第20話 誰でも罹る、不治の病
ヘンリー先生もリュックサックの中を確認して、安堵のため息をついた。
「よかったぁ、マジックバッグ壊れてなくて……」
あ、やっぱりこのクーラーボックスみたいのがマジックバッグで合ってたのか。イメージと違ったなぁ。
なんかもっとカバンみたいなやつを想像してた。
ヘンリー先生が
今、土から掘り起こしたばかりのような新鮮さだった。
流石、時間が止まるマジックバッグ!
「うん、中も大丈夫みたいだ。ただリュックサックや他の荷物はびっしょりだなぁ、持ち帰るのが大変かな……」
ヘンリー先生はリュックサックの中身をひとつひとつ取り出して様子を確認していた。
薬草を採集する器具の他に、布や麻の巾着袋などもある。
「ヘンリー先生、その巾着は何に使うの?」
「巾着?あぁ、
「へぇ」
通気性のいい袋かぁ。もしかして、これ使って水絞れるかな?
「この
「いや、今日はまだマジックバッグに入れる用の薬草しか採集してないから、その巾着は空っぽだよ」
じゃあ、とその麻袋に濡れている布や他の麻袋、リュックサックを畳んで詰め込む。
そして、風の魔法をこの詰め込んだ麻袋に使って、と。
「
つむじ風が起き、麻袋はクルクルと回り出す。しばらくしたら風の向きを逆回転。
それを何回か繰り返した。
「なんちゃって脱水、完了ー」
麻袋を洗濯用のメッシュの袋に見立て、中に詰め込んだびしょ濡れの布たちの水分を飛ばす。
「あとはー……」
ヘンリー先生が
麻袋やリュックサックの紐を通しながらもう片方の
「簡易洗濯セット完成ー!二人ともちょっと手を貸してもらっていい?」
はい、はい、と一本づつ
「ちょっとその棒持って引っ張ってー!」
ピン、と
「
ドライヤーの要領で風を起こし、二人が飛ばされないよう強さを調節しながら洗濯物に風を送る。
……思った通り、この流れは魔力調整の訓練にピッタリな気がする!
帰ってから洗濯はこの方法でやってみようかな。
自分の残りの魔力の量を何となく感じながら、これ以上は倒れるかな?と思う手前で風を止めた。
「どう?乾いたかなー」
ロバートが手元の布を引き寄せて確認する。
「あとちょっとかな?そしたらハヤテこれ持って。次は俺が風送るよ」
「おっけー」
ロバートと交代して俺が棒を持つと、
「行くよー」
と言って、風を送り始めた。
……あれ?
ロバートの絶妙なバランスの風魔法によって、無事ヘンリー先生の袋は乾いたので、ヘンリー先生は、
「ごめん、帰る前に少しだけ採集の続きしてくるから待っててもらえるかい?」
と言って、急ぎ足で色々とその辺の薬草を摘み始めた。
俺とロバートは手頃な岩の上に腰を下ろし、その様子を見守っている。
暇を持て余したこの時間に、俺は先程浮かんだ疑問をロバートへ投げかけた。
「あのさぁ、ロバートって魔法使う時、呪文唱えないよな」
「呪文?」
「『
「あぁ、それのことか。俺はもう魔法に慣れてるから、いちいちそんなの言ってらんないよー」
え?!
「呪文、いらないの?!」
「あれは魔法に慣れてない人が、使う魔力のイメージを掴みやすくするために口に出してるだけで、魔法使うのに絶対必要なわけじゃないよー」
ほら、とロバートが地面を指さし「
「今、口に出したのは主に火魔法のイメージを掴みやすくする時に使う言葉だけど、俺は風の魔法を使う魔力をイメージして使ったから発現した魔法は風。こんな風に使う魔力の流れを掴んだら、あとは言葉よりもイメージの方が大事かな」
今ものすごく大事なことをサラッと言われた気がする。魔法使うのに呪文要らなかったのか……
確かに口に出す言葉はウイングとかブラストとか同じだけど、使う場面によって出てくる魔法違ってたもんなー。イメージが違ったからか!
「でも言葉を口にした方がイメージ掴みやすいから、魔法を教える時とか、初心者の頃とかは唱えたりするかな。あとは口に出した方が威力が上がったりする人もいるよ。まぁ、その辺は人それぞれだと思うけどね。俺はあんまり変わらないかなー」
「そうだったのかー!じゃあ俺もイメージ掴めてたら、いちいち言わなくても使えるようになるかな?もしくはオリジナル魔法名付けるとか?!」
俺の心の奥に封印された厨二病が少し顔を出す。
「やってみたら?ハヤテ、魔法使うのに慣れてきたし多分出来ると思うよ」
えー、どうしよう!
ちょっとワクワクする……!
少しだけ考えて、試してみることにした。
「我の元に集いし、高貴なる風の精霊達よ。邪悪なる彼の者達を討ち払う刃と成れ……
風で出来た草苅り鎌の刃が飛んでいくイメージで、厨二っぽい呪文を唱える。
すると、実際に風の刃が発現し、その刃はヘンリー先生がしゃがんで採集していた頭のすぐ上を通り過ぎて行った。
その先の草たちが、刃によって刈り取られていく。
急に開けた視界に、ヘンリー先生が気づいた。
「あ、もー!何やってるの?!これも大事な薬草なんだから無闇に魔法で遊ばないで!」
危うく首を刈り取られそうだった事には気づいていないヘンリー先生が、ぷりぷりと怒っている。
そしてそのまま再び採集をし始めた。
『あ……あぶねーーーー!』
一瞬の出来事に固まっていた俺とロバートは冷や汗を流しながら顔を見合せた。
「え、ちょっとハヤテ……何あれ?」
「いや……昔、庭の草むしり終わるまで夕飯お預け食らって、草見るのに嫌気が差した時に、現実逃避で考えてた草刈りの魔法……」
まさかあんなふざけた呪文で魔法出るなんて思わないじゃん?!
危うく草刈りじゃなくてヘンリー先生の首狩るとこだった……
「ねぇ、また新しい魔法?何それ、どうやったの?!」
「これは風を刃のように研いで、雑草を一掃するための魔法で……」
小学生の頃思いついた、楽をするための魔法にロバートがめちゃくちゃ食いついた。
黒歴史を紐解かれたような恥ずかしさを感じつつ、ここでは実際に使えるらしいのでロバートにも伝授してみる。
「なるほど!そんな感じのイメージか。ちょっと俺も試してみようかな。これ、実際使えたらマシューにも教えていい?多分めちゃくちゃ喜ぶと思う!」
「あ、確かマシュー先輩攻撃専門って言ってたもんな。これ、攻撃魔法として使ったらエグそう……」
今度はヘンリー先生がいない方を向き、ロバートが構える。
そのまま魔法発動させるかと思ってたら……
「──我の元に集いし……」
「ストップストップ!何言ってんの?!」
「え、だってなんかこの呪文カッコよかったから俺も使いたくなっちゃって……」
まさかのロバートまで厨二病を発症してしまった……
厨二病、それは誰しもが罹る不知の病。
ロバート、ご愁傷さま。
それは一度罹ったらもう治らないぜ。
俺と一緒に黒歴史、増やしていこうな……
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