女神様との邂逅
新年を迎えて、五歳になった俺は儀式に挑む。
そんな俺の髪にウキウキで櫛を通すのはナンシーだ。
俺の髪は長い。
もうウィッグいらずの女の子と同じ長さだ。
この黒髪の艶を出すのがナンシーはとても楽しいらしい。
俺は一度鬱陶しいからと髪を切ろうとした。
だが、タイミングが悪いことにナンシーに見つかってしまった。
切らないでほしいと泣きながら懇願され、俺は髪を切ることを諦めた。
その後、母上やほかの王宮メイドたちに厳重注意され、今の長さに至る。
風呂の後の髪の手入れもナンシーに任せて、俺はされるがままだ。
「今日は儀式でございますね。私は同伴できませんが、ディーノ様ならきっと女神様と会えますよ!」
「あ、ああ、そうだな」
「~♪」
昨日からこの調子である。実際会えないかな? とは思ってる。
今日は教官を呼んでも姿を現してくれない。
女神様のとこに行っているのかもしれない。
軽く朝食を済ませて、みんなに「おめでとう」と祝われた。
儀式の手順を父上と確認する。
今日の俺の格好はさすがに神を欺くのはよくないと、女装はしていない。
だが、宝塚を彷彿とさせる男装をしていると言わんばかりの格好である。
「大丈夫か? ディーノ」
「大丈夫です、父上。何事もなく終わりますよ」
「お前のことだから何かありそうで不安なんだよなあ」
「ハハッ、大丈夫ですって。たとえ女神さまに会っても、挨拶して帰ってきますよ」
「それはそれでどうなんだ、お前?」
男装してる俺には、さすがに父上もディーノ呼びである。
久々すぎて違和感を感じてしまう。
さて、いよいよ俺も魔法使いデビューである。
これまでの努力をいかんなく発揮したいね。
家族を伴って儀式の間に向かう。
「では、儀式を行います。ディーノ様、こちらへ」
小声で頑張れ! などという家族に苦笑しながら、女神像の前で膝をつく。
両手を組み、祈りの仕草に入る。
すると、突如閃光のような眩しさに儀式の間が包まれる。
「なっ!?」
声を上げたときには、すでにそこは儀式の間ではなかった。
あまりに広い白い世界、目に眩しい。
もうちょっと明度を落としてくれないかな? なんて思っていたら……
『す、すいません! 明るすぎましたね。ちょっとだけ暗くしますね』
「ああ、はい。ありがとうござい、ま、す」
声がした方に振り返る。
豊かな金髪にローマ時代の貫頭衣? のような衣服を着た、背中に白くて大きな翼が生えている女性が立っていた。
どちらさま? と思っていると、教官が視界に飛び込んでくる。
教官も俺と同じように成長しているらしく、今では立派な女の子だ。
女の子だよね?
『あなたと違ってちゃんと女の子ですよ、失礼な。それよりも、女神さまの御前ですよ、何か言うことがあるのでは?』
「えっと、こんにちは? いや、まだおはようございます、か?」
『あなたは本当にこういう時、ポンコツですよね……』
『こら、ポンコツだなんて、失礼でしょ? 長い話になるでしょうから、まずは座って話しましょ?』
気が付いたら目の前に椅子とテーブル、お茶も用意されていた。
ここはどこなんだろ? と思っていると女神様が答えてくれた。
『ここは神界にとても近い場所ですね。あなたの世界で儀式を行う際にたまに人を呼び出す空間です』
「なるほど、どうして俺は呼ばれたのでしょうか。それと、あなたは女神さまでいいのですよね?」
『ええ、私はこの世界で創造を司る女神キリシアです。あなたを呼んだのは謝罪のためです』
「謝罪? 何かしましたっけ、俺?」
『あなたが、ではありません。私があなたに謝らなければならないのです』
女神様の話ではこうだ。
神々も自分の世界が安定するととても暇になる。
そして、違う世界の神々と交流をする。
自分の世界の発展のアイデアを探すために、別の世界に遊びに行くそうだ。
その中で、地球の男の娘カフェにハマったのが、この女神様。
偶然にも俺を見つけ、ひっそりと交流していたそうだ。
気付かなかった。いや、当たり前か。
俺も一般客をじっくりと鑑賞したりしないしな。
女性客が来てもたまに来るな程度で終わってしまう。
女神さまはそんな俺のことを調べ上げ、観察して楽しんでいたそうだ。
現地のファンとも交流して、男の娘カフェを楽しんでいた。
だが、そこであの男が出てくるのだ。
俺のことに詳しい女神様が、あの男に誘導尋問をされた結果……
あの男は俺の個人情報を掴み、あの場に現れ、俺を殺したんだとさ。
女神さまは下界では、人間に干渉することはできない。
そのため、男を止めたかったが何も出来なかったそうだ。
その後、地球の神様にこの事を話し、あるお願いをすることになる。
俺の魂を自分の世界に転生させたいというお願いだ。
地球の神様も俺のことを不憫に感じてくれて、それを了承する。
次こそは幸せな生であるようにと願いながら……
うっかりすぎる、この女神様……
この世界、大丈夫なのかと心配してしまう。
『本当にごめんなさい。あなたが殺された時には、せめてと思ったのです。地球の神に願い、私の世界に転生させました……』
「なるほどなー、そういう流れだったのか」
『私はあなたの幼馴染のアカネさんの人生をも変えてしまったのです。アカネさんの死後に謝罪をして、この世界に転生させましたが……』
「あ、茜!? 茜の身に何があったんだ!? 人生を変えたって、何をしたんだ、アンタ!! それに、転生って!?」
『お、落ち着いてください。まずは、アカネさんのその後の人生を振り返って見てみましょう』
そう言って、周囲が暗くなった。
これから俺の幼馴染、茜の人生が映像で再生される。
場面は俺が殺されたところかららしい。
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