第54話 応接室にて
ドスドスとこちらに向かって歩いてくる、一回り大きな人。
その人の後ろから、ヒョコッとケイレブが顔を出した。
「あまりにも遅かったから呼びに行ってきたよー」
……あ、そういやなんかさっきからケイレブの姿見ないと思ってたんだよな。
騎士団長(仮)呼びに行ってたのか!
「いやー、すまんすまん。じゃあとりあえず緑珠の二人、ついてきてくれるか?」
そう言い、訓練場から出ていこうとする騎士団長(仮)を呼び止める。
「あ、あの!騎士団長……さん?」
……でいいんだよな?
思わず疑問形で呼び止めてしまったが、やっぱりこの人が騎士団長で合っていたらしい。
「あ、まだ名乗ってなかったか。私は王立騎士団の騎士団長を任されているアレックスと言う。緑珠の二人も名前を教えてもらえるか?」
「ロバートです」
「あ、ハヤテ、です」
「そうか、よろしくな二人とも。ところでハヤテ、何かあったか?」
握手を交わしつつ、騎士団長は俺の肩を叩いた。
「あの、実はこちらに向かう途中で
チラッとドラコを見て、昼寝から目覚めたのか目が開いていたので手を叩いてこちらに呼ぶ。
ドラコはのそり、と起き上がり俺の横へやってきた。
「おお、
騎士団長がドラコの頭を撫でようとすると、一瞬警戒したものの、俺の顔を見てから素直に撫でさせていた。
騎士団長がドラコと並ぶと、ドラコがただの大型犬に見える……
ドラコを撫でながら、騎士団長は少し考え、こう提案をした。
「これから向かうのは王宮内だから、そこに行く間は騎士団の馬たちの厩舎で待っていてもらおう。その後のことは、
「わかりました」
だよな、いくら慣れてても魔物は王宮には連れて行けないよな。
「ドラコ、ちょっとの間留守番しててな」
「バリー、厩舎の予備の小屋へ
俺がドラコを撫でて言い聞かせていると、騎士団長はバリー副団長を呼び指示を出す。
すると、そこでケインさんが手を挙げた。
「アレックス団長、その役目俺が請け負います。ドラコ、俺について来れるか?」
俺に撫でられていたドラコは、チラッと俺を見るとケインさんの後について歩き出した。
「あと、すみません。ロバートにも用があるのでロバートにもついてきてもらいたいんですが」
「え、俺?」
「わかった。後で応接室に連れてきてくれ」
「了解です」
ロバートが驚きの声を上げつつ、ケインさんとドラコの後を追う。
「ではハヤテ。我々は先に王宮に向かうとしようか」
「あ、はい」
先に歩き出したアレックス団長とケイレブの後を俺はついて行った。
案内された先は王宮の中でもかなり奥にある豪華な部屋だった。
応接室ってさっき言ってたけど、ここに普段通される人の身分はめちゃくちゃ高そうだ……
「悪いな、そこにかけて少し待っていてくれ」
そこ、と言われたソファーは俺が座ってもいいんだろうか……と尻込みするような高級感溢れるもので、大人しく座ったものの緊張感が半端ない。
メイドさんらしき人がお茶を出してくれ、『うわ!本物のメイドさんだ!!』と普段ならテンションが上がる案件も騒ぐに騒げない。
しばらく緊張感と戦っていると、ふいにガチャ!と応接室の扉が開いた。
緊張感がピークで、ビクッと椅子から飛び上がり扉の方を見てみれば、そこに立っていたのはヘンリー先生と、もうひとり、銀髪の物腰のやわらかそうな男の人だった。
「なんだ、ヘンリー先生か……その人は?」
部屋の中に一瞬緊張感が走った気がするけど、すぐにその空気は消え、銀髪の男の人がにこやかに手を差し出した。
「はじめまして。ハヤテくんかな?ヘンリーからさっき少し話を聞いたんだ。私はテセウス。この国の薬師だよ」
「あ、はじめまして!ハヤテです、よろしくお願いします」
握手を返してふと思い出す。
……あ!ヘンリー先生の薬師の
俺の態度、ヤバくないか?!
握手をしながら固まった俺を見て、テセウスさんが察したのか
「あ、そんなに緊張しなくてもいいよ。ヘンリー達と同じように接してくれればいいからね。とりあえず、椅子座って」
と、椅子に座るよう促される。
穏やかな笑みを浮かべているので怒ってはなさそう……?
ヘンリー先生の様子を伺うと、こちらも気にしてなさそうなのでひとまず胸を撫で下ろす。
……そっか、ここ王都だから偉い人達沢山いるんだよな、態度気をつけないと……
ほっ、と息を吐きつつ、向かいに座ったテセウスさんを見るとニコニコしながら俺の事を見ていた。
……?
「あの……何か……?」
「ヘンリーから聞いたよ、
「あ、はい。
あ、緑珠の件ポロッと言っちゃったけど大丈夫かな?!
部屋の中を確認すると、中にはケイレブ、ヘンリー先生、テセウスさん、アレックス団長の4人しかおらず、テセウスさんも既に報告を受けているのか緑珠の件を、聞いても動じていなかった。
……よかった、大丈夫そう。
「その件だけど、材料さえ揃えばもしかしたらそれなりの効果のものが作れるかもしれない」
「ほんとですか?」
「まぁ作ったことがないからやってみないことには、だけどね。でもその価値はあると思う。どちらにしろ今のままでは現状は悪い方向にしか進まないからね。ヘンリーも手伝うと言っているし、最善を尽くそう」
テセウスさんはニコニコしたまま、「ただし、条件がある」と口を切る。
「……条件、ですか?」
「そう、条件。一つ目。ハヤテくん、回復薬を加工したらしいじゃないか。それを実演して見せて欲しい」
「回復薬の加工?」
……それってアメにするやつのことかな?
ポケットに一つ入っていることを思い出して、それを取り出す。
「これを作る、って言う事ですかね?」
「そう、それ。ヘンリーに聞いてビックリしたよ。そんな事をした人、今まで見たことがなかったから。見せてもらっていいかい?」
「あ、はい。大丈夫です。回復薬さえ渡してもらえればすぐ出来ます」
「じゃあ後で頼むね。アレックス、悪いけど少し回復薬を持ってきてもらえるかな?」
「了解しました」
そう言ってアレックス団長は部屋を出ていった。
テセウスさんはその姿を見送り、再度こちらを向くと、
「二つ目。材料が必要になるから調達してきて欲しい。そこの」
そう言って俺の後ろを指さした。
「──
振り返ると、先程までは確かに部屋にいなかったはずの
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