第十五話 新たな仲間、とーめちゃん参戦

「……はぁ、仕方ない。飼っていいよ」




 悩んだ果てに、渋々承諾した。


 なんか、このまま「ダメ」の一点張りだと、泣きじゃくるクレアを引きずって歩くことになりそうだったから。




「ほんと!? わーい!!」




 両手もろてを挙げて喜ぶクレアを尻目に、「行くぞ」と一声掛けて歩き出した。




「じゃあ、名前決めようよ!」




 クリアスライムを胸に抱きかかえて、早足で僕の後を追いながら、クレアは提案してきた。




「名前?」


「うん」


「飼うって決めたのはクレアだし、お前が好きに決めていいよ」


「ほんと!? じゃあ~、どーしようかな~」




 クリアスライムと目を合わせながら、クレアは首を傾げる。




「そうだ! スケスケ太郎とかは?」


「ネーミングセンスどうなってんの……」


「えぇ~、変かな?」


「どう考えたってダサいでしょ。ていうか、大前提としてこの子、男の子なのかな?」


「知らなーい。じゃあ、スケ子ことかの方がいいかな」


「……うん。とりあえず、スケスケという単語から離れようか」




 ジト目でツッコミを入れる。


 さすがに、壊滅的なネーミングセンスと言わざるを得ない。




「むぅ。じゃあ、どんな名前ならいいの? 私のセンスにケチ付けるなら、エランくんが名前付けてよ」


「えー、僕が?」


「うん!」




 正味、めんどくさいんだけど。


 渋々クリアスライムの方を見る。黒豆のような瞳と目が合った。


 なんとも涼しげな、透明感のある見た目だ。




(透明かぁ……)




 ちょっと考えて、頭に浮かんだ名前を呟いた。




透明とーめーだから、とーめちゃん……とか」


「おー! なんか普通だけど、その普通さが普通にしっくり来る! 普通にいいじゃん!」


「普通って言い過ぎ」


「だって普通なんだもん」




 と言いつつ、とくに文句も言ってこないから、彼女の中では及第点みたいだ。




「じゃあ、とーめちゃんで採用ということで」


「うん! 今日から君の名前はとーめちゃんだよ。よろしくね!」




 クレアはクリアスライム――もとい、とーめちゃんに笑いかける。


 すると、とーめちゃんは『もきゅー』と可愛らしい声を出して、ぴょんと跳ねるのだった。




(しかし……なんでこんな場所にDクラスのモンスターがいたんだろう)




 やはり気になる。


 思い返せば、僕がここに落とされたのも、Sクラスモンスターのサイクロプスが現れて襲ってきたからだ。




 第七階層では、どんなに凶暴でもDかCクラスまでのモンスターしか現れないというのに。


 


 上層で、いるはずのない高クラスモンスターが出現し、最下層にも、いるはずのない低クラスモンスターが現れた。


 この異常事態は、単なる偶然なのだろうか?




(何か、このダンジョンに異変が起こってる……?)




 いや、まさかね。


 考えすぎだろう。




 そう決めつけ、水に流した――そのときだった。 




 ずぅうううん。


 腹の底を響かせるような地響きが鳴った。


 天井の岩が割れて、欠片がぱらぱらと落ちてくる。




 続いて、『ウォオオオオオオ』といううなり声が、洞窟の奥から響いてきた。


 


「あの声は……」




 なんとなく、聞き覚えがある。


 サイクロプスと同じ、《威嚇シャウト》の咆哮ほうこうだ。


 ということは。




「誰か闘ってる!」


「え? ほんとに?」


「ああ、走るよ!」




 言うが早いか、僕は走り出した。




「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」


『きゅ、きゅー!』




 慌てて後を付けてくるクレア達を置き去りに、僕はひた走る。


 やがて、だだっ広い空間に出た。

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