第51話 騎士団の訓練に参加
「勝負?俺とケインさんが?」
「そうだ。俺は
五分間逃げ回る……なら行けるかな?
「わかりました!やります!」
「そうこなくちゃ。一応他の奴らの邪魔になると悪いから範囲はこれくらいでどうだ?」
そう言ってケインさんは地面にテニスコートくらいの大きさで線を引いた。
「はい、その範囲で大丈夫です。……魔法、使っていいんですよね?」
風の魔法を踏み台にして速度と高さ出すから魔法封じられると少しキツいなー、と思って聞いてみれば、
「あぁ。火でも水でもなんでも使っていい」
との返事が。
……まぁ、俺がマトモに使えるの、風と土ですけどね……
確かに攻撃力高そうなのは火と水だけど、風と土も使い勝手いいんだぞ!というところを見せたい!
「ありがとうございます、じゃあ、遠慮なく!」
俺とケインさんが、線の中へ入る。
その様子を興味深げに見ていたバリー副団長から、
「お、なんだハヤテ!ケインと勝負するのか?頑張れよ!」
と、声援をもらい、ケインさんと向き合う。
「よーし、じゃあ勝負始め!」
バリー副団長の号令で前へ飛び出……そうとして、すごいスピードでケインさんがこちらに向かってきていた。
俺はそれを足の裏に風の魔力をまとい、前方宙返りでケインさんの頭上を跳び越す。
着地と同時に横へ飛べば、俺のいた場所に剣が振り下ろされた。が、俺みたいに地面に刺さることはなく剣を翻しこちらに向かってきたので、風で足場を作ると踏み台にして宙返りを繰り返しつつケインさんと距離をとる。
少しでも気を抜くと自分のすぐ横を剣がかするので落ち着いて周りを見る暇が全くない。
迫り来る剣の猛攻撃をギリギリで躱していく。
これ、五分間って意外とキツくねぇ?!
時間の感覚がまるでなく、ただひたすら攻撃から逃げ回る。
そろそろ集中力も途切れてきて、少しケインさんの攻撃が近くをかすることが増えてきたあたりでバリー副団長の声が響いた。
「そこまで!」
声がかかると同時に俺はその場に倒れ込み、その横に剣が突き刺さる。
ギョッ、として上を仰ぎみてみれば、汗ひとつかいていない涼し気な笑顔でケインさんに覗き込まれていた。
そして手を差し伸べられ、俺はそれを掴んだ。
握手かと思っていたら、そのまま手を引かれヒョイと立たされる。
「おつかれ!悔しいなぁ、まさか本当に五分間逃げ回られるとはな!」
背中をバシ!っと叩かれ、よろけているといつの間にか近くに来ていたロバートが支えてくれる。
「ハヤテ、スタミナついたんじゃない?結構逃げ回れてたよね?やるじゃん!」
「ありがとー……ロバートとの訓練のおかげだな」
へにゃりと力なく笑っていると、周囲の視線に気がついた。
……あれ?なんか訓練してた団員たち全員ギャラリーと化してるんだけど!?
こんな大勢に見られてたの?集中し過ぎて気づかなかったわー……
ギャラリーの多さに圧倒されていると、そのうちの一人さっき俺と対戦したリアンが俺の元にやってきた。
「ハヤテ、お前
褒めてるのか貶してるのかわからないけどきっと褒めてるんだろうなと思っておく。
「
「まぁあの構えじゃそうだろうな。それにそれだけ動けるなら
ロバートに支えられベンチに戻ると、リアンもついてきて色々聞いてくる。
さっきボロ負けした時は眼中にない!って態度だったけど、今の対戦を見て、少しはリアンの中の俺の地位が上がったんだろうか?
「普段は俺はナイフ持ち歩いてるんだ。攻撃に使うと言うよりは素材の解体とか採取とかで使うくらいだからさ」
「ナイフか、なるほどな」
「ところで……」
俺の普段の武器を気にしているところ悪いんだけど、ちょっと気になることがあるから教えてもらいたいんだよな。
さっきからめちゃくちゃ刺さる、視線たち……
「あのさリアン。なんで騎士団のみんなに俺、ガン見されてんの?」
訓練所に来たばかりの時も色々と注目されていたけど、ケインさんとの勝負の後、なんかさらに熱い視線に変わった気がする……
なんで?!
「そりゃ、ハヤテが
「は?」
「……まさか、知らないのか?ケインのこと……」
「ケインさんのこと……?」
いや、知ってますよ?城下町の城壁のところの検問所にいる門番さんですよね?……あれ?それ以外よく考えたら知らないな?
「ケインはバリー副団長の弟で、強さで言ったら騎士団内でもトップレベルだぞ?」
「え!!」
バッ!と訓練場を振り返り、バリー副団長と談笑しているケインさんを見る。
あの二人が兄弟?言われてみれば雰囲気が似てる気も……
あと、そんなに強かったの?!
門番のお偉いさんかと思ってた……
「じゃあケインさんも副団長?」
それだけ強いなら肩書きあるよな、と思って聞いてみる。
「いや、強いけど騎士団には入ってないんだよ。城壁警護の責任者やってるんだけどなんでそこなのかはみんな聞けてないんだ」
「騎士団に入ってない?強いのに?……あ、あれかな?」
「なんか思い当たることあるのか?」
リアンが食いついてくる。
「いや、ただの推理だけどさ。なんか城壁の周りって魔物居ないんだろ?だからほかの門番が魔物に慣れてないから、万が一魔物が攻めてきた時に先頭切って戦うため、とか?」
お、ありそうな気がしてきた。
俺とリアンがあーでもないこーでもないと確証のない推理を並べていると、それを横で聞いてたロバートがケインに問いかけた。
「ねー、ケイン!なんで騎士団に入らないの?」
……え、本人に直接聞いちゃうの?!
驚きつつ、俺も気になったのでロバートと一緒にケインの返答を待つ。後ろでリアンも気にしてるのがわかる。
そんな注目されているケインさんの答えは……
「いやー、騎士団って堅苦しいだろ?あとバリーと同じところで働くのはちょっと嫌だったから、かな?」
苦笑いで予想外の回答をするケインさん。その後ろで悲しみに打ちひしがれてるバリー副団長。
「おい、ケイン……それは酷くないか?」
「いや、隙あらば筋肉見せてきて、一緒に筋トレしようとしつこく言ってくるやついたら嫌だろ?」
「誰だよ、そんなやつ騎士団には居ねぇ……あ!俺か!」
は!と重大なことに気づいた顔をしてるけど、バリー副団長、それは俺も嫌だ……
実際本当にしているらしく、団員たちをチラッと見たら何人か心当たりがある顔をしていた。
「いやー、ケイン悪かったな。でも筋肉ついたら見せたくなるし、どうせだったら一緒に筋肉育てたくなるだろ?」
「なりません」
「ならねぇよ」
訓練場に居た全員の心が一致した。
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