※不正なユニットが接続されました~番外編:ウチが配信者になったワケ~

海野しぃる

第1話 ここが私の魂の場所

 何も無い広い広い平原。元は畑だったが、続く戦争で今や焼け野原。そこに、迷彩ネットを被った機械仕掛けのティラノサウルスが蹲っていた。私の機体エクサスだ。

 三本の脚を起用に折りたたみ、残った尻尾をパッシブレーダーとして使う為にピンと立てていた。光学迷彩、電磁迷彩、共に非常に優秀で、宇宙人どもは隣を通り過ぎても気づかない。

 そういう宇宙人たちを殺すのが仕事、私の仕事だった。


『アカネ、留寿都るすつアカネ少尉。今日は敵の動きが鈍い。前進せよと本部から指示だ。どうぞ』

「承知です隊長。無線なんて傍受されませんか? ええんですか? どうぞ」

『なにかおかしいことが起きている。出遅れると不味いとの判断だ。どうぞ』

「わかりました。普段通り、ウチが火力支援、先輩方が……」

『それなんだが――アカネ、お前は少しここで待機していろ。俺たちだけで先行する』

「……アカンでしょ」

『アカネちゃんよ、お前さんは優秀なパイロットだけどさ。いくら優秀でもエースでも……家族が死んだ直後に働かせるつもりにはなれないの。おじさん、結構センチなタイプだから』

「余計なお世話いたみいりますぅ。ウチはダーリンの仇討ちでもせんとやってられへんので」


 と――世話になった隊長に憎まれ口を叩いてしまう。

 そうでもしなきゃ今にも頭がおかしくなってしまいそうだと、自分でもわかっていた。

 無線の向こうからため息が聞こえた。


『わかったよ、やばそうだと思ったら俺に聞かずに撃て。隊長命令だ』

了解ラジャー。堪忍な、隊長さん」


 私の謝罪への返事代わりに、無線は部隊内通信用の周波数に切り替わる。


『作戦行動を開始する。各員配置につけ』


 そして迷彩をかけたままの鋼の歩兵たちが荒廃した平原を進み始めた。

 その時だ。

 私等ウチラの進軍予定地に巨大な火柱が上がった。


『助けてください!』


 そして、オープンチャンネルに流れる子供の悲鳴。


「うそやん……」


 私は小さく呟いた。


『誰か助けて! 地球の人は居ませんか!』


 それは子供の声だった。

 それは日本語だった。

 そして泣いていた。


遊楽部ゆうらっぷ金次郎きんじろうの息子のギンです! お父さんに言われてこっちに逃げてきました! 地球の人、できれば日本の人が居たら助けてください!』


 もう一度火柱が上がる、私の機体にだけ付いている狙撃用の高性能カメラならば分かる。あの火柱の隙間を縫うように駆ける白銀の機体。酷くやせっぽちで、薄汚れていて、今にも火柱に飲まれそうにさえ見える。

 だが、その火柱の隙間から襲いかかる宇宙人のロボが現れる度に、細身のサーベルを振り回し、その攻撃を払い除けていた。


「すまん隊長」


 私は自分の機体エクサスと共に駆け出していた。

 隊長の指示はない。


『小隊全機、バレても良い。アカネの“G-レックス”をカバーする形で突っ込め。あいつの射程をあのガキの支援ができるところまでとにかく届ける』

「隊長?」

『どうした留寿都るすつ少尉、とっとと指示通りやれ。じゃなきゃ軍法会議もんだぞ』

「りょ……了解!」


 指先が鋭い爪になる。薄い表皮が分厚い鋼の龍鱗と化す。背負う巨大狙撃砲の重みが心地よい。神経に接続した機体の感覚が私の意識を憂鬱の底から戦火の中央へと引きずりあげてくれた。


「“G-レックス”、留寿都アカネ少尉。前に出ます!」


 大咆哮アクティブソナー発動。敵性宇宙人の機体へのジャミングをかけつつ、私等ウチラを狙う伏兵をあぶり出す。

 私の居場所は丸分かりだが、さしたる問題ではない。

 死んだらのところに行けるだろう。のところにも行けるかもしれない。

 生きていれば――


「坊主!」


 ――無線のオープンチャンネルに繋ぎ、叫んだ――


「よう気張きばった! 今から姉ちゃん迎えに行くから待っとれ!」


 ――そう、生きていれば、あの迷子を助けられる。

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