百合短編シリーズ
みどり怜
幼馴染と朝
晃は朝起きると、ふと違和感を感じた。体が重い。
またか……。
そう思いかけ布団を勢いよく剥がすと、彼女がいた。晃の幼馴染の雫が、晃の体にまとわりついたまま寝ている。どうしてこうなったのだろうか。夏休みに入ってからというもの、毎日のように雫が家に泊まりにきていたことは事実である。だが、布団はいつも別に用意してあげている。それも晃のものよりもふかふかで気持ちのいい布団をだ。
しかし毎回のように朝起きるとこうなっている。まだ冬場ならば分かる。寒さに耐えられずに人肌を求めた結果こうなったならば分かる。しかし今は夏である。夏休み真っ盛りの八月に、人肌が恋しくなる人がいるだろうか。晃は疑問だったが、「雫は細いし、一人っこだから甘えん坊なんだ」と無理矢理自分を納得させ、この暑苦しい行為を許していた。
そんな晃の様子を知ってか知らずか、雫は寝ぼけたまま晃の体に強く抱きついている。手をお腹に回し、足を絡めて、顔を胸もとに押し込んでくるその様子は、まるで晃のことを抱き枕か何かだと勘違いしているようだった。
「んん……あきらぁ……」
そのとき、雫が体を寄せて晃の耳元で囁いた。
「え?」
晃はびっくりしたが、それでも雫は起きる気配がない。汗ばんだ体を晃の体に擦り寄せながら、自らの顔を晃の顔に近づけていく。
「えっ?雫?や、やばいって」
晃は顔を赤くしながら、必死に体を振り解こうとしたが、雫の力が思ったよりも強く動くことができない。雫の華奢な手足、透き通るように綺麗な肌、太陽光に反射して輝いているさらさらの金髪。近づけば近づくほどそのどれもがより魅力的に見えた。そんなことをしているうちに、雫の顔がもう目の前まで来てしまった。あと数センチ互いに近づけば、顔がくっついてしまうほどの近さである。
晃はごくりと唾を飲みこんだ。無意識のうちに抵抗はやめていた。限りなく暑く熱った体は、夏のせいなのか、それとも別に理由があるのか分からなかった。汗がどんどんと溢れてくる。雫もそうなのか、二人の汗が混ざり合い、肌の感覚がパジャマごしにも伝わってきて、晃は自分の体と雫の体の境界線が曖昧になるような感覚に陥っていた。
晃は目を閉じた。意識は朦朧とし、何が何だか分からなかったが、嫌な感じはしない。それよりも、肌が触れ合う心地のよい感覚とドキドキが合わさり、晃の中で妙な感情が生まれていた。それが恋であることは明らかだったが、晃自身はまだ気がついていなかった。
「…………。…………雫?」
数秒経っても、何も起こらない。晃が困惑しながら目を開けると、雫と目があった。
「ぷぷっ……、ぷぷぷっ……」
「へっ?」
雫はにやにやした顔をしながら頬をこれでもかと膨らまして、笑いを必死に堪えている。晃はわけが分からずただ呆然としていた。その顔が面白かったのか、雫は堪えきれずに噴き出し、大声で笑い始めた。
「あっはははははは!!その顔やめてよっ!!面白すぎるから!!」
そんな雫の様子を見て、やっと合点がいったらしく、晃は顔を真っ赤にして跳ねるように起き上がった。
「雫っ!!起きてたなら最初から言ってよぉ。私てっきり寝てるのかと思って…。それで…」
「それで何なの?はっきり言いなさいよ。あんな顔で目閉じてさぁ。なんか待ってたのかしら」
「い、いや?ぜ、全然何もないけどさぁ。そっちこそ何でこんなことしたんだよぉ。ひどいじゃんか!」
「別にぃ?何もないけど。ただ思いついたからやってみただけよ」
「ひどすぎる」
晃は怒りながらもどこかほっとしていた。あのままだったら、どうなってしまっていたんだろう。私は何を求めていたんだろう。なんであんなにドキドキしたんだろう。そんな疑問が生まれては消えて、全然分からないことだらけだった。ただ、あのときの雫の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
(雫……。可愛かったな)
晃はそんなことをふと思って、また顔が赤くなった。そして雫を見ると、彼女も晃の方を見ていた。さっきのような笑い顔ではなく、いつも通りの美しい、自身ありげな微笑である。汗でくたくたになったパジャマと髪が、雫に女子高生らしくない艶かしい魅力を与えていた。
「まずはシャワーだね」
「そうね」
「今日どうしよっか」
「うーん。何でもいいけど。家でごろごろでいいんじゃない?」
「そうだね」
二人は自然とたわいのない会話をして、さっき起きたことについてはもう触れなかった。
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