イケメン彼女の蘭さんと女子力彼氏の陽葵くん

ネコのランタン

本編 1章 一学期 ~出会ってから付き合うまで~

第1話 陽葵君と蘭さんの出会い

 3月。暦の上では春みたいですが、まだまだ寒い日が続きます。

 そんな中、僕は場違いなほどに緊張しながらある高校に向かいます。


 今日は朝日ヶ丘高校の合格発表日。

 僕は今から人生最初の大きな分岐点に向かうわけです。


 でも・・・ちょっと落ち着いてきましたね。だって・・・


「あぁぁぁぁぁぁぁ、ひなちゃん!!!!大丈夫だからね!!お母さんはひなちゃんのことを信じてるからね!!万が一落ちたとしても私立に行けるぐらいの余裕はあるから気にしないでね!!!」


「・・・声が大きいです母さん。あと僕をひなちゃんと呼ぶのはやめてと何度も言ってるじゃないですか。」


 この母さんのせいです。この人が僕の何倍も緊張してるからです。

 ほら、お化け屋敷とかでもあるじゃないですか。周りに自分以上にビビっている人がいると落ち着いてくるやつ。あれです。


 あれが発動したせいで僕の心はどんどん落ち着きを取り戻しています。

 そろそろ緊張どころか高揚感も消えてなくなりそうです。


 あと母親からはひなちゃんと呼ばれていますが、僕は男です。

 男の娘でもありません。ちゃんと男です。


 僕の名前が神戸かんべ陽葵ひなたなので、『ひなちゃん』だそうなのですが、15歳にもなって女の子みたいな呼ばれ方をされる僕の身にもなってください。


 身長も低い(157㎝)のも顔がかわいい系なので、そういう呼ばれ方をされても違和感がそんなにないのが余計に癪に障ります。


 高校でもかわいがられるのかなぁ・・・でも最初から優しくしてくれるのはうれしいし・・・非常に複雑です。

 入試も自己採点がズレていなければほぼ確実に受かってますし、よっぽどのことがない限り、朝日ヶ丘高校に行くことにはなりそうなのですが・・・この高校にはそんな人が少ないといいなぁ・・・なんて。


 というか母さんはまだ隣ではしゃいでます。説明会でもこのテンションかもしれないと思うと・・・


「・・・はあぁぁ・・・先が思いやられます。」

「何をため息ついてるのひなちゃん!!幸せが逃げるわよ!!!!」

「・・・誰のせいですかだれの。」


 普段はいい人なんですがねえ。

 こういう時に異常にハイテンションになるのは早急にやめていだたきたい。

 早急に!やめていただきたい。


 合格発表の前なのにもう疲れてきました。帰って買い溜めしてたラノベを崩したいです。


 まあそんなこと思ってもできないわけで。

 精神的な疲れを除き、特に何事もなく朝日ヶ丘高校につきました。

 さっきから母さんのテンションが二割増しになっています。非常にめんどくさいのでさっさと合格発表を見に行くことにします。


 えーと僕の番号は・・・あ、あった!

 ふ~~、良かったです!私立には受かっていたとはいえ、これで落ちてたら暫く再起不能なほど落ち込んでいたと思いますし・・・


 母さんは・・・疲れたのか落ち着いてきた感じですね。


「うん!ちゃんと受かっててよかったよかった!それで、説明会は13時からよね?今はまだ10時過ぎだからぁ・・・ひなちゃん!駅でお昼食べない?」

「え?あぁ、はい。食べます。・・・じゃなくて!ひなちゃんはやめてと言ってるじゃないですか!!」


 なんか周りの目が生温かいじゃないですか!!


「あらあら、ごめんなさいね。」

「あ、ちょっと待っ・・・はぁ、また適当な返事して・・・」


 そういって母を追いかけようとした時でした。


 ドンッ


「ん?」

「痛っ!?」


 横から来た誰かとぶつかってしまいました。ちょうど鼻の所にカバンの金具が当たったみたいで涙が出るほど痛いです。


 慌てて顔を上げると、そこにはびっくりするほど背が高くて綺麗な女性がいました。その人は呆然とした様子で僕をじ~っと見ています。


 なんだかすごく恥ずかしいです。


「あ、あの~~~・・・」


 声をかけてもあんまり反応がない。だんだん居た堪れなくなってきました。


「ご、ごめんなさい・・・ぶつかっちゃって。」

「え?あ、ああ。大丈夫、だ。そ、そっちこそ・・・ケガとか、ないか?」

「はい。大丈夫、です。で、では、失礼します!」

「あ、ちょっ・・・!」


 なので僕はすぐに謝ってこの場を離れることにしました。

 女性が何か言ってきたような気がしますが気づかないふりをしてその場を離れ母親を追いかけました。


 ・・・それにしても、きれいな人だったなぁ・・・



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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 ・・・なんだあのかわいい生物は。


 私は神林かんばやしらん。幼稚園から空手を習っており、全中で優勝経験もある。それに顔も比較的整っているしスタイルもいい。

 背は182㎝ある。・・・これはコンプレックスだけど。


それゆえに女子に異常なほど人気があり、お姉さまとか王子様とか呼ばれたこともある。そして、それに応じるためにイケメンな対応を心掛けてきた。


 だから、私は自分の異性の好みは自分より背が高くてかっこよくて強い男性・・・だと思っていた。つい10秒前までは。


さっき、小さくてかわいい男子とぶつかった。いや、男子かもわからない。女子といっても通用するくらいかわいいかった。そしてその子とぶつかってしまった時涙目になっていたのは、おそらくカバンの堅いところに鼻でもぶつけたのかもしれない。


まあそんなことはどうでもいい。要約するとだ。


私は、めちゃくちゃかわいい男子の、涙目上目遣いの、申し訳なさそうな表情に、見事に心を撃ち抜かれてしまったということなんだ!!!!!!


それ故に動揺して、返事もめちゃくちゃドギマギしてたし名前も聞けなかった!!人生最大の不覚だ!!


というかなんだあのかわいさ!!それに申し訳ない顔・涙目・上目遣いの三連コンボは卑怯だろう!?


いや、別に私かわいい系男子好きなわけじゃないと思うんだけど・・・中学にもそんな奴いたけどあんまり好きじゃなかったし・・・でも、なんかあの子の・・・あの子のは破壊力が違った。


なんかこう、歴戦のお姉さんを無意識に一撃で沈めてそう。あの子にはそれぐらい破壊力がある。


「あれ、蘭?どしたん?」

「わ、私・・・かわいい子が好きなのかもしれない。」

「え?でも田口のことは『弱そう』とか言って割と嫌いだったじゃん。」

「あいつは偽物というかただのもどきだ。・・・本物は、破壊力が違う。」

「ほへー。そーなんだ?」


華恋はわかっていない!本物の凄さを!


「まあでも・・・蘭の話を聞く限り、自分のかわいさに甘えてるのではなさそうね。」

「!?・・・いつの間に。」

「うぉぉ彩音っちいつからいたの?」

「『わ、私・・・かわいい子が好きなのかもしれない』の辺りから。」

「思ったより最初からで草。」

「全く気づかなかった。これは良くないな。」


だが・・・絢音の言っていることはかなり核心を突いている気がする。

確かに、あの子は愛想を振りまこうとは一切していなかった。

田口とあの子の決定的な違いはそこなのかもしれない。


「しかし、彩音のいうことはすごく納得がいく。もし田口があのような状況になったのなら、あいつは愛想を振りまいていただろう。」

「でも、その子は違った、と。」

「ああ。謝った後すぐにどこかに行ってしまった。申し訳なさそうな顔・涙目・上目遣いのコンボも恐らく意識していなかったんだろう。」


なんというか・・・恐ろしい子だな。


「あ、そういえば二人は合格発表見た?」

「ああ。受かってた。」

「私もよ。」

「おけおけ。ま、良かったね。」

「そうね。」

「そうだな。・・・あの子も受かってるといいんだけどな。」


あわよくば同じクラスに・・・!そして出来れば近くの席に・・・!

そしてあわよくば・・・もにょもにょ。


「(・・・完全に自分の世界入っているね、蘭)」

「(ええ・・・かなり重症ね、あれは。ま、いいんじゃない?いい経験よ)」


そしてその後もずっと頭から離れなかった



――――――――――――――――――――――――


0章の関係になる前の物語です。


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