第18話「フォースと必殺の堕天使殺蹴槍」

「……これで良いの?」

「上出来です。自分でも出来るか不安でしたけど、やってみるだけやってみて正解でした」


 タイテイは自身を黄色──『ライトニング』のいかづちによる速度で敵の攻撃からシールドで防御しつつも、作戦の第一段階終了を確認しあった。

 ブラックエネシアの攻撃を此方こちらに集中させているあいだ、ボンコイに搭載されていた脳波受信テレパスを使用してリリィ・ミスルトに仲間を集めるように呼びかけさせたのだ。

 送信中の魔法少女は無防備な状態になり、それが地球全域となると魔動力燃料マナの消費も送信時間もそれ相応のものになる。

 だからこそ、タイテイが囮役を引き受ける必要があった。


 ──後は誰か一人でも多く駆けつけて来る事を祈るのみだが、これだけじゃまだダメだ。もっと、これ以上の力を……俺にも。


 突然、思い出した記憶がアイディアとなり彼の脳内を駆け巡りだした。

 もしタイテイこの姿が俺の好きな変身ヒーローをイメージして生成されたのなら──


「ボンコイ」


 名前を呼ばれようがボンコイは返事をしない、もう言いたい事を理解していたからだ。

 だからこそ──


「回答は非推奨ノー。今でも何とか保たせた状態のまま貴方に装着しているのです。そんな事をしては死んでしまいます」


 想像通り答えは否定。それはそう、今でも全身に悲鳴を上げていると言うのにこれ以上の事をしては体が自壊してしまう。

 だが、先程の言葉で確信は得た。


「そう答えるって事は、はできるっつーことだな……‼」


 分かり切ったような声色と共に、タイテイはブレスに付いている赤青緑黄──四つのボタン全てを同時に押しだした。


 瞬間、体色は全身純白へと変わりだし、形状もそれぞれの部位ごとに変態を始めだしていく。


 双脚、雷神を司る電光石火でんこうせっか──ライトニングの形相けいそう

 左腕、鎌鼬かまいたちを司る疾風怒濤しっぷうどとう──ウィンドの形相。

 右腕、海流を司る海内無双かいだいむそう──アクアの形相。

 頭胴、煉獄れんごくを司る煙炎漲天えんえんちょうてん──フレイムの形相。


 純白の上に赤青緑黄の並んだ独特のラインが浮かび上がり、それはまさしく変身ヒーローの強化形体さながら──名は『フォースフォーム』。

 全身から吹きあがっていた数千度にも及ぶ熱気は陽炎と共に吹き飛んでいき、ブラックエネシアを再度見定めるは肆色よんしょくの双眸。


 そして──覚悟の通りに、その反動は彼の体を蝕み殺そうとする。

 全身の肌を直焼じかやき、血管を巡る血液が荒波の様に暴れ、焼かれた皮膚の上を風刃ふうじんが切り裂き、高圧電流が骨の中を駆けていく。

 人間の耐えられる痛みを越え、聲にならない悲痛が精神を侵す。


 それでも、タイテイ真士の意思は変わらない。変わることを知らない。


 ──自分が前に……姉さんあの人だけは……‼


 その言葉が浮かんだ瞬間──タイテイは神速をも越え、分身による連続攻撃を展開した。

 片手にソード、もう片手にランス──両手で二丁拳銃など意思を持った残像らの重い一撃が一秒の間に数万回と与えら続けていく。

 しかし、それでも、ブラックエネシアは悲し気な表情でその場に立ち尽くしていたが多少よろける程度には向上していた。

 ミスルトも彼の異様な強化に驚きを隠せず言葉を失った、あの強さはエネシアにも匹敵する。

 力に見惚れているもすぐ我に返り自分を奮い立たせ、後に続いていく。


 ──まだだ! まだやり続ける。


Shinchaシンちゃ……Shinchanシンちゃん!」


 全身に攻撃を食らいながらも敵は呑気に両腕を大きく広げ、愛を求めるかのように彼を抱きしめようとしている。

 それも、視線はを捕らえたままで。


Shinchaシンちゃ──」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇえ! 姉さん出してやったら幾らでも抱きしめてやらぁぁぁぁよぉぉ‼」


 分身三十体と同時に吶喊とっかんして敵を串刺しにするも、触れたソードもランスもガンから放たれた弾丸ですらも柔らかい皮膚に抑えられてしまう。

 ──パワーアップしたのに、マジで無敵なのかよ……!


「──無敵の法則を特定しました」

「……ッ! 本当か!」


 突然の朗報──先程の一斉吶喊でボンコイの分析は完全完璧に完了した。


「ブラックエネシアの髪一先ひとさきからつま先に掛けて、極薄ながらも強固な魔動力燃料マナのフィールドが展開アンフォールディングされています。

 それもエネシアが本来持っていた能力に上乗せした強化版バージョンですので核を一億落とされようと無効にできますよ」


 そういう理屈か。全身に張り巡らせらえた透明なバリアはどんな物理をも無効にし、完全に触れさせない鉄壁の壁となっていたのだ。


「……突破方法はあるのか」


 緊迫とした表情を仮面越しに浮かべながらもタイテイは問く。


ありますオフコース。現在のブラックエネシアでしたら彼女に接近し、魔動力燃料マナの中和で破壊する事が可能です」

「本当か⁉」

「──ですが」


 と、ここからが本題と言いたげに続きを紡ぎだす。


「方法ただ一つ、強大な力を用いた“一点集中”のみです。

 それは、今のタイテイの攻撃でも容易に開ける事は出来ないでしょうね」


 それは最大の問題点だった、フォースフォームでも開けられないとなると積んだも同然だ。

 今度は同じところに分身攻撃すれば良いと言っても、そんなのは攻撃であり一点ではない。

 ブラックエネシアにワザと抱きしめられに行って至近距離で強襲も有りだと思うが、何をされるか解ったものではない。


 ……となると。


 突如とつじょ作がひらめきだした刹那──瞬間移動の如くミスルトに接近し手を掴むと、彼女を連れて空へと一気に上昇した。

 その速さに、彼女は突然の事で驚きを隠せずにいながらも彼の話しに耳を傾ける。


「キックは得意な方ですか?」


 聞いてきた内容ことに、何事かと思いながらもミスルトは素直に答える。


「必殺技の一つに蹴りならあるけど、それが──」

「じゃあ、を頼みました」


 「え」と溢した言葉も彼には届かぬまま、タイテイの特殊魔製女服ジェネレイティブ・スーツは忽然と解除された。

 空中で生身となった真士は海へと急降下していき──ミスルトが助けに行こうとした瞬間、彼女の周りを分離状態で浮遊するタイテイが囲みだした。


「真士君が海に落ちるかもしれないって言うのに、何をして……」

 

 ミスルトが声を上げると、タイテイの特殊魔製女服ジェネレイティブ・スーツが目の前で変形を始めた。

 物理法則を無視したモーフィング変形を瞬時に熟し、人とは異なる形となったスーツは彼女の右脚へと合体装着されていく。

 純白の上に四色のラインを施した右脚の先端は鋭い槍となり、重みが加わりだす。

 目を大きくしながらも超重量となった右脚を上げると、真下にはブラックエネシアがに入っているのが見え──リリィ・ミスルトは、すべてを理解した。


 外部装着型強化パーツとなったタイテイの右脚をブラックエネシアに定め、ミスルトは蹴りの姿勢を保ったまま加速を開始した。

 もう一つの魔法少女の能力が加わった疾風はやさは神の認知をも置き去り、二人分の力で直撃を打ち込む『堕天使殺しの一槍』となる。

 落ちていく真士を受け止めうと接近するブラックエネシアは自分へと狙いを定めたミスルトを察し、空間転移攻撃で消し炭にしようとする。


 されど不可思議な事に立場は逆、リリィ・ミスルトの周りに発現している光がブラックエネシアの攻撃を全てはじいているのだ。

 斬撃、射撃、光撃──その全てが、落下時にタイテイから永続で放出される魔動力燃料マナの排出フィールドによって、敵を確実に捕らえる為の絶対防壁となる。


 真士は落下の中で重くなったまぶたを開けるとブラックエネシアが貫かれる瞬間を確信し、口角を上げる。


 後は──タイテイのモデルが変身ヒーローであるのなら……“必須事項あの言葉”を言ってくれれば、この第二段階は文句なしだ。

 わざわざ言う必要があるかという議論など蹴り飛ばして、その言葉を肺や喉、腹を破りながら叫んで欲しい。


「……喰らえ、偽物」


 リリィ・ミスルト、ブラックエネシア到達まで残り──00.00mm。


「──ルシフ・キルランサアァァァァァァァァッッッッッ!!!」


 豪快に叫ばれた極彩色の一撃は、真士を受け止めようとしたブラックエネシアの額にトンッと当たり──姉に似た愛らしい頭部は跡形もなく粉砕した。

 貫かれ、残った首から噴水の様に吹き上がった黒血こっけつ深蒼しんそうの海を汚していく。


 海に叩きつけられる一歩手前──駆けつけて来たミスルトに抱き抱えられると、彼女の右脚からタイテイが分離され、真士の体へと再び装着された。


「はぁ、はぁ、はぁ……ナイスキャッチっすよ、リリィ・ミスルト」

「話し合いも無しに変な事させないでよ!」


 収まらぬ心臓の鼓動に息を上げていた彼に対し、ミスルトは怒声を上げた。


「でも、通じたじゃないすか……」


 すると喉に激痛を感じ、タイテイは苦しそうに咳をしだした。デメリットのせいで声を出す事すら辛くなってきている。


「──……!? な、なんだアレ……」


 掠れていく彼の声──二人はこの世のモノとは思えない何かを、観測してしまった。

 首を失ったブラックエネシアの全身が突如腫れ出していき、皮膚が破れ、赤黒い内臓やきんが露出していく。──その光景を言い表すとすれば、『未知の生命体が起こす脱皮』と言えよう。

 背中から穢れ無き翼を大きく広げ、人ならざらぬ生物へとなっていく頭無きモノは巨大化を開始する。


 もはやエネシアや魔法少女の跡形もないいびつな進化、さしずめ第二形態と言ったとこか。


「姉さんの躰を使ってるくせに気持ち悪い姿になるんじゃねぇよ……」


 中の肉が露出し、血が体を伝り海を更に侵していく気色悪い半天使の怪物。


 ──進化途中の化け物を観察していると、開いていた首が徐々に閉じていくのが確認できた。

 くねくねと蠢き変態しながらも閉鎖していく首に焦りを覚え、タイテイはミスルトから離れた。


「──ここの死守お願いしますよ」


 去り際に言った声から、彼の誠実さが伝わってくる。


「どうする気なの?」


 彼は今からいったいどうするというの、もしかして──


「中から姉さんを救い出してきます」


 思っていた通りだ、死を覚悟しての行動。

 正体もまだわからない天使の未知に突っ込むなど無謀過ぎる、だが……自分がそんな事を言えた義理ではない。

 ミスルトは彼の言葉に深く頷くことしかできなかった、今は彼を信じる以外この天使を倒す方法は無いのだ。


 人一人ひとり入れるほどのサイズまで縮小した首の中へと、タイテイは迷いなく突入して行った。

 彼がエネシアを連れて脱出してくる事を祈り──ミスルトは怪物に向け、双槍ツインランサーを構える。

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