二つの魔道具店
グリッジ魔道具店に入った俺たち。
店員が目ざとく、いいとこのお嬢さんだろうと目を付け近寄ってくる。
「ようこそグリッジ魔道具店へ、何をお求めですか?」
「まずは全ての商品を見せてください」
「はい、ご用があればなんなりとお呼びください」
(内心冷やかしかって思ってるんだろうな、表情に隠しきれてないよ。護衛二人がヒリついてるからやめてほしいな)
「さてさて、何があるかなあ?」
ふむ、この周辺は洗濯機かなあ?
あと、外で使う湯沸かし器みたいなのもあるな。
生活に密接したのが売りなのかな?
洗濯機は同じ大きさで、もうちょっと大容量にできそうかな?
ついでに乾燥機も作れそう。
外で使う湯沸かし器は、話に聞く冒険者たち用かな?
これはもうちょい小型化できそうだよなー。
ランプも反射板が存在すれば、もっと明るくできそう。
ちょっと話を聞いてみるか。
「あの、この洗濯の魔道具は、この大きさが限界なんですか?」
「ええ、どうしても魔石の関係上、これ以上の大容量化は不可能です」
(ふ~ん、不可能って言い切っちゃうんだ。企業努力が足りないんじゃない?)
「これと同じような形で乾燥の魔道具も作れそうですよね?」
「乾燥の魔道具? そんなものが必要でしょうか? 陽の光に当てて、乾かせばよろしくありませんこと?」
(あ、ダメだこの人。家事しない人みたいだ。天候のことを考えていないや)
「この湯沸かしの魔道具は小型化しないんですか? 冒険者の人とか喜びそうですけれど……」
「力のある冒険者のためにわざわざ小型化する必要がありますか? というか、さっきからなんなんですか? 商品に文句をつけるだけなら出ていってくださいませ」
(あ、イライラさせちゃったかな? 護衛の二人もイライラしてるし、ここはダメだ。もう店を出よう)
「わかりました、失礼します」
「二度と来ないでくださいまし」
「なんだ、あの店員? やる気あんのか? てか、お嬢に向かってなんて口の利き方するんだ」
「抑えろ、俺も我慢してるんだ。本人が一番悔しいだろう」
「いや、悔しくないし。努力を怠ってたら、店が大きくてもそこまでだなあって印象だけはついたけどね」
「それもそうっすね。馬車を呼んでくるわ、護衛頼んだぞ!」
「ああ、任せろ。もう一件の方はまともだと助かるんだが、ハア」
「まあ、ドワーフって聞いてるから、モノづくりには自信あるんじゃない? お父様は寂れているって言ってたけど」
護衛に馬車を呼んできてもらい、もう一件の魔道具店へ向かう。
(ドワーフかあ、小説の中だと気難しい性格で描写されてることが多いんだけど、期待していいんだろうか……?)
たどり着いた魔道具店はギリギリといっていいレベルで店の形を保っていた。
「随分とボロいな。大丈夫なのか、ここ?」
「行くしかあるまい」
「こんなとこに馬車を置いてたらほかの店の邪魔になっちまう。ちょっと遠くに置いてきますぜ、お嬢様」
「あ、うん。いってらっしゃい」
俺の言葉ににこやかに去っていく御者さん。
護衛の二人がなんか羨ましそうな表情をしている。
おおかた、俺も言われたいなとでも思っているんだろう。
「さっ、中に入るよ!」
「あ、お嬢。俺が先に入りますよ」
軽薄そうな護衛さんが先に店に入っていった。
それと同時に怒鳴り声が聞こえてきた。
「あぁん?! うちに何の用だ! 冷やかしなら帰ってくれ!!」
「あぁ?」
「どおどお、喧嘩腰にならないで」
「落ち着け、馬鹿者」
真面目そうな護衛さんと二人がかりで軽薄そうな護衛さんを抑える。
どうやらこの店のおっちゃん、酒が随分入っているようだ。
イライラしているようにも見えるが、手は震えていない。
ただの酒好きか、そらドワーフだもんな。
イメージそのまんまだ。
「こちらではどんなものを作っているんですか?」
「言われたら何でも作ってやるぞ。嬢ちゃんは何しにこんな辺鄙な場所に来た?」
「へえ、何でもね……。とりあえず、お店のものを見せてもらえますか?」
「はっ、勝手に見ていってくれ。どうせ嬢ちゃんのような子にはわからんよ……」
そう寂しそうに言って、酒に口を付けるドワーフ。
名前はなんだっけ? ゾロだったか。
とりあえず許可は出たんだし、物色させてもらおうかな。
「~♪」
「お嬢は物好きだなあ……」
「口を慎め。それにしても、普通の武器は置いていないんだな」
「はっ、お前さんなんぞにワシの作品は理解できんだろうよ!」
「むっ!」
後ろで喧嘩が起きそうな雰囲気だが、無視だ、無視。
なんか色々あるな、なんだろこれ?
光線銃っぽい形してるけど。
「おう、嬢ちゃん気をつけな。そいつは火と風の魔石を組み合わせた遠距離武器だ。火が出るぞ」
「うわわ、なんて危ないものが転がってるんだ」
「ハハッ、安心しな。魔石は抜いてある。今は火なんぞ噴かん」
ゾロのおっちゃんにジト目を向ける俺。
あれ? 待てよ? これって、要はドライヤーじゃないの?
世の女性たちが一つは持っているはずの。
なんだか楽しくなってきたぞ?
意外と面白いものが見つかりそうだ。
「今度は何だろ? 随分と小さいけど?」
「そいつはな、ここを押してる間にしゃべった言葉を記録するんだ。それで、今度はこっちを押すと、記録した言葉をしゃべる魔道具だ」
「なんでこんなものが……」
「魔法学園の学生が講義で寝てしまうからと講義の音声を記録して、あとからでも勉強できるようにって頼んできたんだ」
「へえ、魔法学園ね?」
「しかしな? 結局、そいつは記録した声を聴いても寝たそうだ。高い金払って作ってもらったのに、無駄になったって売りに来たんだよ」
「なんて馬鹿な奴……」
「同じように講義風景を記録して、壁に投影しようとした奴もいた。壁にきれいに映らない上に声が入ってないから、こちらも意味がなかったようだがな」
苦笑いしか出ない……
ん? でも、この二つを組み合わせれば、ゲーム機が作れるんじゃないか?
試しに聞いてみるか。
「ねえ、おじちゃん」
「お、おじちゃん!?」
「この二つの魔道具の魔石の魔力消費量ってどれくらいなの?」
「この魔道具たちの魔力消費量はかなりえぐいぞ。魔石に魔力がいっぱいに入っていても、時間にしてひと鐘分も保てないぞ」
「ふーん、問題は魔道具の魔力の消費量か」
(魔力の消費量を抑えたら、次は魔石の在庫問題か。これは教官に相談だな)
「何かあるのか、嬢ちゃん?」
「う~ん? 魔力の消費量がどうにかなれば、一気に人気商品になりそうなんだよね……。特に貴族の人たちに。場合によっては、冒険者にもウケるかな?」
(冒険者が使うには広い場所が必要かな? お店を作るにしても、土地の問題があるかな。これは父上に相談っと)
「嬢ちゃんはなに者なんじゃ……?」
「まあ、今は私のことは置いておいて……。ねえ、おじちゃん! この二つの魔道具の魔力消費量をどうにか抑えてくれない? あと、さっきの火が出る魔道具もちょっと改造して!」
「なんじゃ!? いきなり!」
俺は目を輝かせて、このおっちゃんを利用することに決めた。
技術力はあることはわかったんだ。
かなりの拾いもんだ。
こんな寂れた店に置いておくなんてもったいないぜ。
最終的には、職人たちの親方的な立ち位置になってもらおうかな?
「ねえ、おじちゃん。この魔道具ね、火を出すんじゃなくて、温風を出せるようにできないかな? できれば、強弱も付けて。理想を言えば、冷風も出したいんだけど」
「ほお? なんのためにそんなことをするんじゃ?」
「髪を乾かすためだよ! 女性は髪を乾かすのが大変なんだから!」
「お、おぉ? だが、布で拭くだけで十分じゃろ?」
「ちっちっち、わかってないなー、おじちゃん。早く乾燥させるだけで、髪や頭皮に負担をかけないんだよ! 女性は綺麗な髪でいたい、男性は髪が減るのを防げるんだから、そうすればこれは売れるよ!」
「そ、そういうもんか……」
「うん、そういうもの!」
さて、もうひとつくらいはアイデアを出して、今日のところは帰ろうかな?
同じようにしたら、あれも出来るでしょ!
俺の中のイメージなら作れるものがある。
このおっちゃんになら、たぶん作れると思うから期待したいね!
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