第八十二話 和解の果てに
「《
状態異常を付与する闇魔法で、
「これでよし。でもこのままじゃマトモに話もできないから、適度に回復させてやるか」
とーめちゃんに任せるのも手だが、ここはあえて別の方法で。
端から見たら悪い顔ととられそうな笑みを浮かべ、《HP回復ポーション》を三つ取り出す。
ガラス瓶の蓋を全て開けると、三本まとめて
『ふごっ』
瓶の中の回復薬がもの凄い勢いで
もちろんむせ返したが、一切構わず強引に飲ませた。
まあ、これくらいの拷問……もとい意地悪はしてもいいだろう。
『げほっ、ごほっ!』
反撃はできないが、意識は保てるギリギリの状態までHPを回復させた。
あとは、話をするだけだ。
「お前の負けだ。流石にもう、攻撃しないでくれると助かる」
『趨勢は決した。何をしようとしても、俺に勝機はない』
「殊勝でよろしい」
短く頷いて、僕は話を続ける。
「このダンジョン世界を破滅に導き、ダンジョンに挑んでいる全ての冒険者の命を弄び、クレアを利用した罪は重い。このことが
『……だろうな』
さして驚く素振りも見せず、
まあ、復讐を誓った時点で国に喧嘩を売る行為だってことは、わかっていただろうから、当然だろう。
『この復讐計画が露見すれば、行動に移せなくなる。それがわかっていたから、この《モノキュリー》に身を潜めた面もあるからな。それで、お前は俺をどうするんだ? 王国騎士団にでもチクるか?』
「そうしたいところだけど、しないよ」
『なに?』
意外に思ったのか、
「理由は三つ。一つ、お前は既に、一度死ぬだけじゃ償えないレベルの過ちを犯していること。二つ、お前の行いが露見すれば、王国中がパニックに
パニックに陥るだけならまだいいが、世界そのものを破壊しうる大それたスキルがあると噂になれば、最悪それを悪用しようとする者も出てくるだろう。
「最後に三つ、お前が死ねば、《
『なるほど。どうやら、最後のが本音らしいな』
「当たり前だ。僕は、世界を救うなんて漠然とした理由だけで、命を賭けられるような人間じゃない」
「嘘つき。どうせそんな漠然とした理由でも、放ってはおかなかったくせに」
側に近づいてきたエナが、悟りを開いたような顔で言う。
なんというか、むず痒い。そもそも
「こほん。まあとにかく、お前には一生僕の元で働いて罪を償ってもらう。生涯奴隷というわけだ。何か異論は?」
『いや……ない。だが、働くというのは?』
「僕達は冒険者だよ? この先も、ダンジョン攻略に勤しむことになる。暴れ馬とはいえ、お前も一応Sランクの冒険者だ。だからお前も、僕のパーティに加わって欲しい。迷惑かけまくった分、きっちり国の発展とモンスター狩りに協力してもらう」
『是非もない』
言葉のわりに、
「メンバーは、どうするの?」
「決まってるだろう? ここにいる全員で、さ」
振り向いて、質問をしてきたエナにそう返す。
エナにクレア、とーめちゃん、僕そして
このメンバーで、新たなパーティを組むつもりだ。
「じゃあ、私もいいの?」
「ああ。これからもよろしく」
僕は、満面の笑みをエナへ向ける。
『くくっ、ははは』
突然、
『いや。実は俺は、とんでもないヤツの配下になったんじゃないかと思ってな』
「買いかぶりすぎだ。僕は、役立たずのお荷物でパーティを追放された、元Eランク冒険者だよ」
そう。
荷物持ちとしてもおぼつかない弱小メンバーだった僕は、パーティを追放されてから恐ろしい速度で強くなった。
そのきっかけになった出来事があるとすれば、それは――
「――ただ、ダンジョンの最下層に落とされたとき、
『そうか。であるなら――』
『ユニークスキル《
「……え?」
呆ける僕の前で、
僕に《
「ってちょっと待て! どさくさに紛れて《
『勘違いするな。お前の強者たり得る
「それはどうも」
随分と気前がいい気もするが、まあ良しとしよう。
事実、
これならもう、暴れ出す心配も無さそうだ。
もしまた、クレアを依り代にダンジョンの崩壊を企むようなら、その時点でぶん殴って止めてやるつもりでいる。
(さて、これで一件落着かな)
僕は、背中に背負ったクレアを見る。
すーすーと可愛い寝息をたてているクレアの顔色は、かなり良好なようだった。
《
間もなく目も覚めることだろう。
空を見上げれば、ダンジョン内に降っていた雨はすっかり上がっている。
薄く広がる灰色の雲の向こうには、本物と見紛うほどの青空が広がっていた。
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