の横顔を見ていると、ひと際大きな声が俺の意識に割り込んできた。


「セイシロ! 頑張ってーっ!」

「負けんなやー!? いい記事書いたらへんぞー!」


 リーリルとメルティアだ。剣練会生の間に挟まるように、顔を覗かせて俺たちを見ている。

 ミリアも気づいたのだろう、二人の方を見て優しい笑顔を浮かべた。


「良い応援団だな、これはキミも負けられまい。全力を出してくれ」

「言われなくとも」


 俺たちは同時にアンドーブ先生の方を見る。先生が、ニィと笑った。


「さあ、来るがいい!」


『CAUTION! ENEMYS COME!』


 戦いが始まった。



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セイシロ、ミリア共闘戦、始まります!

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