第十七話 対峙。SSクラスのジャイアント・ゴーレム

(と、遠いなっ!)




 今更ながらそう思う。


 全速力で駆け抜けているのに、一向に距離が縮まらない。


 


 思えば、僕の位置からは人間が豆粒くらいの大きさに見えたんだ。4、500メートルは離れていても、なんら不思議じゃない。




(マズいな……接敵までに時間がかかりすぎる!)




 額から出た脂汗が後方に散った瞬間、再び巨人の腕が突き上げられる。


 動けない人間達に、トドメを刺す気だ。




「させないっ!」




 できれば接敵してから使いたかったが。という気持ちを呑み込んで、スキル《速度超過スピードアップ》を起動。


 一時的に移動速度を加速させ、巨人の元へ。




(で、デカい!)




 近づいてわかる、常識を逸脱した巨人のデカさ。


 全高は500メートルを優に超える。頭などは、あまりに高い位置にありすぎて、もはや見えないレベルだ。




「ま、マジかこいつ!?」




 見かけにビビるな、僕!!


 恐れる心を叱咤しったし、倒れている人々の間をすり抜け、巨人に向かって飛び込んでゆく。




 すれ違い様、「嫌だ……まだ死にたくない!」「やめてくれぇ!」と半狂乱で命乞いをする人々の声が聞こえた。




 そんな叫びも空しく、遂に振り下ろされる超巨大な拳。


 赤い空も相まって、まるで世界の終わりかのような光景だ。今すぐにでもしっぽを巻いて逃げ出したい。




 それでも――




 ――「そんなこと知ってる! だけど、助けたい!」――




 涙ながらに訴えるクレアの姿が脳裏に映り。


 いつの日だったか、今の状況と同じように、後ろに倒れている人がいて。強敵の前に飛び出して行った、弱っちい誰かさんの記憶が蘇る。




 別に人助けとか、そういうことを意識していたわけじゃない。


 ただ、目の前で人の命が消えると思うと――たまらなく怖くなっただけ。




 ダンジョンには、一攫千金を狙って挑む者、スリルを楽しむ者、ダンジョンを攻略して名声を手にしたいと野望を抱く者。


 ありとあらゆる種類の人間が訪れる。




 そういう種類の人間は、興味や野望ばかりに意識が行って、大抵自分の命はおろそかに考える。中には、「ダンジョンに挑む奴はみんな勇敢で、死ぬ覚悟ができてるんだ」などとのたまう者さえいるくらいだ。




 そんな覚悟を持っているのは、本気で迷宮ダンジョンという名の、悪夢の権化ごんげのような魔窟に、人生の全てを捧げることをちかうような、狂気に満ちた愚かな賢者けんじゃだけだ。




 死の淵にぶち当たったときには、もう遅い。


 死ぬ事なんて考えてもいなかった人間が、最後の最後で気付く「死にたくない」という本音。




 それを今、目の当たりにしているから、クレアの思いも背負って、自ら死地に飛び込むのだ。


 何より――自分の命を優先して今にも消えかけている命を見捨てるのなら、あのとき僕を突き落としたあいつと同じレベルになってしまう。


 それだけは、絶対に嫌だ。




 落ちてくる拳に焦点を結び、ひたすら強く地面を蹴る。


 この拳を止めるには、片手だけの《衝撃拳フル・インパクト》では到底力不足。


だから。




「両手で受け止める!」




 平手の状態で両腕を引き絞り、スキル《衝撃拳フル・インパクト》を両手に起動。


 《速度超過スピードアップ》で加速した勢いも上乗せして、両腕を伸ばし、一気に衝撃波を解き放った。




「《衝撃拳フル・インパクト》―二重対抗ダブル・カウンターッ!」




 衝撃波と衝撃波が、ぶつかり合う。


 僕の平手と巨人の拳は、触れあっていない。


 彼我の間に猛烈な風と衝撃波が生まれ、互いに干渉し合っているのだ。




 両者の実力は、完全に拮抗きっこう


 圧し勝つこともないが、圧し負けることもない。――最初の数秒間だけは。




「くっ……!」




 すぐに力の均衡が崩れ、僕の方が圧され始める。


 


「こんの……バカ力がっ!」




 一体こいつ、どんなパワーしてるんだ!?


 余裕のない中、辛うじてスキル《サーチ》を起動する。




◆◆◆◆◆◆




 ジャイアント・ゴーレム


 Lv 180


 HP 12040/14800


 MP 1600/2220


 STR 2180


 DEF 1900


 DEX 495


 AGI 287


 LUK 132




 スキル(通常) 《衝撃拳フル・インパクト》 《威嚇シャウト》 《硬質化ウェア・ハード》 《ダメージ増加+50%》 


 スキル(魔法) 《紅炎極砲フレア・カノン》 《閃光噴射フラッシュ・ジェット


 ランク SSクラス




◆◆◆◆◆◆




 ああ、そうだよね。


 こんな馬鹿げた火力してる奴が、Sクラスで収まるわけないっ!




 僕は思わず歯噛みする。


 HP一万越えのSSクラスモンスター。


 攻撃力は、僕の4倍以上。スキルも超強力。




(こんなのに、どう勝てと……?)




 無理ゲーすぎて逆に笑えてくる。


 さっきまで、それなりに実力者揃いであろうパーティが絶え間なく攻撃していたというのに、HPはほんの3000弱しか減っていない。




 だが、現状それ以上の問題があるわけで。




「まっずいな、これ……! このままじゃ潰される!」




 圧倒的パワーで圧され、地面に膝を突く。


 正面からの打ち合いは愚策だ。頭ではわかっているが、後ろには退けない。


 背後には、動けずにいる愉快な仲間達(みんな知らない人だけど)がいるからだ。




(これ以上は下がれない! かといって、押し返せる見込みもない……だったら!)




 ――相手のパワーを打ち消せないなら、その有り余るパワーを利用しつつ、直撃点を被害が出ない位置に変えればいい。




 不意に、力を込める向きを大きく変えた。


 拮抗させていた力の中心点をずらしたことで、ジャイアント・ゴーレムの拳は、その場にたたき付けられる。




「よしっ! 上手くいった!」




 続けざまに、まだギリギリ効果が残っている《速度超過スピードアップ》で、後方に飛び下がる。


 そして、魔法スキル《氷三叉槍アイス・トライデント》を起動。




 絶対零度の三つまた槍をたずさえて、体勢が崩れたジャイアント・ゴーレムめがけ、力一杯投擲した。

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