転校初日の僕の身に起こった出来事

柴田 恭太朗

あり得ない転校初日

 新しい中学校、新しいクラス、新しい席。


 転校初日ということもあって心は不安でいっぱいだったけれど、このドキドキはすぐに収まる。親が金融機関勤務ありていにいえば銀行員なんかをやっているものだから、転校なんてすっかり慣れっこなんだ。


 そんな転校のベテランを自認する僕でも、あれには驚いた。

 あれだよ、右隣の席に座る女の子。


 それは、夢のように美しい少女だった。その彼女はまさに金髪の天使、その煌めきは控えめな朝陽の光を背に浮き立たせ、僕の目を奪った。彼女の髪は、まるで麦畑のように豊かな金色に輝き、心地よい風に乗ってゆらゆらと揺れている。


 その瞳は、深く静かな湖を思わせる深藍色で、一見するなり僕の視線を釘付けにした。その瞳は純真無垢でありながらも、僕を見つめるその目はどこか知性を感じさせる。彼女の目の輝きは、僕の心を洗うような涼しげな風を運んできた。


 彼女の顔立ちは、おそらく(僕が想像するに)父方の母国フランスの貴族的な優雅さと、母親の日本女性らしい繊細さを合わせ持っていた。その輪郭は滑らかで、まるで美術館の彫刻のように洗練されている。華奢な肩から流れるように伸びる手足、細くて美しい指先は、繊細な芸術作品のようだった。


 その外見だけでなく、彼女のオーラは他の誰よりも強く、一目見れば誰もがその存在を認識せざるを得ないだろう。しかし、彼女自身はそのことにまったく気付いていないようで、落ち着いた表情で教科書を開き、早くも授業の準備を始めていた。


(おっとー、これは驚きだぜ。なんてラッキー!)


 僕は心の中で小さくガッツポーズをした。親の都合でしぶしぶ引っ越してきたけど、これは幸先がいい。ユーウツな転校も悪いことばかりじゃないね。

 美少女が目の前にいるだけで、初日のドキドキ感がマシマシになるってものだ。


「ねぇ」

 僕のドキドキを加速させる美少女張本人が話しかけてきた。鈴を振ったような耳に心地よい涼やかな声だ。

「はぇ?」

 思わず横顔に見とれていたのがバレたか。あせった僕は思わず変な返事をしてしまった。

「キミ、教科書持ってないでしょ」


 ん? 教科書?

 キター!!!

 転校生の特権「教科書を隣の美少女に見せてもらう権」。これまで幾度夢見て、幾度挫折してきたことか! 長年の願いが今日ここに初めて成就することにあいなりました!


「ありがとう」

 ありがとう、転勤の多い父よ。ありがとう違う教科書を採用してくれた教育委員会よ。僕は歓びにちょっぴり涙ぐんだりさえした。

「もっと机をくっつけてよ、離れていたら見えないじゃない」

 金髪の美少女は、おかしそうにいった。

「そうだね」


 僕は唯々諾々と従いながら、心臓は緊張と驚きで高鳴り、彼女が僕の隣に座ったことの現実を受け入れることができなかった。その一方で、新しい環境に自分を馴染ませようという覚悟と、隣の席の彼女との関係をどう築いていけるかという不確かな期待が、僕の胸の中で入り混じっていた。新しい学校の生活が一日でも早く落ち着けるようにと祈りつつ、彼女との出会いが僕の新たな日常の一部となることを密かに期待していた。


 僕は彼女の方を一瞥し、彼女が集中して教科書を読んでいる姿を観察した。彼女の顔に映る朝日の光が、その美しい特徴を一層引き立てている。僕は自分が見ている光景が現実であることを再確認するために、自分自身をつねってみた。


「いってー!」

 痛かった。これは現実、夢じゃなかった。

「どうしたの?」

 美少女が可笑しそうにたずねた。

「いや、なんというか、君のような人は初めて見たなと思って」

「そう? 私みたいな子はよく見かけると思うけど」


 ヘンなことをいう子だ、僕は思った。彼女のような金髪の美少女がそのヘンにゴロゴロしているわけがないではないか。


「少なくとも僕は君しか知らない」

 ホントは「君のような綺麗な女子は」といいたかったけど、さすがにそれはためらわれた。なんせ、今日は転校初日だ。


「そう? あなたの左側の席を見てみなさいよ」

 右隣の美少女はまたヘンなことをいう。彼女が半笑いでいうものだから、僕は思わず反対側、つまり左側を見て……驚きと困惑でいっぱいになった。


 なぜなら左の席にも美少女がいたからだ。右隣のハーフ少女とまったく同じ顔をした、まるで鏡像のような女子がニコニコとほほ笑んでいるではないか。席に着いたときに気が付けばよかったようなものだけど、転校初日の僕は相当あがっていたというほかない。


「えっ! 双子なの?」

 僕は思わず叫んだ。授業中だというのに。僕の驚きっぷりに、周りのクラスメートが振り返ってニヤニヤしていた。


「私が一人っ子だなんて誰がいったの?」

「いってないけど、でも双子とはまさか……」

「だからいったじゃない、よく見かけるって」

「これってドッキリか何か?」

 いいながら僕は驚愕の事実を消化しようと必死だった。だって、金髪のハーフ美少女の隣に座ることだって、これまでの転校実績からいっても奇跡なのに、双子の美少女にはさまれるなんて! これがオセロゲームなら、僕も金髪美少女になっちゃうヤツだ。


「あはは、そんなに驚いた顔しないで。これからよろしくね」

 左隣の美少女が可愛らしくウィンクした。一瞬で僕のほっぺたは真っ赤になった。

 これはまさに、新しい学校生活のスタートにぴったりなサプライズ。思わず、(うわ、これは楽しみだぜ!)と、心の中で歓喜の声を上げた。


 しかし転校初日のサプライズは、それで終わりではなかった。


 昼休みのベルが鳴り響くと、僕の目の前に新たな驚きが出現した。教室の前の扉が開くと、そこから金髪の美少女その3がニコニコと登場したのだ。


「アナタが新しい転校生? 話、聞いてたわ」

 第三の美少女は僕に向かって微笑むではないか。


「まさか三つ子だったの……!?」

 僕はビックリして声をあげた。今日ビックリするのは、これで何度目だろう。今度こそ僕の驚きはピークに達した。こんな驚きの連続、まるでよくあるライトノベルのようなシチュエーションに自分がいるなんて。


「双子だなんて誰がいったの?」

「いってないけど、でも三つ子とはまさか……」

「それが珍しいとでも?」

 最初の右隣のハーフ美少女は挑戦的にいった。ああなんということだろう、僕はまだ彼女の名前すら知らないではないか!

「双子ならまだしも、三つ子の美少女は珍しいと思うよ」

 僕は正直な気持ちを吐露した。三人の金髪ハーフ美少女に囲まれた僕は、頭がクラクラしてきて、言葉をオブラートに包む余裕がなくなってきたからだ。


「あなた『おそ松くん』ってマンガ知らない?」

 第三のハーフ少女はニコッとほほ笑み、僕に問うた。

「『おそ松くん』? 赤塚不二夫の……」

「そう。あれって何人兄弟だったか覚えてる?」

 美少女No.3は大胆にも僕の机の上に腰をおろした。少しスカートがめくれて白く健康的な太ももが見えているんですが、いいんでしょうか。


「確か六人……」

 僕はコンランする。鼻血がでそう。


「正解!」

 金髪ハーフ美少女No.1、No.2、No.3が声をそろえて唱和した。


 と同時に、パタパタと廊下を走る複数の上ばきの音が聞こえてきた。

「「「転校生紹介してー!」」」

 廊下から聞こえる女子の声から想像するに、その数は3。


 金髪ハーフ美少女×6!!!


 頭がハレツしそうになった。

 と、同時に思う。

 いや、それはそれで悪くないかも。


 そんなこんなで、僕の新生活は幸先のいいスタートを切った。思わぬミラクル美少女六つ子との出会い。これからどんな楽しい日々が待っているんだろう。僕は転校初日から早くもその日々を楽しみにしている。


おしまい

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転校初日の僕の身に起こった出来事 柴田 恭太朗 @sofia_2020

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