第五十五話 不死性の正体

「どうなってるんだ!?」




 思わずそう毒突いた。


 虚像の空間の次は、虚像のモンスターとでも言うのだろうか?




 こちらからの攻撃は一切通らない。


 そのくせ相手からのダメージは通る。




 物語の主人公もビックリなチート設定だ。




「こんな、モンスターなのかどうかもわからない奴、どうやって討伐しろと……ん?」




 そのとき、僕は気付いた。


 ステータスのない、幽霊みたいなモンスター。


 それって、本当にモンスターなのだろうか、と。




(こいつは、虚像みたい、じゃなく本当に実体がないと考えていい!)




 生み出した土壁を迂回し、突っ込んでくる水の不死鳥。


 その攻撃を、《超跳躍ハイ・ジャンプ》のスキルで跳躍して躱しながら、頭を回転させる。




(大体、実体のない敵なんているはずがない! 影や幻だとしたら、相手が触れることも出来ない! だとしたら、こいつの正体は――ッ!)






 着地した僕は、空中で旋回せんかいし、再び襲いかかろうとしている不死鳥を凝視する。




 水の不死鳥。


 こいつは――




「エナ!」




 僕は、崖下で待機しているエナに向かって大声で「来い!」と叫んだ。




「どうしたの!?」




 クレアととーめちゃんを背負ったエナが、ほどなくして駆けつけた。




「しばらくの間、こいつの相手を頼みたい!」


「で、でも私、クレアさん達を背負いながらじゃまともに戦えないわ」


「大丈夫! 戦う必要はない!」




 突っ込んで来た水の不死鳥を、今一度積層土壁《ラミネート・グランドウォール》で防ぎながら、早口で言葉を続けた。




「ただひたすら、攻撃を防ぐか避けることに集中してくれ! その間に、僕がこいつの本体を叩く!!」


「ほ、本体? てことは、この鳥はモンスターじゃないの?」


「ああ! 十中八九、こいつは水で造られたモンスターなんかじゃない。ただの水の塊だ!」


「えぇ!? じゃあ、ただの水がどうして生き物みたいに動いて――まさか!?」




 エナは、何かに気付いたように、瞳孔を大きく開いた。




「これは……スキル!?」


「そう! おそらく、遠隔操作系の通常スキルだ! これは、モンスターがスキルで造り出した武器みたいなものってことになる。だから本体は絶対に、どこかに隠れているはずなんだ」


「なるほどね。そういうことなら任せて!」




 エナは弾むように頷いて、不死鳥を威嚇するように一歩前へ出た。




「任せたよ!!」




 一言そう言い残し、スキル《飛行フライト》を自身にかける。


 上空へ飛び上がった僕は、岩山よりももっと、天に近い場所からスキル《サーチ》を起動した。




 スキル《サーチ》。


 敵や味方のステータスを即座に読み解くもので、ほとんどのダンジョン冒険者が持っている必須スキルだ。




 相手の状況を瞬時にはかれる優れものである反面、一つ大きな弱点が存在する。


 それは――対象をしっかり視界に入れていないと、ステータスが表示されないということだ。


 つまるところ、どんなに近くとも壁に隠れている敵は、《サーチ》に引っかからないのである。




(予想はしてたけど、やっぱダメか)




 上空からは、山を中心にして、巨大な海がぐるりと取り囲んでいるように映るだけ。


 第一階層さいかそうの全てが見える位置から《サーチ》をかけて、ステータスが表示されれば、そこにモンスターがいるということになる。


 だから、上手くいけばモンスターの位置を逆探知して割り出せると思ったのだが――




(そうは問屋がなんとやら、か)




 そりゃ、本体がバレる位置にいるわけないよな。


 こんなに、広大な隠れる場所があるのに。




(隠れているとしたら、この広大な水の中のどこかだろう。相手の場所は元より、大きさや姿形もわからないのに、見つけられるかどうか……)




 こんなとき、索敵スキルがあれば――所持している誰かと交換して――


 一瞬そう思ったが、すぐに無駄だと悟る。


 




(そういや、ここにいる誰も、索敵のスキルなんて持ってなかったはず!)




 索敵系スキルは、一度に広範囲を索敵できない上に、そこまで役に立たないスキルだから、ほとんどの冒険者は所持していない。


 特に、目に入った相手を(特に強くも無いくせに)片っ端から叩きつぶそうとする脳筋クソ野郎のウッズや、双剣で近接戦闘インファイトを行う攻撃特化のエナが、サポート役が持つべき索敵スキルを持つ理由はどこにもないのだ。




 索敵はムリ。


 でも、相手の居場所がわからない。




(あれ、これ詰んでない?)

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