第三話 最初のレベルアップ
右腕が淡いオレンジ色に輝き、次の瞬間。
突き立てた拳を中心に、指向性を持った
『グワァアアアアッ!?』
右腕を付け根から失ったサイクロプスは、大きく仰け反る。
(す、すご!? えっ!? マジかこの威力!)
自分の右手を握ったり開いたりしながら、僕は慄然とする。
あえてもう一度言おう。僕の攻撃力はたったの32だ。
その弱小攻撃力に上乗せされる形で繰り出された必殺は、いとも容易くSクラスモンスターの拳を打ち砕いた。
「い、行ける……!」
拳を握りしめ、サイクロプスを睨みつける。
半壊状態のサイクロプスは、Sクラスモンスターの意地を見せつけるかのように、残された左腕を振り上げる。
(ここで決着をつける!)
サイクロプスが、地面を強く踏ん張るのを見届けて、僕は左手を掲げた。
左手の肘から先か眩い光を放ち、熱く胎動する。
「《
貯めたエネルギーを一気に解き放つように、左手を振り下ろし、思いっきり地面を殴りつけた。
衝撃が僕を中心に波及し、次々と亀裂が入ってゆく。
亀裂から眩い光が吹き出したかと思うと、まるで大地丸ごと崩落するかのように地面が砕けた。
その攻撃で、サイクロプスの体勢が大きく崩れる。
今がチャンスだ。
右手を引き絞りながら、一息に突進する。
ガラ空きになった
「《
胴体を突き抜ける衝撃波。
全身をボロボロに崩壊させながら、サイクロプスは断末魔をあげて倒れ込んだ。
「か、勝った……」
僕は、しばらくの間その場に呆然と立ち尽くしていた。
個人ランクEの僕が、Sクラスのモンスターを倒したという実感が、湧かなかったから。
けれど、「レベルアップしました! MPが全回復しました!」という音声が頭の中に流れ込んできて、僕は我に返った。
「そ、そうだ。レベル……どんくらい上がったんだ?」
Sクラスモンスターを狩ったんだ。元のレベルが一桁だから、きっと20くらいまでは上がっているはず……。
それが証拠に、普段は「レベルアップしました! MPが全回復しました!」の音声で止まるのに、今回は「HP上限が上昇しました! 新たな魔法スキルを獲得しました! 新たなアイテムを獲得しました! ……」
音声が一向に止まる気配を見せない。
僕は慌てて、ステータスを確認した。
◆◆◆◆◆◆
エラン
Lv 8 → 52
HP 134 → 1220
MP 47 → 290
STR 32 → 221
DEF 23 → 187
DEX 12 → 89
AGI 19 → 101
LUK 48 → 72
スキル(通常) 《
スキル(魔法) 《
ユニークスキル 《
アイテム 《ナイフ》×1 《HP回復ポーション》×24 《MP回復ポーション》×19 《状態異常無効化の巻物》×20 《
個人ランクE → B
所属 《緑青の剣》(追放)
◆◆◆◆◆◆
れ、レベル52だって!?
しかも個人ランクが、一気にEからB!? ウッズの奴は確かCだったから……さっそく越えちゃったよ!
想像以上にレベルアップしてしまった。
「しかも、魔鉱石までこんなにたくさん……」
ゲットした赤・黄・青、三色の宝石を、手の中で転がす。
魔鉱石は、ダンジョン内のモンスターを倒したり、宝箱を見つけたりすることで入手できる、魔法鉱物である。
アクセサリーに加工されたり、国外に輸出されたりしていて、王国内外問わず需要が多い。王国経済の実に四割を占める重要資源だ。
そんな魔鉱石はダンジョンでしか入手できない稀少資源であり、ダンジョン攻略者達は入手した魔鉱石を攻略者ギルドで売り払うことで資金を得て、生計を立てている。
ちなみにレア度は赤、黄、青の順で高い。赤に至っては、Aクラス以上のモンスター・及び40階層より下の宝箱からしか出てこないので今日初めて見た。
「攻略者ギルドに戻って売ったら、いくらになるかな……」
背中に背負ったリュックを下ろし、手に入れた魔鉱石を側面のチャック付きポケットに押し込んだ。
一応言っておくと、比較的レア度の低い青魔鉱石をゲットした時にNew! と表示が出たのは、文字通り初めてゲットしたからである。
ウッズが「お前に高価なものは預けられん」と言って、持たせてくれなかった上に、自分の取り分も没収されたのだ。
今思えば、その頃から「荷物持ち」としてでさえ信用されていなかったのだと気付くが、今更何を言っても詮無きことだ。
今頃アイツは、僕が居なくなって清々しているだろう。
燃えるような赤髪と、凍えるような青い目を持った青年の顔を思い浮かべる。
彼と顔をつきあわせる、ぞくりと背筋が凍った。彼の笑っている顔など、よくよく考えれば一度も見たことがなかったっけ……。目を合わせれば、いつも小言やら愚痴を言われていた。
思い出すだけで腹が立つが、とにもかくにも、この最下層から脱出しなければ文句の一つも言いに行けない。
「この第89階層は、S~SSクラスのモンスターが蔓延る魔窟だ。油断はできない」
ずっしりと重いリュックを背負い直し、肩に通したリュックのベルトを強く握りしめる。
本来最下層なんて、個人ランクSの攻略者が数十人規模のパーティを組み、一致団結して挑んでようやく制覇できるかできないかというレベルだ。
ついさっきBランクに上がったばかりのへっぽこ攻略者が、単騎で攻略できるほど甘いものじゃない。
(でも、やるしかないんだ!)
「無理だ、不可能だ」と泣きわめいても事態は好転しない。
覚悟を決めろ、僕!
拳と拳を付き合わせて、僕は真っ暗な洞窟のようになっている道の奥へと足を踏み入れた。
その瞬間、ブーンという不気味な音が暗闇の向こうから聞こえてきた。それも、聞く限り複数の音が重なっている。
「何かが……来る。それも、何体も」
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