第8話 予想外、

 ローラ?を抱えながら、フローラは魔法で温泉の上空まで瞬時に移動すると、

空中で魔法を解き、そのまま温泉めがけてダイブした。

 

 フローラが着地すると、波が大きく立ち、温泉の湯が暴れた。

 

 「はぁ、はぁ。」フローラは息が荒くなる。

 「さあ、お風呂ですよ。」フローラが、抱えたローラ?毎、温泉の湯に浸かろうとした。

 その時、ローラ?の右拳がフローラの口目掛けて打ち込まれる。

  

 ぺち、という音。

 

 「申し訳ございません!お服を召されたままでしたね!私、つい気が早まってしまいまして。今、脱がせて頂、きま、す、はぁ、はぁ、」ローラは色々な笑みを浮かべては隠して、言った。

 

 その時、ローラ?の左右の拳が、交互に、フローラの鼻に打ち込まれる。

 

 ぺちぺち、という音。

 

 「ローラ様!そんなに慌てないで下さい!今脱がせて頂きますから。では、そのお手を通させて頂きますね。」そう言ってフローラは、ローラ?の両腕を優しく掴む。

 

 その時、ローラ?は頭を後ろへ大きくのけ反らせ、渾身の頭突きをフローラの口元にくらわす。

 

 ぺたん、という音。

 

 (き、効かない!なんだこいつ!)

 ローラ?は、自分の力ではフローラに全く歯が立た無いという事実と、

その相手に、両腕をしっかり掴まれ、逃げる事すら出来ないという状況に恐怖し、

顔を引き攣らせた。

 

 フローラは、優しく微笑みかける。

 「ローラ様、お母さんだと思って、遠慮なく、甘えて下さいね。」

 そう言って、フローラはローラ?を抱き寄せ、優しく抱きしめた。

 

 ローラ?であるパインは、抱きつくフローラに抵抗しながら、違和感に気づいた。

 (こいつ、何でさっきから、私の事をローラって、、)

 

 パインはもう一つの違和感に気づいた。

 (なんか、体が小さく感じる?、、いや、なってる!)パインは、自分の胸が、

 フローラの胸に押し負けた事で気がついた。自分の胸が無い事に。

 (お、おのれ、人の胸を小さくするなんて!なんて破廉恥な魔法!悪魔め!)

 

 胸に、ローラ?の顔を押し当てるフローラ。

 

 ローラ?は抵抗する。手当たり次第に掴み、じたばたと動く。

 フローラの服は、やがて強く引きちぎられてしまった。

 

 「まあ!」

 フローラは喜びのあまり、ローラ?を手放した。

 咄嗟に、ローラ?は距離を取る。

 

 温泉の湯気が互いを包み込んだ。

 

 その頃、ローラの家では、ローラと作者はまだ、沢山のローラの様なものに押し潰されそうになっていた。

 家の中で色々なものが軋む。

 (い、家が壊れちゃう、)

 

 作者は記した

 『神野は叫んだ。

 「ローラ!外を見てみろ、地底人が侵略して来ているぞ!」』

 

 「‥!‥、‥!」神野は顔にも体にもグネグネローラが何層にも巻き付いていて、身動きも取れず、言葉も発する事が出来なくなっていた。

 

 ローラは、ある事に気づいた。それは、作者である神野というキャラクターがこの異世界で起きている事象に影響を受けながらも、作者自身はそれを把握していないという事だった。

 巻きついているグネグネローラには目もくれず、地底人の襲来イベントに突入しようとしている事が良い証拠だった。

 ここで何が起こっていても、作者のシナリオは概ね進行するというルールを、ローラは知った。

 

 作者は記した。

 『ローラは家の外に出て叫んだ。

 「あ、あ、あれは地底人!こんな中世ヨーロッパの時代に、地底人なんて何故!」

 すると、地底人は叫んだ!

 「フフ、お前を倒す為だよ!」』

 

 (ああ、作者様、今日も迷走が、、)

 ローラの様なものが、ムニムニと家の外に放出される。

 

 ローラは、いつも通りのとんでも展開に、安心感を覚えた。

 (なんだか最近は、作者様が描く物語の方が、日常よりも安心出来る気がする。)

 

 家から出て来た順に、ローラの様な物は科白を述べる。

 

 宇宙人も一人一人に科白を返している。

 そんなやり取りが家の中のローラにも聞こえてくる。ローラが家から出られる様になるまでは、当分時間がかかりそうだった。

 

 その時、ローラは耳を疑った。

 「んだよ、こいつらいつまで出てくんだ。地底人の力、舐めんなよー。」

 スパッと、何かの切れる音を、そして地底人の声をローラは聞いた。

 

 (地底人さんが、作者様の記しに従わないで、勝手に動いてる!)

 初めて感じる、生々しい恐怖感に、ローラは背筋の凍りつく感覚を、また初めて経験した。

 

 

 

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