第7話 歓迎パーティー・不穏な空気
俺の家は、ごく普通の住宅街に存在する何の変哲もない一軒家だ。二人を連れ込むのも別に初めて……というわけではないので普通に家に招き入れると普通にリビングに案内する。
「適当に座っといてくれ。準備するから」
と、言っても惣菜とか適当に皿に盛るだけだが……まぁ、そのまま出すよりはいいだろう。普段は絶対買わないような栄養バランスも減ったくれもないような食事をさらに盛り付けていく。見栄えもまた……適当だ。
「よーし。こんなもんだろ! おーい! 運ぶの手伝ってくれ!」
「歓迎させる側に手伝わせるわけ?」
「まぁまぁ、いいだろ。ちょっとくらい」
そういいながらも真っ先に手伝いに出てきてくれているあたり、根っこは悪い子ではないのだろう。きっと、恐らく。
「はいはい、しょうがないわね……シエル! アンタも早くこっち来なさい!」
「いま行く……」
二人はしっかりと協力的だそのおかげで準備は滞りなく終わった。気が付いた時には、リビングに自分でも初めて見るレベルの量の食事が並んでいた次第だ。
「惣菜だけにしては豪華だろ! さて! 今日は飲みつつ朝まで騒ぎますか!」
「ジュースをね。そのあたりは明言しておかなきゃダメ」
「何に向かってよ」
「まぁ、その辺は別に深く追求しなくていいだろ。さ、食おうぜ……いただきます」
「……なにそれ?」
「ん?」
「その。イタダキマス……という言葉にはどういった意味があるの?」
「あー意味かぁ……んー。命をいただくことへの感謝的な? 食事前の合図的な?」
改めて問われると説明が難しい。俺が自信なくそういうとルナとシエルは少し考えてからたどたどしく、俺の真似をして両手を合わせた。
「いただきます……」
「イタダキマス……」
たどたどしくそういう二人がなんだかいとおしくすら見えてきて、俺は気が付くと笑っていた。
そして、早速俺は割り箸を割って唐揚げを口に運んだ。美味い。
それに倣うように二人もそれぞれ並べられた食事を口に運ぶ。
「へぇ……なんか不思議な味」
「不思議ではあるけど不愉快じゃない。美味しい……?」
「お前らなんか知識に偏りあるな……」
物珍しそうに食事をとる二人を見て、別の世界から来たと言っていたことを思い出した。
「なぁ、お前ら元がいた場所ってどんなところなんだ?」
「んー。とは言っても記憶喪失だしね……私達」
「覚えていることはほとんどない。でも」
「でも?」
「ろくでもない場所ってことは覚えてるわ。空気は悪いし、治安は悪いし、ほんと最悪」
「どれだけひどい場所だったんだよ……」
「そんな場所が嫌で、逃げてきた……そして……」
「このままだと、こっちも向こうと同じになる……ってことだよな?」
ルナとシエルは何も答えなかった。だけど、それが答えだと分かった……。
「俺さ、今まで普通に生きてきたんだよ。そりゃあもうビックルするくらい普通に」
「いきなり何よ?」
「代わり映えしない日常が……。まぁ悪くないなって思ってたんだ。だから……俺はそんな日々を守りたい」
俺のもっともらしい言葉を、二人は真剣に聞いてくれた。それが、なんだか逆に照れくさくて、俺は小さなサンドイッチを口に運ぶ。
「すごいわね……ほんと」
「別に、普通だよ、普通」
「適合したのがアンタで良かった……」
「ん? なんか言ったか?」
「何でもない!」
ルナは顔を真っ赤にしてはパックのお寿司を口に運んだ。
久しぶりの、誰かと一緒の食事……。楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。一見平和な日常は、静かに過ぎていくのであった。
同時刻、町のはずれにある廃遊園地にて……。
「……」
その少年は静かに顔を上げた。満月の夜。さび付いた観覧車の頂。純白のコートを羽織った白髪の少年は両手を静かに広げた。そのしぐさは、例えるならば指揮者。
「さぁ、始めようか……」
不穏な気配。邪悪な影たちは、静かに動き始めていた。
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