第二十六話 荒技の帰還?

 ――ほどなくして、静かな地底湖のほとりに着いた。


 上を見上げれば、重力に逆らって吸い込まれそうな程の闇が広がっている。円筒を囲む壁には、よく見るといくつも巣穴のような入り口があり、あそこからモンスターが出てくるのだとわかった。




「それで、俺達はどうすれば……」




 おずおずと質問してきたカルムに、「少し待っててください」と返す。


 それから、ダンジョンの壁に向かって拳を構え、《衝撃拳フル・インパクト》を起動した。




「《衝撃拳フル・インパクト》―円破壊サークル・ブレイク




 拳に特殊な回転を乗せて放つ。


 すると、衝撃波が円形に広がって、直径10メートル程度の分厚い丸形の板を壁から切り出した。




 壁からすっぽ抜けた円形の板は、重力に任せて湖に落ちる。


 盛大に水しぶきを上げて着水したそれは、簡易筏かんいいかだのように水面に浮いていた。




「ここに全員で乗ってください」


「あ、ああ。わかったよ」




 カルムは頷いて、僕に言われるがまま、メンバーに指示を飛ばした。




「全員、湖の上に浮いている筏に飛び乗るんだ!」




△▼△▼△▼




「――全員乗ったよ」




 しばらくして、全員が筏の上に乗ったのを確認したカルムは、筏の上から僕に合図を送ってきた。




「わかりました。では、少しの間、皆さんには耳を塞いでいていただきます。意識を強く保ってないと、気絶しちゃうかもしれないので、頑張ってください」


「え? は、はい」




 カルムはいぶかしげに眉を寄せながらも、言われた通りにする。


 全員が耳を塞いだのを確認して、僕は胸が破裂するくらい大きく息を吸い込んだ。




(スキル――《威嚇シャウト》、全開起動!)




 溜め込んだ息を、一気に放出した。


 喉が張り裂けんばかりの、ありったけの大声を絞り出して。


 


「ウォオオオオオオオオオオッッッ!!!」




 咆哮が渦を巻いて、円筒形の空間をビリビリと震わせ、湖面が大きく波打つ。


 超高周波を含んだ大声が、直上に登っていく。




「……よし」




 これで、カルム達が上昇しても、巣穴に潜んでいるモンスターは襲ってこないはずだ。


 咆哮の影響でたぶん、気絶するか逃げるかしているだろう。


 


「大丈夫でしたか?」




 筏に乗っていたメンバー達に確認を取る。




「あ、ああ。なんとか」




 カルムは、苦笑いしながら答えた。


 他のメンバーも、額に冷や汗が浮いている人は多くいるが、気を失っている者はいない。腐っても、最下層まで攻略に来た猛者達なんだと再確認した。




「あ、そうだ。クレアは……」




 僕は、後ろに控えているはずのクレアを振り返る。


 と――




「お、お星様に手が届きそう……むにゃ」




 あらま、気絶してる。


 クレアは、その場に倒れて目をグルグルと回していた。(ちなみに、とーめちゃんも『きゅう』と言って、泡を吹いている)




「ご、ごめんな」




 たぶん夢の中であろう二人に軽く謝って、僕はまた前を見た。




「さて、お別れです。短い間ですが、お世話になりました」




 僕は軽く頭を下げて、スキル《粘着スティッキー》を起動した。


 白くて丸い粘着玉を投げて、筏の縁にいくつか取り付ける。




「お世話になったというなら、俺達の方さ」


「ああ、まッたくだ。おい小僧、上に戻ったらお前の噂ばらまいとくぜ? 大人数パーティが束になッても勝てなかッた相手を、たッた一人でブッ潰したヤツがいるッてよォ」




 カルムとバールが、口々に言った。




「よろしくお願いしますね」




 僕は苦笑しつつ、視線を横滑りさせる。


 すると、眠そうな目でこちらを見ているナナミが映った。




「お元気で頑張って欲しいの」




 小声でそう言ってきたナナミに、力強く頷き返す。それから、一同を見まわして言った。




「さあ、これから一発派手にぶちかますんで、全員衝撃に備えてしっかり掴まっていてくださいね」


「「「「?」」」」




 きょとんと首を傾げるカルム達を尻目に、声高らかに叫んだ。




「魔法スキル《上昇烈風ノックアップ・ゲイル》ッ!」




 《上昇烈風ノックアップ・ゲイル》。


 MPを50消費して起動する、制圧戦に適した風魔法。起動点を中心に、上へ突き上げる巨大な嵐を生み出す。




 ボコボコと音を立てて、湖面が渦巻き、更に筏の下の水が膨れあがる。




「な、なんか嫌な予感が……」




 ごくりと唾を飲み込むカルム。


 次の瞬間。




 ドォオオオンッ!


 と音を立てて、筏を乗せた巨大な水柱が立ち上がった!

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