第四話 跳蜂の大群

「あ、あれは!!」




 暗闇の向こうから現れた複数の影に、目を丸くした。


 人間の大人と変わらない大きさを持つ、巨大な蜂のようなモンスターだ。


 ただ一点、蜂と大きく異なっているのは、後ろ足がまるでカエルの足のように、筋肉がパンパンに詰まっている点だ。




 そいつらが、だだっ広い洞窟全体を埋め尽くしながら、迫ってくる。




「ちっ、スキル《サーチ》!」




 咄嗟にステータス確認のスキルを起動し、飛んで来るモンスターの一体を調べる。




◆◆◆◆◆◆




 跳蜂バンブルビィ


 Lv 43


 HP 1029/1180


 MP 42/85


 STR 268


 DEF 202


 DEX 240


 AGI 361


 LUK 99




 スキル(通常) 《猛毒針ポイズン・ニードル》 《噛砕バイト・クラッシュ》 《飛行フライト


 スキル(魔法) 《蒼放電ブルー・リリース


 ランク Sクラス




◆◆◆◆◆◆




「え~と、このレベルが目算ざっと100体以上……」




 流石最下層。


 殺す気満々みたいだ。あの異様に肥大化した足とスキル構成を見た感じ、戦闘手段は機動力を活かした集団近接戦闘。




 だったらまずは。




「距離を詰めさせない!」




 スキル《衝撃拳フル・インパクト》を選択。


 腰を落とし、腰の横に構えた拳にエネルギーを貯める。肘から先が淡いオレンジ色に輝くと同時に、腕を捻りながら正拳突きを繰り出した。




 指向性を持った衝撃波が、真っ直ぐに一体の跳蜂バンブルビィめがけて駆け抜け、激突する――そう確信した瞬間、敵の姿が横振れに消えた。




「なっ!」




 衝撃波が穿ったのは、敵の残像。


 本体は有り得ない速度で真横へ方向転換し、洞窟の壁に張り付いていた。




 ガチガチと顎を鳴らしながら、そいつは僕を睨みつける。


 次の瞬間、そいつは壁を蹴って真正面から僕の方に突っ込んできた。




 周りの跳蜂バンブルビィ達との隊列を乱し、音すら置き去りにする速度で肉薄する。




(短気なのは蜂の本能かよっ!?)




 冷や汗を流しつつ飛び下がり、僕は急いでスキル《空気障壁エア・シールド》を真正面に展開した。


 凝固した空気が壁を形成し、僕を守る壁となる。




 ガキィイインッ!


 突進してきた跳蜂バンブルビィが《空気障壁エア・シールド》に激突したが、空気障壁はビクともしない。




(た、耐えた!)




 サイクロプスを倒してレベルが上昇したことにともない、DEF(防御力)が向上したお陰だ。《空気障壁エア・シールド》の強度が上がっているみたいだ。




 だが、一匹防いでも意味は無い。


 空気障壁にはばまれた跳蜂バンブルビィの影から、新たな跳蜂バンブルビィが飛び出す。




 そいつは飛翔しながらお尻を丸め、先端からギラリと光る毒針を出した。




「やべっ!」




 すかさず横に飛び、毒針を刺そうと突進してきた敵を躱す。




「あ、危なっ!」




 起き上がり、そいつを睨みつけようとして――唖然とした。


 なぜなら。




「か、か……囲まれてるぅううううう!」




 いつの間にか、跳蜂バンブルビィの群れに囲まれていたのだ。


 おそらく、二度の奇襲に気を取られている隙に素早く展開したのだろう。


 恐るべき野生の力……なんて感心している場合じゃない!




 四面楚歌とはまさにこのこと。


 見渡す限り、跳蜂バンブルビィ達は、毒針を突き出し顎をガチガチ鳴らして、今にも飛びかかろうとしている。




 現状、かなりピンチだ。


 僕が持つ唯一の攻撃スキル《衝撃拳フル・インパクト》は、貯めて一撃を放つ大技。


 四方八方に散らばった敵を一網打尽にするのには、向いていない。


 加えて、奴等は衝撃波を容易く避けてしまうだけの機動力を持つ。




(詰んだ……か?)




 冷や汗が頬を伝って流れ落ちる。


 汗の雫が一滴、床を叩いた。それを合図に。




 大顎を開き、ブンブンと羽根を震わせながら跳蜂バンブルビィ達が一斉に襲ってきた。

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