第16話 みんなで帰る、そのために
灰色の空の下、忘れ去られた遊園地は、酷く暗い色に見えた。
開きっぱなしの、門をくぐる。
「……きたか」
「っ」
『早速お出ましってわけね……でも』
「あぁ、お前に用はない。失せろ」
「ずいぶんな物言いだ。俺様は! ミスト様直属の部下が一人! ガウェ」
「行くぞルナ!」
大男が片手を突き出して、歌舞伎のように見えを切る直前、俺は、一気に駆け出した。
「ふん! 思い知らせてくれるわッ!!!」
巨漢の体が光に包まれる。翠路の体をした亀の怪人。その腕と、光輝く剣が交差した。金属のこすれるような音と火花が飛び散り、体がきしむような音を上げる。
「何つぅう馬鹿力だ……ッ!」
『……』
「あのレーザービームで押し切れるかルナ!」
『……』
「ルナ?」
もう一度、名前を読んだその瞬間だった、体が真後ろに向かって、吹き飛ばされた。
「ッ!?」
体が地面を転がって、俺は激痛に顔をしかめた。ミストに手ひどくやられた時の傷は治っていない。
「ルナ!」
「ほう……? わざわざ武装状態を解除するとは……気でも狂ったか?」
「ある意味そうかもね……」
巨大な腕がルナをつかんで持ち上げた。
「やめろッ!!!」
声を振り絞って叫ぶ。体がピクリとも動かない。ルナが苦しそうにうめくのを、俺
はただ見ていることしかできない。
「フン。貴様を今から連行する」
「へぇ、以外ね」
「なに?」
「アンタ頭、空っぽそうだからてっきりこのまま間違えて握りつぶしちゃうのかと」
「……お前、調子に乗るなよ。俺はミスト様の側近にして最強のパワー自慢。ガウェデ」
「アンタの名前なんかどうでもいいわよ。この単細胞」
何を言っているんださっきからあいつは。辞めろ。そう叫ぼうとしたが喉に激痛が走る。もはや声も上げることも出来ず、俺は這うように手を前に出した。
「この……」
「フフフ私を殺す? やっぱり単細胞ね。そういうのほんと最低」
そこまで言うと、ルナは亀のネオに向かって唾を吐きかけた。一瞬空気が張り詰めて、一気に弾けた。
「こんのッ! クソがッ!」
すさまじい轟音が響いた。それが、ルナが地面いたたきつけられた音だと気が付くのに、少し時間がかかった。
「!!」
「ゴホッゴホッ……。ぅ……」
「簡単には連れ帰らんぞこの!」
咳き込むルナを持ち上げて、ネオはルナをこちらに向かって投げ飛ばした。
動け。動け……ッ!!!
ルナを受け止めるためだけに体を動かす。二人まとめて吹き飛ばされて俺達は壁にぶつかってうめき声をあげる。
「はぁ、はぁ……危険な真似、するな……一人で何か勝算があったのか!? 死にたいのか!? 何考えてるんだお前ッ!」
「……」
「お前が死んだらシエルが悲しむだろ! 俺も、ちょっとはその辺考えて」
「アンタが……やろうとしたことよ」
「ッ」
その言葉に、俺は思わず息をのんだ……。
「……命を犠牲にすることは、勇気じゃない……ただの暴走よ」
「
俺は……」
「分かってる。私達のことを思ってくれてたのよね。でも。それとこれとは、話が別」
「……ルナ、ごめん、俺は」
「フッ。ずいぶんしおらしくなったじゃない。さっきまでの威勢はどこ行ったのよ」
「……あぁ、そうだな。ルナ。目的変更だ」
「……」
「三人で、生きて帰る」
「ん」
ルナは小さく笑うと、立ち上がった。その肩を借りるように俺も立ち上がって、そして。
「行くわよ」
「あぁ!」
「私の胸をもみなさい!」
「たぁぁぁぁぁぁあああああああッ! やぁッ!」
金色の腕が、緑色の体を射抜いた。重たい敵の体が半歩後ろに下がる。その隙を、逃しはしない。
「ハァッ!」
相手を突き飛ばす為にもう一撃。
「っぅ……! 効かぬわッ!」
叩き込んだ一発では、敵を倒すには至らなかった。硬い。まるで鉄の塊のようだ。
「ふぬんっ!」
「ッ!」
敵にしたから殴られる。鎧で強化された体が吹っ飛ばされて空中に舞い上がる。翼を広げて空中に静止。
『アレで攻めるわよッ!』
「了解!」
剣を取り出し、急降下とともに振り下ろす。巨大な腕に剣が阻まれる。鍔迫り合
い。俺達は少しの間睨み合い、その時を待った。決める。今ここで
『準備完了! 行くわよ!』
「おう!」
「ッ。この光と圧力は……ッ!
『「ゴールドキャノンッ!!!」』
いくつもの光を、束ねた柱が起立した。ゴウッ! という空気さえ焼き尽くす音を響かせながらネオの体を真上に向かって吹き飛ばす。
「ぐぅぅっ!? バカな!? このガウェディ」
「お前の名前なんか知ったことかッ!」
『消えなさい。アンタなんか元々私達の眼中にないのよッ!』
「ゥヲヲヲォォォォォッ!!!!」
ネオの体が空中ではじけ飛ぶ。暗かった空が一瞬だけ光に染まる。
「ルナ……その……。悪かった」
『別に。アンタが分かったならそれでいいわ』
「俺は」
『もういいって。反省してるならそれでいい……だから』
『だから、一緒に帰るわよ、シエルと、私と、それからアンタで。家に』
「分かってる」
『あ、そうだ、帰ったら食べるもの今からリクエストしておいていいかしら? 私、テレビで見たショートケーキが食べたいわ』
「はは……気の早い話だな」
気が付けば、胸中に渦巻いていた薄暗い感情は、消えていた。俺はただ決意する。命を懸けることではない。三人で、一緒に帰るという決意を……。
「驚いたなぁ。まさかあぁもあっさりアレを倒すだなんて……」
モニター越しにその光景を見つめて、少年は、楽しそうに笑った。しかし、その目は笑っていない。ひどく冷たく冷めきっている。
「君のお友達は頑張っているみたいだよ……って、聞こえてないか」
少年は振り向くと完全に拘束されたシエルを見て笑った。少年、ミストは目を開けないシエルのほほをいとおしそうになでると再びモニターに目をやった。
「君は……いや、君たちは特別なんだ。まさか、死んでいる。だなんて言うなよ?」
「……」
その言葉に反応したのか、シエルの体が、ピクリと動く。
「あぁ、良かった。生きていて。に、しても……この男、面白い」
ミスとは笑う。画面の先では黄金の鎧が空を飛びミストを探している最中であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます