第378庫 ギルド対抗戦(予選) その3

「ナコ、我の妃にならないか?」



 思わず、僕とナコは――顔を見合わせる。

 以前、ゴザルにも似たようなことを言っていたが――フレイムは芯の強い女性が好みなのかもしれない。


「少し訂正する、今の我の立場から妃という言い方はおかしいか。妻、嫁、伴侶なんでもいい――我はお前が気に入った。未来を想起させる整った容姿、間違いなく絶世の美女になるだろう」

「ゎ、私、告白なんて――初めてされました」


 予想外の一言に、珍しくナコが狼狽えていた。


「価値のわからぬものが多いのだな。ミミモケ族というくだらんフィルターが、どうしても人の目を曇らせるか」

「フレイム、君は――ミミモケ族を奴隷として見ないんだね」

「触術師クーラ、我の国では実力が全てだった。ミミモケ族という理由だけで、優秀なものを除外するなど言語道断だ」


 フレイムらしい、納得の理由であった。

 むしろ、会話できていること自体が不思議な感覚もある。戦闘狂の王、根本的な部分は変わらないけれど――雰囲気が違う。

 生変による後遺症か、あるいは――別のなにかか。


「ナコ、返事をくれ」

「お断りします」

「はっはっは、即答できたか。その真っ直ぐな瞳から察するに、心に決めたものがいるようだな」

「クーラです」

「名前まで形にしたとなると、我も先ほどの質問に答えるべきだろう。人を殺す時、なにか感じたり、考えたりするのか――だったか」


 フレイムはゆっくりと口を開き、


「この世界では、殺し殺されるが――当たり前なのだ」

「私も、そこは理解しています」

「笑わせるな。微塵も理解しておらぬだろう」


 フレイムがナコの言葉を――断ち切る。


「今の質問がでること自体、お前がプレイヤーだからこそ、最初から持っている意識が異なるからこそ、という点がある。すぐに塗り替えられるものでもないが、そのようなことでは強者相手に敵わぬぞ」


 世界観が違う、とフレイムは言う。


「無作法者もプレイヤーなのだろう? やつは、すでに――この世界の真理に行き届いている。徹底した覚悟、意識、この世界の人間となんら変わりない。それに比べてお前はどうだ? まだ甘っちょろいことを言っているのか」

「……っ」


 ナコが口ごもる。

 なにも、言い返せない――ようだった。今の言葉はナコだけでなく、僕にも突き刺さる部分がある。

 フレイムが派手に敵を殺し回ったのも、なにかを僕たちに伝えようとしてくれたのかもしれない。


「気高く堅固な精神を持て、我らは今共闘している。お前が足を引っ張ることは、我の不利益にも繋がるのだぞ」

「すいませんでした。変な質問をしてしまって」

「構わぬ」


 フレイムは微笑しながら、


「先ほどの話に戻るが、心変わりしたらいつでも言え。このギルド対抗戦で触術師クーラが息絶えるという可能性もあるからな」

「そんなついでみたいな流れで、死んでたまるもんか。ナコは渡さないからね」


 ゅ、油断できない。

 僕はナコを抱き寄せ、強く表明するのであった。

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