宝石箱のマリオネット

桜庭 夢乃

第1章 二人の令嬢 1

2005年12月23日。 吐く息も白く煙る寒さの中、大雨が降ったその日、ひとつの一家が破産した。


借金は総額5億円にまで膨らみ、夫妻は一人娘を金と引き換えに素性の知らない貴婦人に売った。


「いやだっ行きたくない…!」日和


幼い5歳の女の子、松下日和まつしたひよりは泣きながら必死で母親にすがりついた。


しかし傘をさした母親は雨が降りつける中へすがる幼い日和を無理やり引き剥がして外へ放り出した。


「あっ…!!」日和


思わず尻もちをついてしまった日和は雨が打付けるざらついたアスファルトの上にとっさについた両手に痛みが走って一瞬顔を歪めた。


「全部、お前のせいだーー」洋子


恐ろしく低い母親の声でそう言われた日和は驚きのまなざしで雨の中、母親の姿を見上げた。


「お前を授かってからこの家は傾き始めた…上手くいってたのにお前のせいでお父さんとあたしはこんなに苦しんでるのにわがまま言うんじゃないよ!!!」洋子


その言葉に幼心にも日和は愕然としたーー


そして声も出せずに震えていると傘をさした父親がそっと近づいてきてそばでしゃがんだ。


「日和…お前が言うことを聞かないと父さんたちはとっても困るんだ。 頼むから、誰のことも恨まずにこの家から早く出て行きなさい」治


すると父親は最後まで転んだ日和に手を伸ばすことなくそのまま立ち上がって母親と一緒に自宅の中へ入っていった。


雨に打たれて霞む視界で見たその後ろ姿が日和が見た最後の両親の姿だった。

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