ダンジョンへ

 茜のその後の人生を見て、俺は絶句する。

 あんなに明るく笑っていた茜。

 それが光を失った眼をして『【命】の復讐者』と呼ばれていたことに。


 あいつにあんな顔は似合わない、あいつはいつだって笑っていた。

 バラエティ番組を見ては、腹を抱えて笑っていたのだ。

 悪戯っぽい顔をして、俺の女装姿を見ていたあの茜が……


 俺が深く思考してると、女神さまが申し訳なさそうに声をかけてくる。

 なんだ? と訝しむ俺に驚きの言葉をかける。



『それで、ですね。彼女の死後、願いを叶えてあげようと思ったのです。そして、アカネさんをこちらの世界で転生させたんですよ。ただ、彼女は混乱していて、私の言葉を聞いてくれませんでした。どうか彼女の下に向かって、彼女を儀式の間に連れて来てくれませんか?私は彼女に再度謝罪し、彼女へ自身の能力を説明をしなければなりません』


「茜がこの世界に、転生している……? い、今、茜はどこにいるんですか!?」


『王都の街から出て、やや北東の森の中にダンジョンの入り口があります。その最深部で今も膝を抱えて寝ております』


「すぐに茜の下に向かいます。女神様、お茶ありがとうございました!」


『待ってください! ダンジョンは自動迎撃モードに入っています。侵入者は容赦なく攻撃されます。あなたにそれに対抗するための力を授けたいと思います』


「ありがとうございます。魔法の力でサクッと最深部まで行きたいと思います」


『あなたの能力は他の人に比べると強すぎます。そのため、大部分はほかの人に見えないように隠蔽させていただきます。その方があなたも動きやすいでしょうし』


「なにからなにまでありがとうございます」


『ダンジョンに向かうまでに『ステータス』と唱えてください。自身の能力を確認できます。意識すれば、ほかの方に隠蔽されていない能力が見えるようになっています。ですが、基本的には隠し通した方がいいでしょう』


「わかりました。では、茜の救出の向かいます。ここから出してください!」


『合流出来たら、また儀式の間に来てくださいね。それでは、また会いましょう』



 俺の視界は暗転して、気が付いたときには儀式の間だった。

 時間は経過してないようだな。ありがたい。まだ昼前だ。

 急いで茜の下に向かいたい。


 俺は儀式の間から大声を上げて、自分の護衛を呼ぶ。

 大股で部屋から出て、彼らと視線を合わせる。



「ヤン! シャフリ! クリス! ペティ! いるかっ!?」


「お、なんすかなんすか!」

「はっ! ここに!」

「何事ですか!?」

「な、なんですか!」


「今からダンジョンに向かうぞ!」


『は?』


「馬車の用意をしてくれ、急ぎでだ! 頼む!!」

「わ、わかったっす!」


「ディーノ、どうしたのだ! 突然、ダンジョンとはどういうことだ!?」

「父上、すいません。急いでいるので、詳細は後ほど」


「ダメだ! ある程度は話していけ!」

「俺の『幼馴染』がここから北東にあるダンジョンにいます。儀式の間に連れてくるように女神様に言われました」


「場所はわかっているのか? 下手な無駄足を踏むようであれば、俺は止めるぞ!」

「大丈夫です、そのための力も女神様から授かりましたから」


「女神さまから直々にだとっ!?」

「はい。では、急いでいますので、失礼!」


「うむ、なるべく支援できるように待機していよう」



 話がわかる人で助かる、ありがとう父上!

 城門まで向かうと護衛の四人が、馬車の用意をしてくれているのが見える。



「荷物は最低限でいい。最速でダンジョンを攻略するぞ!」


『はっ!』



 俺は馬車に乗り込み、御者にとりあえずの向かう方向を告げる。

 あとは魔法で調整して進むつもりだ。



「北東にある森に向かってくれ。目的地が近くなったら、その都度指示する!」


「はっ!」



 俺は馬車の中でステータスを確認しながら魔法を使う。


 よし、これならいける!


 目的地を意識しながら探索魔法を放つ。

 俺が今まで努力した魔力量で、広範囲に探索が進む。



「サーチ!」



 頭の中に現在地と目的地の簡易マップが表示される。

 黄色の点がどうやら目的地のようだ。

 青色で移動してるのが俺たちか、赤色が敵性生物かな?


 今は街道に沿って移動している。

 目的地までの敵性生物はなるべく無視したいのだが、そうもいかなそうだ。

 俺は窓から顔を出し、護衛に前を開けるように告げる。



「前を開けてくれ、邪魔だ!」


「何するつもりっすか!」

「こうするんだよ! ファイアミサイル!」



 炎の弾頭が敵性生物に向かって飛ぶ。

 ゴブリンのような魔物を爆散させた。

 だが、高威力の炎の魔法を使ったために、火事になりかける。



「これはっ!? スプラッシュ!」



 シャフリが慌てて消火活動をしてくれる。

 クリスが俺に注意する。



「ディーノ様、このような場で火は厳禁です! 火事になります!!」


「す、すまない! 魔法のイメージがまだうまく掴めてなくて……」



 だが、これで目的地までの敵性生物は消えた。

 もう少し街道からダンジョンに近い位置まで馬車で移動する。

 待っててくれよ、茜! 今、助けに行くからな!!





 そして、ダンジョンに一番近い位置まで街道を走り、馬車を止めてもらう。

 馬車を守る人員とダンジョン攻略とでメンバーを分けなければならないな。



「シャフリ、ペティは馬車を守っていてくれ。すぐに帰ってくる。ダンジョンもここから近く、深くもないようだ。ヤンとクリスは俺についてきてくれ。最速でダンジョンを攻略するぞ!」


『はっ!』



 俺の足では、森の中の移動は遅い。

 そういうわけで、ヤンに背負われて移動することに。

 方向を指示し、すぐに洞窟の見た目をしたダンジョンが見つかる。



「ホントにダンジョンがあるっす……」


「新規のダンジョンなんて、危険すぎます!」


「いいから行くぞ、時間が惜しいんだ。ライト!」



 ダンジョン内は少しは明るいが、それでも薄暗い。

 俺は明かりの魔法を使い、ダンジョン内部を照らす。

 光に驚き寄ってくるのか、蝙蝠が襲ってくる。



「邪魔だ、どけ! ウィンドカッター!!」


「すげえ、もう魔法を使いこなしてる……」

「感心してないで行くぞ。ダンジョン内もマッピングできているからな」


「マジっすか!? 冒険者パーティに一人は欲しい存在っすね、ディーノ様」



 俺たちはどんどん階段を降り、五階層に来た時だった。

 大量のスケルトンが何かを守るように、目の前にいた。

 さすがのヤンもクリスもこれには危険だと俺に訴える。

 だが、俺は止まらない。


 大声をあげて、奥にいるであろう茜に日本語で声をかける。



『茜ええええ! そこにいるんだろ!? こいつらをどけてくれ!! 一緒に帰るぞおおおお!』


「な、ディーノ様!?」


「何言ってるかわかんないっすけど、大声はさすがにやばいっすよ! ほら、スケルトンたちが一斉にこっち向いたっす!!」


「ヤン、クリス! 泣き言をぬかすな、俺の護衛ならこの程度はくぐり抜けてみろ! トルネード!!」


「ぐっ、すごい風っす!? スケルトンが一掃されていくっす!」


『茜ええええ! こいつらをどけろおおおお!!』





 Side :茜


 ……今、私を呼ぶ声が聞こえた気がする。


 すごく懐かしい気分にさせられた。でも、彼じゃない。

 だって、薫はもういないんだから。



「……かねえええ、こいつらをどけろおおおお!!」



 日本語!? 気のせいじゃない、誰かが私を呼んでる!!

 この世界に私の名前を知っている人はいない。

 それに、日本語だ!

 なら、私の知っている人!? ホントに、薫なの!?



「薫、なの? 薫、薫ううう!!」


「茜ええええ!!」



 薫らしき人物は大量の骨人形に邪魔されている。

 スクリーンに状況が映されている。

 ど、どうにかしなきゃ……!

 薫はダンジョンの自動迎撃モードとやらのせいで攻撃されているようだ。


 急いで解除して、カオルに会いたい!


 たくさんのスクリーンの中から目的のものを見つけ出す。

 よし、これだ!!



『自動迎撃モードをオフにしますか?』


「もちろんYESよ!!」



 うるさかった広間が静かになった。


 よし、これで薫に会える!


 そして、私が見たものは……




 ちんちくりんな少年だった。

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