地割れ
【キャラバン日誌 ロマネスク歴2067.1221 隊長ジャック記録。キャラバン隊は突如、5匹の巨大なスナジゴクに襲われた。術者たちの活躍により撃退できたが、敵がまだ狙っている可能性がある。注意して進まねばならない・・・】
キャラバン隊はまたカンズの町に向けて進み出した。5匹の巨大スナジゴクは倒したものの、また襲われる予感はしていた。ジャック隊長はキャラバン隊の者を2,3人のグループに分けて縄で結ばせた。もし誰かが落ちてもすぐに引き上げるためだ。その上でジャック隊長がワンズに尋ねた。
「どうだ? 何かの気配を感じるか?」
「いや、だめです。何か殺気のようなものを感じますが、どこから来るのかはっきりしません」
ワンズの探知のスキルでも引っかかっていなかった。だがその後方にいるソミオには何かぼんやりと分かっていた。
(またこの砂の中にいる。今度はもっと大きい・・・)
多分、ソミオの中にあるライティの能力の一部がそう知らせているのだろう。だがそれを他の者に言うことはできない。そんなソミオの様子にジークが声をかけた。
「どうした? ソミオ。難しい顔をして」
「いや、何でもない。また怪物が現れるかもしれないと思って・・・」
「ああ、そうだよな。あの大きなスナジゴクにはびっくりしたもんな」
「また来るような気がしているんだ。もっと大きな・・・」
「脅かすなよ。さっきの奴でも心臓が飛び出るくらいびっくりしたんだから・・・」
その時、急に地震が起こった。いや、キャラバン隊の足元のみが震えているようだった。
「来るぞ。みんな縄をしっかり持っておくんだ」
すると地割れが起きた。今度はぱっくりと開いた間隙にラクダや人を落とそうというのだ。幸いなんとか避けて、そこに落ちずにはいた。しかし地震はますます強くなり、地割れは広がってあちこちに生じ始めた。
「みんな! 気をつけろ!」
ジャック隊長はそう声をかけたが、そのうちに大きな地割れに落ちる者も出てきた。それを縄で結ばれた仲間が引き上げようとしていた。
ソミオの足元も急に大きく地割れした。
「うわー!」
ソミオ、そしてジークが地割れに落ちた。その縄の先にいたスライズが何とか支えていた。
「今、引き上げてやる! うーん!」
スライズは何とか縄を引き上げようとしたが、男2人を引っ張るのは難しい。いやそれどころか、スライズ自身が引っ張られて地割れに落ちそうになっていた。他の運び屋もそれぞれが落ちた仲間を引き上げようとしてスライズを助ける余裕はない。ジークも必死に縄にしがみついており、念動力のスキルを発揮することはできなかった。このままでは3人とも地割れの深い底に落ちてしまう。そうなったらもう助からないだろう。
(このままでは3人ともやられてしまう。こうなったら・・・)
ソミオは決意した。腰のナイフを抜くと、体に括りつけた縄を切り始めた。ソミオ一人の重さがなくなればスライズはジークを引き上げて2人は助かるだろうと・・・。
それに気づいたジークが叫んだ。
「やめろ! ソミオ! お前が落ちてしまうぞ!」
「いいんだ! 僕が縄を切ればジークが助かるんだ」
ソミオは縄を切り離した。するとソミオの体は地割れの奥に消えていった。
「ソミオ! ソミオ!」
ジークが叫ぶがその姿は見えなくなった。やがてジークはスライズによって地割れから引き上げられた。ジークは地割れの底をのぞき込んで、
「ソミオ! ソミオ!」
と鳴きながら叫ぶが、返事はなかった。
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