雨宿りはいつまで?


 「ハアハア」


 荒い息をつきながら、東屋のベンチに座り込むと、自然と涙が溢れてきた。書庫の人以外で普通に話せる、貴重なソンジアだったのに。彼と話すのを楽しみにしてたのに。


「……さん!イザベラさん!」


 突然、誰かが走り込んできた。ベンだ。

 少しゆがんだ顔でこちらを見つめる。全身びしょ濡れだ。もしや走ってきた……?


 あわてて立ち上がり、距離を置く。

 

 「もうわかったでしょ。私が鬼のシャーリーよ。どうせあなたも私が怖いでしょ。でも仕方がないでしょ、みんな適当な生類ばかり持ちこむんだから。優しくしたら舐められるし、もううんざり!」

 

 「違う、そうじゃなくて!」


 ベンが慌てたように言葉を遮る。


 「自分、イザベラさんに謝りたくて。鬼のシャーリー女史なんて言って、そして仲間と騒いでて。申し訳なくて」


 「え?」


 「自分わかっています。イザベラさんが本当は優しいこと。だからシャーリーさんと結びつかなくて」


 どういうことなのだろうか。私が本当は優しい?


 「初めて会った日、あなたはデスクに戻ると言っていました。でも向かったのは書庫とは反対側、城門の方です。あなたは、自分に気を遣わせないように嘘をつきましたね?本当は帰宅途中だった」


 どうしてそれを……。


 「そして、その次に会った時も、真っ先に体調を気にしてくれた。ただの通りがかった奴のことなのに。それに……」


 ここで彼の頬はうっすらと赤くなった。


 「雨上がりの花をあんなに優しい目で見つめるあなたが、どうしても冷徹な女史だとは思えなかった。でも今、あなたの態度の理由を聞いて納得しました」


 私の頬も、今そこに生えているポピーくらい赤いだろう。


 「だから、あなたの話をもっと聞かせてください。……もう少し、雨が止むまで」」

 

 私が小さくコクンとうなずくと、彼の顔がほころんだ。


 日の光が差し込んできて、まるでいつかの再現のようだった。



「ええ、もう少し、雨が止むまで、なら」



 そうして私達はにっこり笑い合った。



 

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