第6話 魔法を使ってみよう②
「ほんとこの城すごいねー、残しておいて後で隊長に見せようよ!」
子供の作品を見せびらかすような対応は恥ずかしいからやめてほしい……けど自分的にもよく出来てると思うから残しておきたい気もする。
あー!スマホあれば写真に残したのに!!
……あれ?そういえばコンビニ行く時ボディバッグ背負ってたはずなんだけどどこいった?もしかして森の中に落としてきたのかな……ここでは使えないとはいえ俺のスマホと財布……ヘコむ……
「ハヤテ疲れた?後は風属性と無属性の確認だけどあとちょっと頑張れそう?」
失った全財産のことを思って上の空になってた俺を、慣れない魔力操作で疲れたと勘違いしたロバートさんが気遣う。
「いや、大丈夫です!まだまだいけますよ!」
「ほんとに?無理はしない様にね。じゃあ次は風行ってみよう」
ロバートさんが、どんなのがいいかなー、と少し考えていると演習場を使いにきたと思われる団員ぽい四人の男女が現れた。
「ロバートじゃん。こんなとこで会うの珍しいな。お前いつも実践が一番!とか言って森に行くだろ?」
「あれ?見ない顔がいる。新人さん?」
「ちょ、これ見ろよ!すげー!すげー砂の城!!」
「へぇ、細かく出来てるわね。ロバート腕上げた?」
急に賑やかになった演習場で、俺の作った砂の城が大人気になっている。
「その砂の城作ったのは俺じゃないよ。今日入ったハヤテが作ったんだ。それ、すごいよね」
「今日から入ったのか!よろしくな、おれニコラス。この城センスあるな」
「ありがとうございます。あの、初めまして……ハヤテです。よろしくお願いします!」
ニコラスさんはウェーブのかかった髪で、あごには髭を生やしていて、ダンディさの中にワイルドな雰囲気を纏っている。絶対ブランデーとかグラス回して飲んでる。俺の完全な偏見だけど。
そんなオシャレ番長みたいな人にセンスを褒められて嬉しくない奴はいるだろうか?いや、いない。俺は嬉しい。
つい頬が緩んでニヤニヤしていると、じゃあせっかくだし自己紹介しましょ!と、艶やかな長い黒髪を頭のてっぺんでひとつ結びにしている女の人が握手をするように手を差し出す。
「アタシはジェシカ。ニコラスやロバートと一緒に行動することが多いわ。ハヤテはロバートとペアで動くのかしら?」
「うん、そうなるかな?今ちょっと色々あって細々としたこと教えてるとこだからペアでいることが多いと思う」
「なら必然的にアタシたちと顔を合わせることが多そうね。よろしくね、ハヤテ」
「よろしくお願いします、ジェシカさん」
そう言って俺の手を取り、力強く握手をした。元も目鼻立ちがハッキリとした顔立ちと思われるが、更にがっつりメイクをした迫力美人さんだ。
「次はオレ!オレはマシューって言うんだ!よろしくな、新人くん!オレのことは先輩って呼んでくれていいんだぜ?」
「おい、お前先輩って柄じゃないだろ?あ、俺ハッサン。俺とマシューは主に攻撃メインなんだ。普段は森の巡回行ってるから会うとしたら食堂でタイミング合った時だな」
「よろしくお願いします。マシュー先輩、ハッサンさん」
俺が挨拶をするとすかさずハッサンさんが爆笑しながらツッコミを入れる。
「ちょ、ハッサンさんて!ソレ呼びにくくねぇ?!ハッサンでいいよ!今日から仲間なんだしさ」
「おれもニコラスでいいぜ」
「あら、じゃあアタシもジェシカでいいわよ。ジェシカ姐さんでもいいけど」
ばちん、とウィンクを飛ばすジェシカさ……ジェシカ。姐さんは心の中で呼ぼう。
「オレはそのままマシュー先輩で!新しく入ったやつみんなにそう自己紹介してるのに誰も呼んでくれなくてさ。ハヤテだけだよー、呼んでくれたの!」
先輩呼びが嬉しかったのかマシュー先輩は、ガシッと俺にハグしてきた。ちょっと待って、力加減間違えてない!?苦しいんだけど!
ぐえ、と変な声が出たところでロバートさんがマシュー先輩を引っぺがしてくれた。あー、助かった……感謝の意を込めてロバートさんを見ると眉毛が下がっている。え、どした?
「ちょっとー……みんな呼び捨てるなら俺のこともロバートって呼んでよ……一人だけさんづけで呼ばれたら心の距離めっちゃあるじゃん……」
初対面の時に心の扉を閉めたことを忘れてるっぽいロバートさんは見るからにしょぼんとしていた。さんづけしなくていいならその方が俺も楽だな。
「ロバート、ニコラス、ジェシカ、ハッサン、マシュー先輩!これからよろしくお願いします!」
「はいはーい、よろしく。わからないことあったら遠慮なくガンガン聞いてちょうだい。で、聞きたいんだけど演習場で何してたの?砂遊び……じゃないわよね?」
チラッと俺の最高傑作、夢の国の城に目をやるジェシカ。そういえば魔力の適正見てたんだった。半分忘れてたよ。風魔法と無属性まだ試してないんだよな。
「そうだ、今ハヤテに魔法の基礎教えててハヤテの得意な魔法属性なんなのか確認してたんだった。次は風魔法だったんだけど……そうだ!俺よりジェシカの方が得意だからジェシカの風魔法見せてもらおう」
「え、アタシ?」
「ハヤテ、すっごい身体能力高いんだよ。ジェシカの風魔法の使い方マスターすればもっと動けるんじゃないかと思って」
「ああ、魔法の使い方って個性出るものねー。いいわよ、見せてあげる」
見ててね、とジェシカは少し俺たちから離れるとその場で軽くジャンプし、
「
──空へ跳んだ。
空を飛ぶ、というよりは空中で見えない足場のようなものを踏んで空へ駆け上がっている。あ、これパルクールの
しばらくの間ジェシカは、すでに懐かしさを覚えるパルクールの技の様な動きで空中を縦横無尽に駆け回ったあと、最後はクルクルと宙返りをして着地した。
「……とまあこんな感じよ。風魔法に対する適性もあるから同じ様には難しいかもしれないけど、要は足の着地予測地点に圧縮した風を発現させてそれを足場にする感じね。発現させた風は常に回転してるから、慣れないと風の回転に足を取られて地面に真っ逆さま、ってことになるからあくまでも今のは応用」
「普通は風魔法って相手を吹き飛ばす時に使うと思われてるから、まさか風を利用して自分に有利な動きをするなんて使い方、ジェシカを見るまで俺考えもしなかったよ」
「新しい使い方発見した時ってテンション上がるよな!」
わいわいと盛り上がるロバートとマシュー先輩。
へぇ、魔法って色んな使い方できるんだな。俺も暇見つけたら魔法の練習いっぱいしようっと。
とりあえずは風魔法だけど……今のジェシカみたいな動き俺もできるかな?出した風魔法を踏み台にするんだよな。目の前の空中を少し意識して風魔法を発現してみる。
「
……これ、うまく魔法できてるのか……?
何の変化も見えない空中をじっと見てると、ニコラスがその辺に生えていた草を一握りむしると俺が魔法を出したあたりに撒いた。すると、魔法はちゃんとできていたらしく草が空中でくるくる回っている。これ、踏んで跳べるかな?
「お、ちゃんと出来てるね。これなら練習すればジェシカみたいに使えるようになるかもよ?」
くるくる回る草を見ていたロバートがこちらを振り返る。その横を駆け抜けて俺はその草の辺りにジャンプし飛び乗った。
思ったより強めに回転していたそれは、俺が踏み込むと、ぐん、と斜め上へ勢いよく俺を押し出す。そのまま俺は次の足場を作りそれを踏み台にしてどんどん上へと駆け上る。
あ、これ意外とできるかも。楽しくなってきた俺はそれに夢中になり更に上へと向かう。
「あ」
勢いのまま駆け上がり、うっかり足場から足を踏み外して体勢が崩れた時、やっと我に返って冷静になった。
そして気がついた。
相当の高さまで駆け上がっていたことを。
──ヤバイ、今ここで落ちたら死ぬんじゃね!?
体勢が崩れたことで足元に足場が作れなくなった俺はそのまま地面へと落下していった。
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