ドライバー2

羽弦トリス

第1話運転手は誰だ?

ここは、第3木材倉庫株式会社名古屋支店の駐車場。

若い者、中年社員が集まっている。

先発隊は既に会社を出発している。

中堅社員の中野は、バッグを片手にハイエースの後部座席に座り出発を待った。

隣の赤木は中野の2年後輩。息が既に酒クセ~。

「中野さん、飛騨着いたらまず、ウワサの混浴混浴~」

赤木は妻帯者だが、まだまだ性欲バリバリの男だ。

その隣に座る久野さんは、スキットル入りのウイスキーを飲んでいた。

「おぅ、中野!お前も、一口どうだぁ~?」

「ぼ、僕は向こうに着いてから、ビール飲みますんで。すんません」

誰が好き好んで、定年前のジジイと間接キスしなければいけないのか!久野さんは、アル中だった。

10人乗りのハイエースに、全員が乗り込み、後は発車を待つだけだった。

運転手が、会社の上と言い争いをしている。運転手は同期の前田だった。話しを聴いていると、前田は運転前の呼気検査でアルコールが反応したらしい。

「だから大久保課長、大丈夫だって!昨日、1時までしか飲んで無いんだから。今、9時でしょ?」

大久保課長は、

「万が一、不測の事態があれば、俺のクビが飛ぶ。運転、誰かと交代してもらえ。山道走るんだ。死者を出してからじゃ、遅いんだ」

大久保課長は適当な運転手を探し、車内を見渡し、

「赤木、お前運転しろ」

「課長、すいません。俺も飲み過ぎて酒臭いんです」

「じゃあ、渡辺。お前が一番年下なんだ。運転しろって、お前は通風で運転出来ないんだったな!」

「この中で、昨日飲んでねぇヤツはいるか?」

中野は目を逸らした。

「おいっ」

久野さんが手を上げた。

「久野さんは、いいよ。飲んでるから」

と、大久保課長は苦笑いした。

「違う、中野が酒飲んでねぇ。周りは俺の酒飲んだが、中野だけは飲まないで、向こうでビールを飲むんだとよ!」

中野は久野さんのクビを絞めたくなった。


「じゃ、中野君。運転できるね、取り敢えず降りて、呼気検査しよっか?」

中野は機械に息を吹き掛けた。

全員が見守る中、機械は反応しなかった。

「じゃ、こっからじゃ高速乗って高山を目指してくれ。山道は、前田に道を教えてもらいなさい」

「か、課長。ぼ、僕はう、う、ウンコがしたいので運転出来ません」

「いいよ、5分くらい。トイレ行ってきなさい」

そんな意味じゃ無かったが、中野はトイレに入った。

『ど~しよ~。運転なんて、6年ぶりだよ。マニュアル車なんて、自動車学校以来だ。ど~しよ~。ペーパードライバーがバレたら、僕は会社で地位を失墜させちゃうじゃないか~』

中野は、運転席に乗り込み、助手席に前田が座った。

『僕はデキル。先ずは、1速からスタートだ。半クラッチでゆっくりアクセルだ!』

キュルルル。エンジンが掛かった。

1速にギアを入れて半クラッチにしようとしたが、クラッチを早く離し過ぎて、エンストを起こした。

「中野君。面白いギャグだね。笑いはいいから、早く会社出ようよ。課長の顔なんか見たくもない!」

前田がぼやくと、

「そ、そうだな。出発するか」

『あ、危なかった~。バレてない。半クラッチだ。ゆっくり、足を離せばいいんだ。落ち着け落ち着け!』

仲間を乗せたハイエースは、会社の駐車場から出発した。

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