意識したくないのに…

「とりあえず皮剥こうか」

台所に、材料を並べながら言った。

「OK」

パブロがじゃがいもに触ると一瞬で皮が剥けた。

「わぁ、魔法って楽だね」

絵理の言葉に、パブロは自慢げな顔をした。「…ん?じゃが芋ボッコボコじゃん…」

「ん?」

「皮厚く切りすぎだね…」

「え、だめだった?」

「もっと薄くむけない?」

「あ…、経験したことじゃないと再現難しくて…」

「じゃ、普通に剥こう」

「はい…」


「皮剥くの…意外とうまいね」

「俺、手先器用な方だから…。どう?」

パブロは、皮が剥けたじゃがいもを絵理に見せた。

「上手…」

絵理は本当に驚いた。

「やった。魔法使わないで剝いたほうが、楽しいな。これ全部剥けばいいの?」

「うん」

「任せろ」


「じゃ、牛肉炒めよう」

「やりたい」

「じゃ、箸で肉ほぐしながら」

「うん」

「火入れすぎると固くなるから、一旦引き上げて…」

「うん」


「うん、意外と美味しい…」

絵理はパブロの作ったカレーの味見をした。

「意外意外いいすぎ」

パブロは笑った。

「こうやってコトコト煮るのが、コツだね」 

パブロはお玉で鍋をかき混ぜる。

「じゃ、完成だね」

絵理はエプロンを取りながら言った。

「…さっきの肉は?」

「あー!忘れてた」


絵理は、炒めた牛肉が入ったお皿を急いで持って来た。

「せっかく買ってくれたのに…。じゃ、入れて…」

絵理は鍋の上に皿を持っていった。

パブロはお玉で鍋に入れる

この時、お互いに気がついた。

(距離近っ…)

絵理は今更、皿を投げ出したりできないし、パブロもこの肉を鍋に入れなきゃいけない。

変な沈黙が流れた。


「よしっ」

「うんっ」

絵理はパッと離れてお皿を流しに置いた。

パブロはカレーを混ぜる。

意識して、カレーしか見ないようにしていた。

「美味しそう…」

パブロがつぶやくと、

「え、どれ?」

絵理は美味しそうと言う言葉につられて、鍋を覗きに行った。

距離は近いと思いながらも

「いいね」

「うん。大成功じゃね?」

「だね」

カレーを覗き込みながら、話した。

パブロは、斜め下にある絵理の顔を見た。

(まつげ…。長…)



パブロのカレーは大反響だった。

「カレー、美味しい!」

孝司がカレーを口いっぱい頬張る。

「パブロ兄ちゃん作ったの?」

「うん」

「すごーい。お肉も柔らかーい」


「そのお肉、パブロが買ってくれて」

「そうなの?ありがとう。絵理、昔からビーフカレー好きだったもんね。良かったね」

和美はニコニコしながら言った。

「昔から?」

「絵理がビーフカレー好きって言ってから、お母さんが、作るカレーはいつもビーフカレーだったんだよ」

「そうなんだぁ…」

絵理は微笑んだ。

絵理はあの頃のカレーが、何だったのかがわかって嬉しかった。



谷川家は、夕食当番が食器洗いもすることになっている。

「僕もやる」

孝司がスポンジで洗って、パブロが水で流す

パブロが孝司を上から見る。

「孝司のまつげ、絵理と似てるね」

「まつげ?」

「うん」

「絵理の顔、そんな近くで見たことない」

「え」

「パブロ兄ちゃんはあるんだ」

「たまたま…」

「ふーん。あ、絵理!」

孝司は流しに食器を持ってきた絵理に声をかけた。

「代わってー」

孝司は、手をさっと洗って行こうとした。「ちょっと、やるって言ったんだから、ちゃんと最後までやろう」

「…」

孝司はプイッと向いて行ってしまった。

「孝司っ」


絵理は渋々スポンジを持った。

またまた、距離が近いと思った。

けど、ここで離れたら、意識してると思わるから、気にしてないふりをした。


「カレー美味しかったね」

「うん、俺、料理の才能あるよね」

「うん。ほんと器用だよね。手際いいし」

(そんな、褒められるとは…)

「何?」

「…材料あれば、また同じ味で作れるよ」

「うん、また食べたい」

「うん」

2人で食器洗いをしながら、パブロは心が熱くなるのを感じた。



だが、パブロは谷川家に1つ大事な事を伝えていなかった。

それは、パブロの人間界での反省期間は3ヶ月だということだ。

谷川家を好きになる度言いづらくなっていた。

(いつか言わなきゃ…)

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