指輪
パブロにキスをされて、えりは、布団の中でモンモンとしていた。
(キスされて眠れない…って中学生かっ)
絵理とパブロは付き合いこそ長いが、ここ数年、勉強で本当に忙しく、恋人らしい事はしていなかった。
パブロの事はずっと大切な存在だが、寂しくもあった。
次の日。
「孝司…、おはよ…」
パブロが眠そうに起きてきた。
冷蔵庫から、ヨーグルトを出して、ダイニングテーブルに座った。
「おはよ」
「絵理はまだ起きてないんだ」
「うん…」
孝司はパブロがまだ怒ってるんじゃないかと心配していた。
パブロはそれに気がついた。
「…孝司は、かわいいなぁ…」
「は?!」
「いつも、俺と絵理の心配させてごめんね」
パブロはヨーグルトを食べながら言った。
「そうだよ…。心臓に悪いんだよ。早く結婚でもしてほしいよ…。まじで」
「ハハッ。そうなったらなったで心配は続くぞ、孝司君」
「まじかよ…」
孝司はパンにかじりつく。
「あー、そうだ。孝司、これ。あげる。ピアス」
パブロは、立ち上がって、孝司の耳たぶをそっとさわった。
孝司の耳が軽く光る。
「何?」
「ピアス型のお守り」
「お守り?」
「うん、明日から卒業試験前の合宿で、俺、家に居ないから。ま、気休めだけど」
「ふ~ん」
孝司は自分の耳たぶを触る。
「気休めでも、パブロ兄ちゃんのくれるものなら、何か違うんでしょ?」
孝司は笑って言う。
「…すんげぇ信頼してくれるな。嬉しい…」
パブロは嬉しそうに笑った。
「パブロ兄ちゃんさぁ…」
「ん?」
「絵理にも、そんな風に素直になればいいのに…」
「はい…。すいません…」
孝司はニヤッとしながら、パブロを睨み
つけた。
「孝司」
「ん?」
「この試験終わったらさ」
「うん」
「絵理にプロポーズしようと、思って」
「ええーー?!!」
「声がでかいっ!!」
パブロは人差し指を口にあてた。
「ま、試験に受かったらね」
パブロは、サッと立ち上がった。
「じゃ、絵理にもお守り渡してくるね」
孝司には見せなかったが、パブロはめちゃめちゃ顔が赤くなっていた。
(やべぇ。恥ず…)
呼吸を整えて、パブロは絵理の部屋をノックした。
(あれ?…まだ寝てる?)
パブロはドアをそっと開けた。
「絵理?」
返事はない。
パブロはベットに近づいた。
絵理はスヤスヤ寝ていた。
寝顔を見てたら、昨日のイライラが蘇ってきて、鼻をギュっと強くつまんだ。
「…う!」
軽いうめき声をあげたが、起きることはなかった。
(起きないんかい…。ま、いいや…。お守り
、勝手につけとこ…)
パブロは絵理の部屋から出てきてすぐに、荷物を持って
「行ってきまーす」
と孝司の顔も見ず、出て行った。
「え?!いってらっしゃい」
その5分後。
「おはよ!寝坊しちゃったー」
絵理はバタバタと準備を始める。
「あれ?パブロ兄ちゃんと会わなかった?出かける前、絵理の部屋に行ったんだけど」
「え!そうなの?私、寝てたから…」
(寝るなよ。昨日の今日で)
「じゃ、お守りもらってないの?」
「え?お守り?あー、時間ない。じゃ行ってきます!孝司もいってらっしゃい」
「うん」
絵理が学校に着くと、有馬と仲良しの梨花と蘭が廊下で喋っていた。
「あー!絵理!有馬から聞いたよ!彼氏いたの?!」
「うん、ごめんね。言ってなくて…」
「もー、知らなかったから、有馬けしかけちゃったじゃん…」
梨花にそう言われ、有馬は恥ずかしそうにした。
「あれ?!絵理、指輪してんじゃん!しかも薬指!」
蘭が絵理の手を見た。
「え?」
絵理が自分の手を見ると、指輪がはめられてた。
「あれ?」
「ね…。なんか、めっちゃ光ってない?」
「うわっ!緑と青い光出た!すんごい光ってる!」
「え?そんなに?」
絵理には、そんなふうには見えなかった。
絵理は指輪を一回外して、観察してみた。
「ん?…何か文字彫ってある…B.a.k.a…?」
(ばか?!)
その文字はすぐに消え、また文字が浮き上がった。
(u.s.o…。あぁ、嘘ね…。って腹立つなぁ)
と言いつつ笑ってしまった。
梨花と蘭と有馬は絵理を見た。
「あー、私が寝てる間に、彼氏がつけたっぽい」
えりは指輪を指に戻しながら言った。
「わー、ラブラブ!昨日お泊りだったの?」
「あ、…一緒に住んでて…」
「ええー?!!」
その後、3人から質問は止まらなかった。
そして、あっという間に、昼休みになった。
「じゃぁ、彼氏とは、中学から一緒に住んでんだ。すごいね」
「成り行きでね…」
「付き合って7年?やばくない?」
「そう言われるとヤバいね」
「それより、2歳年上、外国人だけど、見た目は日本人、東大生…のほうがすごくない?」
「言われると…」
「うわ…。そんな彼氏いる人に告白なんかして…すごい恥ずかしい…」
有馬は自分の口元を手で抑えた。
「…逆に良かったかも…」
えりはボソッと言った。
「え?」
「あぁ、いや…」(久しぶりのキス…。って、中学生かっ)
絵理は1人で赤くなっていた。
「羨ましいなぁ」
「いやいや、そんな感じではなくて…。彼、ずーっと勉強してるから」
「ずっとって言ったって、一緒に住んでるんだから…」
「いや、家にいる間はずーっと勉強」
絵理は食い気味に、言った。
「東大ってそんなに厳しいんだ?どこの学科?」
「たしか総法科?」(人間界での呼び名は…)
「え?!あの?!すんげえ頭いいじゃん。東大の中でも、トップオブトップ!」
「合格できる人数すごい少ないんだよね、確か」
「やばい人と付き合ってんね!」
「ん?そうなの?」
「…絵理、さっきから、呑気だね」
「うっ…」
パブロは次の講義の用意をしていた。
「お疲れー」
レイがパブロの隣に座る。
「パブロは、卒業試験、当然トップ通過だろうなー。いいなぁ。彼女もいるし」
レイは片ひじをついてパブロを見た。
「死ぬ気で勉強してんだよ。彼女と過ごす時間削って」
パブロは次の授業の教科書を読む。
「だって、高校のときからずっと成績いいんでしょ?」
「ハハッ。俺、高校1年の時は、108位だった」
「まじで?!」
「うん。2年から死ぬ気で勉強し始めて。でも、大学でも、最下位になったことあるし…。レイの方が昔から頭いいじゃん」
「へー。平均したら、俺の方がいいな」
レイは自慢げに言った。
「うん。だから死ぬほどやってんの」
パブロは、教科書をめくった。
「ふーん。思ったより大変そ」
レイは少し安心したように言った。
「大変だよ」
「でも、彼女いるしな」
「そうだね」
「明日から合宿だから、パブロは彼女と離れて寂しいね。」
レイはニヤニヤ笑って言う。
「そうだね」
「わ、やだ」
「お前が言ってきたんだろ」
パブロは笑った。
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