第8話 慰めは最高の時間
ここ数日。
俺と九条さんの間には目に見えない壁があったのだが……。
「ちょっと。これどういうことなの?」
昼休み。
それを叩き割るような勢いで話しかけられた。
ぷんぷんと怒った顔を向けられている。一切見に覚えがない。
その手に持っているのはスマートフォン。
「どう、とは?」
「しらばっくれたりなんてできないからね。なんで小悪魔系人気インフルエンサーねねのことをフォローしたの?」
怒りながら急に話しかけてきたからどうしたのかと思ったけど。
なんだ。そんなことか。
「フォローされてたから返しただけだけど」
「っ!!」
九条さんはスッとスマホを後ろに隠し、分が悪そうに目を逸してきた。
どこか頬が紅くなってるように見える。
あぁ。これ、すごい恥ずかしい勘違いしたってことか……。
「ま、まぁ勘違いは誰にでもあることだからさ」
「それって私のことバカにしてるの?」
「いやいや! 全然。あっ、じゃあ九条さんが使ってるアカウントフォローしよっか? アカウント教えてよ」
「絶対教えない。もし私のアカウントをフォローしたら、他のファンが疑心暗鬼になっちゃうじゃん。せっかくバズってるんだから、今ミスしたら取り返しがつかなくなるよ」
たしかに九条さんの言う通りだ。
勘違いしたときとは大違いで頼もしい言葉。
「バズってる最中って言っても、最近勢い落ちてるけど……」
そう、バズってから約二週間が経った今。
俺は早くも限界を感じていた。
別に、動画を撮るのが嫌になったわけじゃない。単純に数字がついてこないのだ。
多分棒グラフにすると、最初の一週間は右肩上がりでその後の一週間は徐々に右肩下がりになってる。
最近、動画の数字を伸ばすという目標を立てて動画投稿してるため俺のメンタルはボロボロ。
「苦しいならやめても良いんだよ?」
九条さんはぽんぽんと俺を頭を撫でてきた。慣れていないのか、少しぎこちない。
でも頭を撫でられる度、ボロボロになっていたメンタルが少しずつ修復されていくのを感じる。
普段どおり振る舞ってたつもりだけど、わかるものなんだな。
「私、前も言ったけど五十嵐くんのこと……その、アレだからさ。いつでも味方だし、いつでも相談に乗るよ」
「ありが、とう」
体から力が抜け、気持ちが楽になった。
やる気に満ち溢れてる今なら、なんだってできる気がする。
「あの……そろそろ頭を撫でる手止めてくれないと、クラスの人たちからの視線が痛いんですけど」
「あっごめんごめん」
さて。今日はどんな動画を投稿しようか。
どんな動画を投稿すれば、前みたいな勢いを取り戻せるんだろう?
元々、ルックトックや流行りを知らない俺には難しい。
……そういえば、九条さんってSNSの使い方上手いかったよな。
「九条さん」
「ん?」
「今日上げる動画の話なんだけど、九条さんは今勢いがない俺が前以上の勢いになれる動画の案あったりする?」
とんでもない無茶振りだとわかっていたが。
「もちろん! 私に任せてっ!」
九条さんは嬉しそうに笑っていた。
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