第2話「通話」

 入学式の後、僕と日向は駅前の喫茶店に寄ってから家に帰ってきた。

 日向は人のおごりだからか、ジュースだけでなくパフェまで注文して食べていた……こ、こいつ、わざとか……? と思ったが、何も言わないことにした。あれ? こういうところが妹に甘いのかな。

 家に帰ると、みるくがトコトコと歩いてきて、「みゃー」と鳴いた。


「みるくただいまー、よしよし、寂しかったのかなー」


 僕たちの足元ですりすりしていたみるくを日向がなでた。


「まぁ、みるくもいつも昼間は一人だからなぁ、何しているのか気になるよな」

「うんうん、監視カメラとかで見てみたい気分だよー」


 僕も日向も考えることは一緒らしい。しかしみるくは思っていたよりも引っ掻いたり噛んだりと、あまりよくないことをしない。爪とぎを使うし、トイレも失敗しないし、元野良猫とはいえしっかりしているのかな。

 僕はとりあえず部屋でスーツから普段着に着替えて、リビングへ行った。そうだ、絵菜にRINE、メッセージを送ってみようと思っていたのだった。僕はスマホを取り出して絵菜に送ることにした。


『こんにちは、今いいかな?』


 簡単すぎるかと思ったが、まぁいいかと思ってそのまま送る。


『うん、あ、団吉今日は入学式だったんだよな、お疲れさま』

『ありがとう、そうだ絵菜、ビデオ通話できないかな? 日向もいるけど』

『うん、いいよ、こっちも真菜まながいる』


 真菜とは、絵菜の妹の沢井真菜さわいまなちゃん。日向と同じクラスの可愛らしい女の子だ。


「日向、絵菜と真菜ちゃんとビデオ通話するけど……って、スマホ見つめて何してんだ?」

「ああ! いや、なんでもないよー、うんうん、やるやる!」


 慌てて僕の元に来る日向だった。何かあったのだろうか。

 まぁいいやと思って、絵菜に通話をかけた。あれ? 出ないな……と思っていると、絵菜が出て画面が映し出されて、二人が映った。


「も、もしもし」

「お兄様、日向ちゃん、こんにちは!」

「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは!」

「もしもし、こんにちは。ごめん忙しかったかな」

「あ、いや、ごめん、団吉のスーツ姿がカッコよくて思わず見とれてた……」


 ああ、なるほど僕のスーツ姿か……って、あ、あれ? 今はもう着替えているのだが、どこで見たのだろうか。


「あ、あれ? なんで僕のスーツ姿を知っているの……?」

「あ、さっき日向ちゃんから写真が送られてきて、それ見てた……カッコいい……」


 ん? 日向から送られてきた……? ま、まさか、母さんが撮っていたあの写真だろうか。ふと日向の方を見ると、テヘッと舌をだした。いやテヘッじゃないのよ。何送ってるんだ。


「あ、そ、そうなんだね……なんか恥ずかしいな」

「ふふっ、カッコいいから大丈夫。大人の男性って感じするな」

「お兄様、スーツ姿すごくカッコいいです! 私ドキドキしてしまいました」

「あ、そ、そうかな、ありがとう。まぁなんか自分でもちょっと大人になったような気分というか……あはは」

「ふっふっふー、よかったねぇお兄ちゃん」


 日向がそう言って僕の頬をツンツンと突いてきた。う、うう、見られたのか、恥ずかしい……。


「そ、そうだ、絵菜は入学式がもう少し先だったよね、いつだったっけ?」

「あ、私は四月五日。今度の金曜日だな」

「そっかそっか、楽しみだね」

「うん、ちょっとドキドキしているけど、楽しみ。団吉は大学どうだった?」

「ああ、人が多くて、この中には僕より勉強ができる人が多いんだろうなって思うと、ちょっと気合いが入ったというか」


 高校ではなんとか上位の成績を収めていた僕だが、きっと大学には同じような人がたくさんいるだろう。僕も負けないように頑張ろうという思いが強かった。


「お兄様なら大丈夫です。勉強の神様ですし。あ、もう神様を超えましたね」

「え!? い、いや、僕は一般人だけどね……あはは」

「ふふふ、そんな謙虚なお兄様もいいのです。そうだお兄様、だんだん数学が難しくなっているので、また教えてくれませんか?」

「あ、うん、いいよ。日向も真菜ちゃんを見習ってちゃんと勉強するんだぞ」

「う、ううー、またお兄ちゃんが勉強しろって言う……アホー」


 ぶーぶー文句を言ってポカポカと僕を叩く日向を見て、絵菜と真菜ちゃんが笑った。


「ふふっ、やっぱり団吉と日向ちゃんは仲が良いな」

「そ、そうかな、うーん、そろそろ兄離れ、妹離れが必要なんじゃないかと思うんだけど……」

「えーそんなのいらないよー、お兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃんだからね!」

「ま、まぁそうなんだけど、このままだと長谷川はせがわくんに悪いというか、なんというか」


 僕が言った長谷川くんというのは、長谷川健斗はせがわけんと。日向と真菜ちゃんと同じクラスの男の子で、日向の彼氏でもある。カッコよくてしっかりしている男の子だ。


「ふふふ、お兄様大丈夫ですよ、日向ちゃんと長谷川くんもとってもラブラブですので」

「ま、真菜ちゃん!? そ、そうかもしれないねー……あはは」


 日向が顔を赤くして俯いた。僕と絵菜と真菜ちゃんは笑ってしまった。


「ふふっ、日向ちゃんも真菜も長谷川くんも、また同じクラスになれるといいな」

「ああーそうでした、同じクラスになりたいなぁ……絵菜さんとお兄ちゃんは二年生の時違うクラスでしたよね」

「うっ、日向、悲しい過去を思い出してしまうじゃないか……そういえば文系と理系で分かれるけど、三人はどっちにしたんだ?」

「私も真菜ちゃんも健斗くんも文系だよー。私は将来のことはまだ分からないけど、こっちの方がいいかなーと思って!」

「私も将来のことはまだ分かりませんが、今できることをきちんとやっておこうかなと思います」

「そっかそっか、うん、勉強も部活も遊びも、どんどん楽しんでね」


 僕がそう言うと、日向と真菜ちゃんが嬉しそうな顔をした。


「ふふっ、やっぱり団吉は優しいな、そんなところが好きだ」

「そ、そうかな、ありがとう……僕も好きだよ……はっ!?」


 ハッとして見ると、日向と真菜ちゃんがニヤニヤしていた。う、うう、また恥ずかしい思いした……。

 それからも四人で楽しい話をしていた。僕はこの時間も好きだ。みんなも新しい生活が始まる。頑張ってほしいなと思った。

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