好きって言って

時刻は、午後11時。

パブロは、毎日、大学の図書館で勉強してから、帰宅する。

これでも、今日は早く帰って来た方だ。


パブロがリビングに行くと、絵理がソファで寝てしまっていた。

(よう寝るやつだな…)

「絵理、ベットで寝な」

パブロは、絵理の肩を強めに叩いた。

「ん…、おかえり…」

「ベット。行きな」

「…ん」

「おいっ」

また、肩を叩く。

「…ん、起きる…。待ってたら寝ちゃった」

えりは上体を起こす。

「ん?待ってたの?」

「うん」


パブロは冷蔵庫から、ペットボトルを出してきて、ソファの空いた場所に座る。

「何?」

「指輪…」

絵理は怒った顔で言った。

「あぁ…」

「バカって何?」

「いや、ウソって書いてたしょ」

「書いてあったけども…」

パブロはペットボトルの蓋を開けて、お茶を飲んだ。

「…それにバカじゃん…」

パブロが、拗ねたように言った。


昨日、大学の友達の有馬に告白された事と、自分の事を周りに言ってなかった事に怒っているのだ。

絵理は気まずくなった。

「ごめん…」

「ん」 


「あのね…この指輪、めっちゃ光るらしくて。私には見えないんだけど…」

絵理は気まずそうにしながら言った。

「…男よけだから、他の人には目立つようにした。やっぱ、ちょっとダサかったな…。もうちょっと自然に…」

パブロは指輪に触れようとした。

「いいの、いいの!もう、皆にすごい見られたから、変えたら逆に変に思うよ」

「そう?目立たせすぎたか…」

パブロはお茶を飲みながら、横目で見た。


「これ。お守りだから外すなよ」

「あ、孝司も言ってたな、お守りって」

「うん、明日から俺、卒業試験前の合宿で、家にいないから。気休めだけどつけてて」


「…パブロが作ったなら、変な機能ついてそう」

絵理は指輪を見つめながら言った。

(変て…。可愛くねーな)

「バリアとか。つけてる間、健康になったり…」

「どっかの通販の指輪じゃないぞ」

「ハハッ。 ありがとう」

「うん…」

パブロは、ちょっとだけムッとしていた。


「ありがとう。嬉しい」

「そ?」

「男よけって所も含めて」

パブロは少し恥ずかしそうにした。

絵理はその瞬間をのがさず、顔を覗きこんだ。

「かわいー」

「ムカつくな…」

絵理はさらに顔を覗き込もうとした。

「見んな」

ワチャワチャと攻防を続けたが、男の力には敵わなかった。

「バカか」

「んー」

「バカか」

「2回言うな」

「アホ」

2人は笑った。


「卒業試験頑張ってね」

(俺が言わなかったとはいえ、呑気だな…)

パブロは、卒業試験で10位以内に入らないと、人間界にいられなくなる。

「うん」

(マジで、頑張んなきゃ)

「少しでも勉強しなきゃ…。やってくる」

「うん」

絵理は、寂しそうな顔をした。

パブロはそれに気づいて、

「もう一個男避け…」

と言って、頬にキスをした。

「バリア機能あるから」

「本当〜?」

絵理は笑った。

「絵理…」

パブロは、ほっぺたを、つまんだ。

「…好きだよ…」

パブロは恥ずかしくて、顔をそむけた。

「昨日…。昨日はそう言ってほしかったのっ」

そういうと立ち上がって自分の部屋に入っていった。


絵理は思い出した。

パブロが一人暮らししてたとき、ほっぺをつまんで、大好きだよとか愛してると言ってくれた事を。

一緒に住むようになって、孝司がいるし、恥ずかしくてやめてたけど。

忘れてた自分が嫌になった。


絵理は、勉強の邪魔になるかもと思いつつ、パブロの部屋をノックして、ドアを少しだけ開けて、声をかけた。

「…あの、私も…」

パブロは振り返って真面目な顔で

「私も何?」

とちょっと怖く言った。

(怖っ)

「大好きだよ」

絵理はそう言うと扉をバタンと閉めた。


パブロは ” 好き " のお返えしが " 大好き "

だった事に、笑みを抑えきれなかった。


パブロは絵理の部屋に行った。

「わ、何?」

絵理は恥ずかしくて、目線をそらしながら聞いた。

「いや、嬉しくて」

パブロは昨日の孝司のアドバイスを実行して素直に言った。

あまりに素直に言うので、絵理はびっくりした。

パブロは絵理の手を掴んで引き寄せた。

「好き」

パブロはそう言うと、ゆっくり顔を近づけた。

ゆっくり過ぎて、絵理の心臓のバクバクがどんどん大きくなっていった。

パブロは軽くキスした。

つぎに優しく唇を噛んだ。

(やべぇ、止まらなくなる…)

何度か繰り返したあと、深いキスに変わっていった。


パブロは、突然、カバっと絵理と自分の体を離した。

「やばい!止まらなくなる!」

「うん」

絵理の真っ直ぐな目を見て、ぐらついたが、ぐっとこらえた。

「卒業試験!卒業試験終わったら!しよ!」

「…」

「ダメだ!やばいもん!」


「うん」

絵理はそれだけ言った。

パブロはもう一回くらいキスしたかったが、本当に止まらなくなりそうで、ぐっとこらえた。

絵理の手を一回握って離した。

「頑張る!」

そう言って部屋を出て行った。

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