第三十二話 勝って、生き残る覚悟
『ククク……逆鱗ナラバ容易ク貫ケルト思ッタカ? 愚カ者メ』
勝ち誇ったように声を殺して笑うブル・ドラゴン。
(なんだこいつ! 逆鱗は他の鱗より圧倒的に脆いはず……! なのになぜ?)
『気ニナルカ?』
僕の心中を察したのか、ブル・ドラゴンがしたり顔で問いかけてくる。
『我ノステータスヲ、確認シテミルガイイ』
「ステー、タス?」
言われるがまま、《サーチ》を起動し、ブル・ドラゴンのステータスを見た。
◆◆◆◆◆◆
ブル・ドラゴン
Lv 999
HP 89400/90000
MP 2440/3200
STR 6890
DEF 120000
DEX 3580
AGI 2110
LUK 183
スキル(通常) 《
スキル(魔法) 《
ランク SSクラス
◆◆◆◆◆◆
「れ、レベル999……」
身震いがする。
高すぎるレベルにも、九万もある体力にも驚いたのだが、もっと驚いたのは十二万という桁外れの防御力。
そして、悟る。
どうして、弱点であるはずの逆鱗に攻撃が通らなかったのか。
「そうか。スキルは、素のステータス値に左右される。《
『ソウダ。ダカラ諦メロ!』
ブル・ドラゴンは高らかに吠え、再び空中へと飛び上がる。
青白い雷に照らされた鱗が、空で不気味に輝きながら、大きく
『一思イニ逝ネ!』
空気を裂いて、ブル・ドラゴンが空の上から突っ込んでくる。
(トドメを刺す気だ!)
ドクン。
心臓が大きく高鳴り、緊張が全身を駆け巡る。
次の攻撃――まともに喰らえば死ぬ。
(でもどうする!? こちらの攻撃は通らない! 素の攻撃力もあいつの方が遙かに格上! 勝てる道理が……ない!)
絶望に心が押し潰されそうな中、辛うじて頭を回す。
やがて――
「あ、あった!」
一つだけ、相手を倒す方法を思いついた。
(でも、それをやれば、反動で僕の身体がどうなるかわからない! 下手したら……いや、高確率で死ぬ……!)
思いついた一発限りの必殺を撃って相打ちになるか。
はたまた、ひよって何もせずに殺されるか。
どちらを選んでも、望みは薄い。
僕は、一瞬どうすればいいのか迷って……
「え、エランくん……」
ふと、後ろから声が投げかけられる。
今まで気絶していたクレアが起き上がり、何かを訴えかけるような目で僕を見つめていた。
この絶望を目の当たりにして、自身の死を
ただ、僕の方を真っ直ぐに見つめ、僕の全てを信じてくれている。そんな、純粋な優しさを、
「決まりだ」
僕は、自分でも気付かぬうちに笑みを零していた。
『何ガ可笑シイ! 死ノ恐怖デオカシクナッタカ?』
音速を超える速度で突進しながら、ブル・ドラゴンが問う。
「違うよ。ただ……僕には
『タワケガ! ドウ足搔コウト、貴様ニ勝チ目ナドナイ!!』
「いいや。側にいる優しい子をひとり置き去りにして、死ねるわけないでしょ!」
覚悟は決まった。
相打ち覚悟の一発じゃない。勝って、みんな揃って生き残るための一撃だ。
肉薄する巨体を穴が開くほどに凝視して、今できるありったけのスキルを左腕に起動させた。
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