第4話

 とうとう、離れて行ってしまった。


 あたしの、あたしだけの、大事なひと。


 あたしのことだけを見てくれて、あたしのことを大切にしてくれた、大好きなひと。でももう帰ってこない。


 別れを切り出した時の、彼の眼を見た瞬間、これで終わりなんだって悟った。汚物を見るような目。かつてあたしを見てくれた、あたたかな愛情にあふれた目ではなかった。


 でも、しょうがない。


 こうなることを覚悟で、あたしは月島君としたんだから。


 初めては慧君がよかった。あたしの初めては何年も前に終わっていたけれど、それでも、そう思った。もっとずっと前から、慧君と出会っていれば。


 でも。


 それでもあたしは、月島君としていたと思う。


 机の上に無造作に積み上げられた一万円札。たったの五枚。これが、あたしの価値なんだと思ったら、悔しくて悔しくて、気が狂ってしまいそうだった。


 ねえ、慧君。


 あたしは汚いから、慧君のそばにいちゃダメなんだよね。慧君にフラれなくても、いつかはあたしのほうから――、なんて。


 別れられるわけがない。


 あーあ、バカだなあ。あたし。


「――慧君」


 あたしはベッドに倒れこんで、シーツに顔をうずめる。


「慧君、大好きだよ」


 身体でもなく、顔でもなく、ただあたしを見てくれたひとだった。未練がましいなあ、あたし。


 気づけば、スマホを手に取っていた。


 LINEのホーム画面を立ち上げ、見慣れた名前をタップする。短い文章がばらばらと打たれているだけの画面。


 絵文字もなく、スタンプもなく、黒い文字だけ。慧君とのやり取りとは似ても似つかない。


『今日の夜、楽しもうね』


 あたしは素早くそれだけを打ち込み、小さな紙飛行機に触れた。

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