とあるVIPPER達のTRPG~グレドラ戦記~

@212819

第1話~ウィッシュ傭兵団~

 剣と魔法の時代、長い動乱により兵は疲弊し国家は傭兵に頼る時代となっていた。この時代は大傭兵時代と呼称されていた。


 動乱を終結させるべく結成されたウィッシュ傭兵団は、砂漠の国デザルトで強盗団捕縛の依頼を受けていた。


「暑い……本当にこのままでは干し物になってしまうぞ……」


 イカの頭の様な形をした兜を被っているガル・ヴィンランドが呟く。


「うわぁそれは大変だ! 早めに捕まえないとねぇ」


 長袋を二つ背負い翼の様なシルエットのレイニー・ベールが辺りを見渡し始める。


「ムムッ、慣れていないと動き辛い地形だな、踏み慣らしておかねばな」


 特徴的なサングラスをかけたラクテン・ガードマンが砂の上で足踏みをしながら歩いている。


「まあ慎重になりすぎて時間が掛かっても干からびちゃいますしね、注意を払いつつ積極的に且つ迅速に調査に当たり解決を目指すってところでしょうか」


 長髪を三つ編みにさせ尾のように揺らしているオッフェル・バインが提案する。


「ほう小僧話が分かるじゃねえか、そういうことよ」


 二足歩行をした犬の着ぐるみを着ているケンケンが賛同する。


「ここいらは強盗団の領域だ、どこから仕掛けてくるか分からない、気を抜くなよ」


 団長のクロッセルが注意を促す。


(大きな荒地だなあ、ここは立派な建物だったのかな。何れはこんな大きな家に住んでみたいな)


 オッフェルは朽ちた廃材に積もる砂の壁を眺めている。


「おらぁ! ガキはさっさと帰んなぁ!」


 刹那、隙を突いた強盗が斧を振り回しオッフェルへと襲いかかる。


「うわ出た、僕たちも任務で来てるからねぇ……」


 オッフェルは迫り来る強盗の一撃をひらりと躱し、側方を通り抜ける強盗の背に持ち手を返した短剣の刃を突き立てた。


「ギエッ!」


 強盗は悲鳴を上げると怒りに顔を歪ませオッフェルへと向き直る。


「やっぱり実戦となると違うなぁ」

「くそっガキだと思ったら……つけあがるなよぉ! ウオオオオオッ!!」


 強盗の激しい雄たけびと闘争心を前にオッフェルは一瞬身が竦んでしまった。刹那、強盗団の手にした大きな斧がオッフェルの頭部に降り掛かる。


「しまっ――」


 オッフェルは直ぐ身を捩らせたが、斬撃を完全に逸らせず頭部から血が流れる程クリティカルな一撃を受けてしまった。


「ぐっ……はぁ……先を、急ぎすぎたか……」

「ガキはおねんねの時間なんだよぉ!」

「オッフェル! 無理をするな! 一度下がって体勢を立て直せ!」


 クロッセルがオッフェルに指示を出す。


「はぁ……と言っても、流石にこのままでは終われませんよね……先ほどのお返しくらいはさせていただきますよ!」


 オッフェルはクロッセルを無視し、走る痛みに体を蹌踉めかせながらも、赤く染まった短剣の柄を強く握りしめ強盗目掛け走り出した。


「借りは……作らない性格でしてね」

 オッフェルの手にした短剣の刃は強盗の太い腹に突き刺さり、オッフェルがふらつき倒れ込むように短剣を引き抜かせると、強盗団員の腹の傷口が大きく開き飛沫が上がった。


「うぐあぁぁーっ!! うがふっ……い、いてぇ……いてぇよぉおかしらぁ……」

「ちっあのがき……舐めたのが間違いだった……おい! 無理はするな! 他の奴に任せて戻ってこい!」

 強盗団長は強盗に下がるよう指示する。情けない声を上げながら強盗は腹を抑えオッフェルに背を見せる。


「はぁ……まあ最後まで頑張ってみますか」

「! おいお前! 後ろだ!」

 オッフェルは逃げる強盗を手負いのまま追い掛ける、強盗が振り返りその行動に顔を青ざめさせる。


「ひいいやああぁああああ」

「はぁ……そんな大声ださないでくださいよ……頭に響きますから」


 強盗はオッフェルに恐怖し斧を滅茶苦茶に振り回した。オッフェルは近づくことができなかったが攻撃の姿勢を降ろすことはなかった。


「はぁっ! はぁあっ! くそっくそっ! やらなきゃ、やらなきゃぁ殺されるんだあああああ!」

「そうですよ、やらなきゃやられる……ガキだからといってあまり舐めないでください」


 オッフェルは手負いとは思えぬ気迫で強盗を追い込み続ける。その光景を見ていた他の強盗達は戸惑い始める。


「やろう、弱いんじゃなかったのかよぉ、あいつだ! あのガキから囲ってやっちまおうぜ!」

「そうだ! 殺されてたまるかよ! 先にぶっ殺してやる!」

「くっ……!」


 オッフェルを危険視した二人の強盗が駆けつけ、斧を振り上げオッフェルへと襲い掛かる。


「寄らばシュナイデン!」

 オッフェルへと凶刃が迫った刹那、側方から巨大な鋼鉄のシールドが割り込み強盗達の力任せの斧を押し留めた。刹那、風を切る音と共に剣が振り上げられ、一人の強盗は首から顎に掛けて斬り裂かれた。


「うぎゃああぁああ! ななな、なんだお前はぁ!」

「ムムッ! 浅かったか! 大丈夫かフェル君! いったん下がりたまえ」


 ラクテンは手負いのオッフェルの体を前から支え、剣で威嚇し強盗達を下がらせる。


「ムムッ! じゃないですよ勝手に名前略して! ……まあ離れていた僕も人のこと言えませんけど……」

「砂を踏み馴らしていた甲斐があったようだな!」


「へぇ、やるじゃねえかあのおっさん、それじゃあ俺もそろそろおっ始めるか!」


 ケンケンが突如猛スピードで駆け出した。


「ムムッ!?」

「な、なんだこいつ――ぎゃあああ!!」


 ケンケンはあっという間にラクテンを追い越し下がろうとする強盗に追撃の剣を浴びせた瞬間、肩で突き飛ばし強盗を転倒させる。


「どうした? これで終わりじゃないんだろ?」

「畜生、あの野良犬俺のかわいい子分をッ!」


 悲鳴を上げ地面を這いずり逃げる強盗二人を見て、周りに居た強盗達はどよめいている。


「てめえら! こいつらは命狙ってんだ! 動ける奴等は死ぬ気で掛かりやがれ!」

「っ! そ、そうだやらなきゃ殺されるッ!」

「ウオオオオオオオオオッ!!」


 強盗達は隊を執り成す様に集結し、ギラリとした視線をウィッシュ傭兵団へと向ける。


「相手は真剣になったぞ、最早戦場だ気を抜くなよ!」

「野党風情で中々良い統率を成すじゃないか」

「ひゃあっいつの間にー? やる気ならこっちもやる気出さないとねぇ」


 駆けつけたガルとレイニーも武器を構え戦闘に加わる。


「てめぇら生きて帰れると思うんじゃねえぞ……」


 一瞬の睨み合いを断ち切ったのは強盗団長だった。強盗団長が先頭に立つケンケンへと斧を薙ぎ払う。


「おっといいパワーだ、なかなか涼しめるぜ」


 ケンケンは素早い動きで容易く下がり攻撃を回避する。


「なめた顔しやがって、いまだお前ら蹴散らせ!」

「うおおおおっ! ぶっ殺してやるぅ!」

「ほお?」


 ケンケンがステップで下がった瞬間を狙い複数の強盗達が一斉にケンケンに斧を振り下ろす。


「私が引き受けよう!」

「いらねえ世話なんだけどな」


 ラクテンが盾を構えケンケンの前に割り込む。刹那、ケンケンはマントを翻し身を屈め、素早く大地を蹴り斧の密集地帯を掻い潜り強盗団長へと接近した。


「っ! 犬野郎が!」

「へっ、後ろにいるからって油断すんなよ」


 ケンケンが素早い剣撃により強盗団長を押し込んでいく。斧で受けていた強盗団長は動きを鈍らせていく。


「お、おかしらぁ! だいじょうぶですかい!」

「しゃらくせぇ! 俺のことよりてめえらの心配してやがれ!」

「へ、へぇ!」


 強盗団長はケンケンへと反撃し自他共に奮起させる。ケンケンは剣を弾かれ反動で大きく下がっていく。


「パワーで勝負かおもしれえ」

「俺ぁ寸分も面白くねえんだよ! 狂犬が!」


 砂丘の一角で激しい一騎打ちの音が鳴り始めた。


「遅くなってすまなかった、いま蹴散らします」

「ムムッ、敵は多いぞ気を付け給へ」

「なに、固定グラもない程度のモブの攻撃では私を沈めることは出来ませんよ」

「なんだとッ! なめやがって許さねえ!」


 油断するガル目掛け強盗達は一斉に襲い掛かりガルの鎧を斧で滅多打ちした。


「ぬわーー!!」

「わーっ! ガルさーん!!」

「イダダダダダ!!! 見てたら頭スゴく痛い!」

「今助太刀するぞッ!」


 ガンゴンと金属を叩く音が鳴り響き、ガルは強盗の群れと砂に埋もれる。


「こいつ……硬いぞッ!」

「……おのれえええええ貴様ごときちっぽけな汎用グラのモブが崇高なる私の肉体に傷をつけやがてぇええええ!!!」


 ガルは重たく伸し掛かる砂や斧や強盗団を力任せに押し上げ立ち上がる。刹那、ガルが怒りのままに振るった斧の一閃が強盗団の腹部を裂いた。


「うぎゃあああああああっ!!」

「ひ、怯むな! 動きは遅いぞまた取り押さえろ!」


 言葉とは裏腹に及び腰の強盗達を前にガルは笑う。


「ハッハッハザマアないな、しかし貴様等喚き声だけは一級品だな」

「あーよかったガルさん無事だった、よーし私も加勢するよー」


 ガルへと再び襲いかかろうとする強盗目掛けレイニーは長槍を突き出す。強盗に槍が突き刺さった瞬間、レイニーは体を大きく傾け強盗達を纏めて押し返した。


「よーいしょぉっと!」

「うおあああああああああああっ!!」

「やるなレイ君! 私も本気を出さざるを得ない」


 強盗倒しが起こり隊列が乱れた強盗の前にラクテンが躍り出た。


「快楽天、奥義! くらえええええええええイヤーッ!」


 ラクテンは盾を体の前に構え目を見張る速度で強盗達を押し退けていく。強盗達の構えを解かせた瞬間、素早い袈裟斬りの連続により複数の強盗達をまとめて動けなくさせた。


「わあーラクテンさんこそかっくいーってやつだねぇ」

「う、うぐああっ……ば、ばけものかこいつら……」


 バタバタと強盗が倒れていく光景に、他の強盗達に燻っていた不安は堰を切った。


「じょ、冗談じゃねえぜ、こんな奴らと戦えるか! ひいいいいいい!」

「お、おい待て! おかしらが! お、おめえらおかしらを救い出すんだ!」

「お、俺だって死にたくねえんだあああ」


 強盗達の何人かが戦線から離脱していく。


「ぐっ……はぁ……はぁ……面倒ですね……追わなくては……」

「かまわん逃がしてやれ、奴らもこれで懲りるだろう……それより思ったよりも統率力がある、まだまだ油断はできないぞ」


 逃げる強盗達を追いかけようとするオッフェルをクロッセルは静止した。クロッセルは強盗団長を見据えた。


「へ、やるじゃねえか、強盗なんて止めて賞金稼ぎでもしたらどうだ?」

「ちっ、今更もう遅えんだよ、捕まりゃ国家反逆者となって死ぬしかねえ、俺たちゃ強盗を貫くしかねえんだ!」


 苦悶の表情を浮かべ強盗団長は激昂する。


「そうかい、なら見せてみな強盗の底力!」

「言われなくてもなあ! うおおおおおお!!」


 加速するケンケンが鋭い突きを強盗団長に放つ、強盗団長は斧で受け止め突きを相殺しようと気合を入れる。


「おかしらに手を出すんじゃねぇっ!」

「ちっ、ボロボロのやつが」


 一人の強盗がケンケンに奇襲を仕掛ける。刹那、ケンケンは体をぶん回し強盗の頭部に剣の腹をぶち当てた。強盗は気絶し崩れ落ちる。


「でかした! おめえらの仇は今俺が討つぜ! 死にさらしなぁ!」


 刹那、隙を突いた強盗団長がケンケン目掛け斧を振り下ろす。ケンケンは振り向き攻撃を察知するが受けるには間に合わない。


「今こそ道場パワーだ! させないよっと」

 斧の一撃を防ごうと腕を掲げていたケンケンの前に、レイニーが槍を回し割り込んだ。強盗団長の斧は槍に絡め取られ地面に勢いよく突き刺さった。


「なんだとォッ!?」

「よーし上手くいったねぇ」

「斧が地面にザックザクゥ!」

「ち、余計なことを」


 ケンケンが不満そうに舌打ちをしていると、後ろの方では最後の強盗が倒れ、ウィッシュ傭兵団が集結する。


「はぁ……なんか僕だけ被害が大きいような……」

「ああ、終わったのかどうにも戦闘中は周りが見えなくなってしまう」

「よし! こいつらを早いとこ縛り上げようか!

実は私は結構ヘトヘトなのだ!」

「ぐっ……おめえら……くそッ……!」


 多勢に無勢を悟った強盗団長は諦めて肩を落とした。


「見事だ、初任務とは思えない働きだったぞ。それに一人も犠牲を出さずに捉えるとは、見上げた戦果だ」

「チッ……くだらねぇ戦いだったな」


「そう腐るな、地味なことも積み上げていけばいづれ戦乱が終わり平和な暮らしへと向かうはずだ……と、お前ならすぐに強敵とも渡り合えるようになるだろう」


 縛り上げられた強盗団員達の前でウィッシュ傭兵団一行は小休憩を取っていた。 


「しかし夜の砂漠は冷え込むからな……早くこいつらを運んでやらないと最悪死んでしまうな」

「……ハッ……王国に引き渡すんだろ?……どうせ遅かれ死ぬさだめだよ」


 強盗団長は笑い捨てる。


「そうかもしれないな! ……だがお前はいまここで死んではならん」

「……なぁ、最後に頼みを聞いてくれねぇか」


 強盗団長の深刻な声色に一行は強盗団長を見る。


「そいつらは俺様の兄弟みてぇな奴らだ……ばかみてぇに貴族に刃向かう俺を慕って付いてきた、馬鹿野郎どもだ……」


 強盗団長は笑いながらため息を吐く。


「今更俺様無しでどうこうできるようなやつらじゃねぇ……見逃してやってくれねぇか?」


 一瞬その場が静まり返る。その静寂をラクテンが破った。


「……そうか、しかしそれはこいつらの罪なのだ……お前が背負っていいものではない!」


 ラクテンはいつもの笑みを見せず、まっすぐに強盗団長を見据える。


「あまり自惚れるな」


 ラクテンの言葉に強盗団長は、また笑う。


「……へっ頼み事なんか、柄でもなかったな……」

「おかしら……」


 辺りに暫くの間、強盗達の嘆く嗚咽が広がった。


「話はまとまったな? それでは街へと帰還しよう。もう一度言う見事だった」


 その日ウィッシュ傭兵団は初の依頼を達成し、世に名が伝わり始めた。

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